37.5歳の人生スナップ Vol.138
2020.12.06
LIFE STYLE

マシンガンズ・滝沢秀一が“ごみ清掃員”になって見つけたサステイナブルな生き方

「37.5歳の人生スナップ」とは…… 

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テレビのお笑いブームに乗って、芸人として順風満帆の日々を送っていたマシンガンズの滝沢秀一さん。

しかし、ブームの終焉とともに仕事は激減。そのタイミングで妻の妊娠が発覚し、知人に紹介してもらったバイトを始めることに……と、滝沢さんが“ごみ清掃員”になるまでの経緯を振り返った前編

今回は、滝沢さんが“ごみ研究家”になっていく姿を追う。

 

身体疲労とメンタル不調の悪循環

ごみ清掃員は決して楽な仕事ではない。早朝に出社し、ルートを確認したら、ひたすら収集所を回って走ったり歩いたりしながらごみを回収する。休憩や昼食を挟み、夕方まで作業を繰り返す──そのハードワークの洗礼を、滝沢さんは初日に受けることになる。

「想像していたよりつらい仕事で驚きました。特に最初は、力の入れ加減もわからないから常に全力で走っちゃう。働き初めてすぐ、9月にペットボトルの回収を担当したときは、まじで熱中症でぶっ倒れそうになりました」。

こんなきつい仕事、芸人と掛け持ちで続けられるのか。だけど、ほかに職は見つからない。妻と子供を養うために、なにより自分がお笑いを辞めないために、やるしかなかった。

「とにかく仕事は意地でも休みたくなかったんです。たとえ体が動かなくても、『行けません』と言うのではなく、現場まで行ってから倒れてやろうと。出社しなければサボっていると思われるけど、出社さえすれば文句は言われない。日本が世界に誇る、ザ・根性論ですよ(笑)」。

そう言う滝沢さんだが、実際には笑えない状況だった。体が慣れるにつれて、今度は精神的なつらさが露呈してくる。自分は本当はお笑いの仕事がしたいのに、なぜごみ清掃なんかやってるんだろう。そう考えるとまた体が重くなる。悪循環だった。

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“ないもの”ではなく“目の前にあるもの”を見る

状況を変えたくて、滝沢さんはある行動に出た。ごみ清掃員の仕事を楽しもうと努めたのだ。言うは易しだが、好きでもない仕事を楽しめるものなのだろうか。

「自分の場合、ごみ清掃の仕事に対して完全に気持ちが閉じちゃってることに気付いたんです。目の前にある“ごみ”を見ようとせずに、『俺はお笑いでもっと……』みたいに、そこにないものばかり求めていた。ないものを求めてイライラするより、目の前にあるモノで楽しめることを考えたほうがよっぽどヘルシーじゃないですか」。

これまで見ているようで見ていなかったごみにあらためて視線を注ぐと、見えていなかったものが見えてきた。まず、ごみ出しのルール違反が気になり始めた。さらに見ていると、ごみが人格を帯びるようになった。

写真提供:滝沢秀一

「ごみ回収をしていると、わざわざ袋を破らなくても、回転板が回るときに袋のなかから生活の一部がにじみ出ます。そうすると、このごみを出した人はどんな生活を送っているのか、どんな人格の持ち主なのかがわかる。ごみって生活の縮図なんですよ」。

ごみ清掃員として目にした光景を、いずれバラエティ番組のワンコーナーで話せればいい。最初はそれくらいのノリだったが、ごみの観察を続けるうちに「なぜだろう」と考えることが増えた。地域によって出るごみが違うのはなぜか、そもそもなぜこれほど大量のごみが出るのか。

写真提供:滝沢秀一

仕事に対する姿勢が変わると同時に、ほかのごみ清掃員たちとの関係性も変わっていった。ごみ清掃員はごみ好きな人が多くて、飲みに行ってもごみの話ばかりしていると知った。そして、滝沢さんと同じように夢を追いかけている人、俳優や小説家の卵が少なからずいる。

滝沢さんが“ごみ研究”を本格的に始めたのも、そんな同僚のひとりがポツリと口にした言葉がきっかけだった。

「ある日、ごみ回収車で一緒になった運転手が『中防の寿命もあと50年だな』と言ったんです。当時はごみの知識が皆無だったから『チュウボウってなんですか?』と聞いたら、東京の中央防波堤埋立処分場の残余容量は、あと50年分しかないと教えてもらって。家に帰って調べたらその人の言ってたことは事実で、これはたいへんな事態だと」。

以来、ごみをめぐる環境問題にも興味を持ち、いろいろなことを調べて考えるようになった。物も人も、すべてがこれまでと違って見えるようになっていた。

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変わった自分、変わらない自分

そうやって得た気付きやウンチクを、試しに“ごみ清掃員あるある”としてツイッターで発信したところ、好評を得た。事務所の先輩の有吉弘行さんのリツイートでさらに拡散されると、やがて出版社から「本を書きませんか」と声が掛かった。

その後、ごみ清掃員の日常を赤裸々につづった書籍『このゴミは収集できません』(白夜書房)を出版。異例のヒットとなり、2020年秋には続編『やっぱり、このゴミは収集できません』(白夜書房)を上梓した。ちなみに、2014年に出版されたホラーサスペンス小説『かごめかごめ』(双葉社)も、ごみ清掃員としての実体験にインスパイアされて書いたものだ。

今、ごみ清掃員・研究家として再びメディア露出が増えた滝沢さんは、かつてのエンタブームでお茶の間を賑わせたマシンガンズ・滝沢とはまるで別人のように見える。

「そりゃあ変わりましたよ。まず仕事が変わった。ここ最近に限って言うと、ごみ清掃員の業務に加えて芸人としての仕事も“ごみ”に関するものばかり。ごみ関連が100%になりましたね。

あとは、生活スタイルがガラリと変わりました。早起きになったし、酒もほとんど飲まなくなったし、家族と過ごす時間が増えた。コロナのパンデミック以降は抵抗力をつけなきゃと、グルテンフリーと腸活も始めたんです。そのおかげか、なんか肌がめっちゃきれいになって。人に会うたびに肌を褒められてます(笑)」。

やはり別人……と思ってしまいそうだが、芯の部分はまったく変わっていないのだそう。

「自分は良くも悪くも真面目な人間なんだな、と。ごみ清掃員になるまでの自分も今とは違う意味で真面目だったんですよ。芸人たるもの、酒をいっぱい飲んで、破天荒に生きるべし! みたいなのを頑張ってやろうとしていたんじゃないか。振り返るとそんな気がします」。

変わった部分も、変わらない部分もあるけれど、現在の自分は嫌いではない。最後にそう教えてくれた。

「今はすごく気が楽なんですよ。ごみ清掃の仕事を始めて居場所が増えたのは間違いないので、今日はこっちでうまくいかなかったから、あっちで頑張ればいいや、みたいなことができる。

当面の目標は、この生活を続けながら、日本のごみ削減に尽力すること。ごみ清掃員と芸人の両立は、そのためにやってるんだ、くらいの気概があります。実現のために生活を変える必要があればそうするかもしれないけど、少なくとも昔の自分には戻りたくないかな。せっかくの美肌を手放したくないんです(笑)」。

プロフィール
滝沢秀一(たきざわしゅういち)●1976年、東京都生まれ。太田プロダクション所属。東京成徳大学在学中の1998年、カルチャースクールで出会った西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」で認定漫才師に選ばれるなどコンビとしての実績をあげつつ、2012年、ごみ収集会社で常勤を始める。2014年に『かごめかごめ』(双葉社)で小説家デビュー。2018年、エッセイ『このゴミは収集できません』(白夜書房)を上梓したあと、漫画『ゴミ清掃員の日常 ミライ編」(講談社)、絵本『ゴミはボクらのたからもの』(幻冬舎)を立て続けに出版。最新刊は『やっぱり、このゴミは収集できません』(白夜書房)。

「37.5歳の人生スナップ」
もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。上に戻る

岸良ゆか=取材・文 赤澤昂宥=写真

# 37.5歳の人生スナップ# ゴミ清掃員# 芸人
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