37.5歳の人生スナップ Vol.127
2020.08.25
LIFE STYLE

「頭じゃなくて腹で考えて行動したい」40代後半からの仕事のやりがいとは?

「37.5歳の人生スナップ」とは……

がむしゃらに仕事をした20〜30代を経て、40代を目前にした37.5歳。アートディレクターとしてデザイン会社を率いる原 大輔さんは、その年頃にスタッフの育成とチーム作りに取り組んだ。

それがうまくいってチームが順調に機能するようになったというお話を伺った前編。ところが40代半ば、安定を手に入れた原さんが起こした行動とは?

 

目に見えないものをデザインしたい

安定したが故に感じる退屈さ。もう自分にはやりたいことはないな、と半ば諦めて自らのキャリアのたたみ方を考えたという40代半ばの原さんの元に、飛び込んできた新しい仕事があった。

都市計画を担うコンサルタント会社からの依頼で、都市計画のコンセプトを街の人々にもわかりやすく伝えるための冊子を作るというものだった。そのクライアントとの対話で、原さんは驚かされたという。彼らが見据えている明日が、20年、30年先だったからだ。

「自分らの仕事はせいぜい来週か、来月、せいぜい1年後を考えているくらいです。彼らの仕事は人の営みをデザインするということで、考えている時間も次元も違う。そんな彼らとの仕事を通じて、2次元だった自分の仕事は3次元に展開できるし、まだまだ自分を拡張できるじゃん! と思ってワクワクしてきた。

それから、最初は彼らの話についていくためだったけど、結局自分の興味が膨らんで、思想や哲学、歴史など、40代後半からいろいろな本を読んで勉強し始めたんですよ」。

そして、原さんが特に刺激を受けたのが、都市計画のコンサルタントたちのその思考だった。彼らは都市という箱を作るために、その中の人間のことを考える。

「目に見えない人のつながりをデザインしたい」と考えた原さんが興味を持ったのが、パブリックスペースだった。地域の中に、人々が集う場所だ

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行動しないと感情が動かない

「あるとき、地方都市の課題について彼らとしゃべっていたときに、父親の実家の佐賀県有田市の話をしたんですよね。有田は焼き物という文化も歴史もあるのに街は衰退している、どうしたら活気が取り戻せるか、と。そしたら次の日に『原さん、実際に有田に行って街の声を聞いてみようと思うんですけど』と電話がかかってきて。マジで? と思ったんですけど(笑)、これは俺も一緒に行くしかないな、と」。

行動しないと感情が動かない、と原さんは言う。その言葉通り、彼らのリサーチに同行するうちに、原さんの中に挑戦したい気持ちが湧き上がってきた。

イメージしていたパブリックスペースを作ることで、停滞している街にひとつの動きを生み出せるのではないかと考えたのだ。

「都市計画のプロたちも、『いいんじゃないですか、それ!』と賛成してくれたんですけど、問題は誰がそれをやるかということ。彼らが『原さん、自分でやったほうがいいですよ』って言ったんですよね。最初は『イヤイヤ……』と思ったんですが、結局自分でやることに。

頭で考えたら無理だしナシなんですけど、腹の中では『ヨシ、乗っかってやるぞ』と覚悟ができてたんですよね。それで、銀行から1000万円借りて、有田に『Fountain Moutain』という名前のカフェを立ち上げました」。

2016年9月に佐賀県有田市にオープンした「Fountain Mountain」。(c)SLOW
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執着しない。手放すことで次に進める

『Fountain Mountain』は3年続けた。東京の人間が地方都市にやってきて作った場は、狙い通りに街に、若い人たちに刺激を与えることができた。

若いお客さんの中には、それぞれの夢に向かって独立して活動するようになった人が何人もいるそうだ。それでも手放したのは、やはり、外から関わることに限界があったからだ。

「地元に飲み込まれてダメになってしまわないように、客観的に関わることを狙っていたんです。だから東京でデザインの仕事をしながら、通いで有田のプロジェクトをやっていた。でもやっぱりそこにいないと分からないこともあったんですよね。それで、リモートで運営していくのは限界だなと感じて、地元の有望な若者に『Fountain Moutain』は譲渡しました」。

投資して自分が作った場を譲ることに、惜しい気持ちは全くなかったと言う。潔いと言うか、もったいないと思ってしまうが……?

「デザインすることを捨てたときに分かったんですけど、もったいないと思って執着すると、次に進めないんですよね。手放すことで余力ができる。それに、体験したことやそこから得た考え方は、自分の中に蓄積しているから、手放したと言っても何も残らないわけじゃない」

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がむしゃらな自分をもう一度取り戻しながら、若者を応援したい

その経験を手に、原さんが次に挑戦したのが、下北沢のコワーキングスペース「ロバート下北沢」だった。

「自分も若い頃に下北沢っていう街によく遊びにきてたんですよね。駆け出しの若者も受け止めてくれて、居心地良かった。今も、下北沢って若者が何かを求めて集まってくる街。自分もいろいろ挑戦してなんとかこの世界に生きてきたので、今度はそういう若者を応援したい」。

その若者への想いと「大人になったからこそ敢えて無茶をしたい」という願望とが合わさって新しい挑戦への原動力になった。普通、年齢を重ねれば安定を求めるだろう。でも原さんは「うまくいって安定すると、生きている実感がないから」と言う。

「がむしゃらなときって、俺今生きているな!って実感できるんですよね。中毒みたいなもんだけど、もう一回、若いときに感じていたそれを味わい直したいというのが、40代後半以降の自分がこうして働く理由なのかもしれないですね」。

 

原 大輔(はらだいすけ)●1970年長崎県生まれ。明治大学卒業後、インテリア業界に就職。Macに触れて衝撃を受ける。グラフィックデザイナーを目指し、デザイン会社に転職。2年の経験を積んで1997年に独立。食えない1年を経て、ライターやカメラマン仲間とともに仕事場を構え、活動する。2006年にデザイン会社SLOW inc.  を立ち上げる。街の中におけるパブリックスペースに興味を持ち、46歳の時に佐賀県有田にカフェ『Fountain Moutain』を作り、3年運営。50歳で下北沢にコワーキングスペース「ロバート下北沢」を作り、地域のパブリックスペースとしての発展方法を模索中。ロバート下北沢 Twitter @robert_smkt

「37.5歳の人生スナップ」
もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。鬱屈した思いを抱えているなら、彼らの生活・考えを覗いてみてほしい。生き方のヒントが見つかるはずだ。上に戻る

川瀬佐千子=取材・文 中山文子=写真

# 37.5歳の人生スナップ# コワーキングスペース# デザイナー# 下北沢
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