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2021.07.11

ライフ

【後編】山田孝之はなぜ畑を始めたのか。孤高の俳優の魂に回帰するロングインタビュー

〈前編の続き〉
自給自足の生活を文字どおり手探りで目指す、山田孝之の新プロジェクト「原点回帰」。

前編では、山田さんが自然農法にこだわる理由や、ネガティブをポジティブに変える“仕事の流儀”を深堀りした。
後編では、畑に足を踏み入れたことで見えてきた現実や、“理想の島”で実現したいことなど、山田さんが描く未来とその原動力の源泉に迫った。
 

畑だけじゃなく、森や海とも繋がっていた

「原点回帰」では、山田さんが各業界の匠を次々に訪ねて対談し、メンバーと一緒に自給自足に必要な知識や技術を学んでいる。
その匠というのが、畑で自然農法を教えてくれている“菌ちゃん先生”こと吉田俊道さんや、「野口のタネ」の野口 勲さんだ。

「自然農を始めるにあたって、吉田先生や野口さんと対談しましたが、2人が口をそろえて言ったのは、『農業のことだけを考えれば済む話じゃないんだよ』ってことでした」。
一体、どういうことか。
「僕は農薬を使いたくないから自然農を選びましたけど、このあたりは鹿が降りてくるんですね。畑を荒らす存在だから、僕らにとっては “獣害”になるんですけど、なんで鹿が降りてくるかというと、森に食べものがないからなんです。
じゃあ、なんで森に鹿のエサとなる植物が育たないのかと考えると、日本の森が抱える問題に辿り着くんですよ。そして、森は雨をとおして海に栄養を供給し、プランクトンを増やす存在でもある。だから、森に問題があれば、海の生態系にも影響するんです」。
畑も森も海も、自然界では深く繋がり合っている。当たり前のことなのに、その当たり前のことを忘れ、人間は自分たちに都合のいいペースで生きてしまう。
便利さと引き換えに、人間が失ってしまった原点に回帰する――これこそが、山田さんのプロジェクトの目指す先なのだ。

「地球で生きてるってことを、つい忘れませんか?」
山田さんは我々にそう問いかける。
「例えば、田舎に行くと自然だけしかなくて、何もないように見えるじゃないですか。でもそれって、人のスピードで生きてるから見えてないだけなんですよ。木だって息をしているし、草も毎日成長している。枯れて倒れた木が土に還るとか、森の実を鳥が食べてフンが土の栄養になるとか。
都会だと、人と人が気を遣い合いながら生きてるだけに感じてしまう。もう少し地球のペースで生きるほうが僕は健全だと思ってます」。


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