“職遊融合”時代のリアルライフ Vol.10
2020.08.17
LIFE STYLE

いい波に乗るための選択。海に面した別荘を持つサーファーのライフスタイル

「チリの家があるから、もういい波を求めて世界を旅する必要はない」。そう話すのは、サーフボードの輸入会社を経営するジェシー・フェーンさんだ。

彼がチリに別荘を立てるに至った経緯、そしてそこでのライフスタイルは、我々に「職遊融合」のあり方を教えてくれる。

 

国境を越えてさえ求めたいい波と築く暮らし

サーフボード 輸入会社経営 ジェシー・フェーンさんのチリ・クラニぺの家。
サーフボード輸入会社経営 ジェシー・フェーンさんのチリ・クラニぺの家。20年ほど前に購入したのは土地のみ。太平洋を見下ろす高台にある家は地元の大工に手伝ってもらいながらジェシーさんがみずから建てた。近年は離れも完成させゲストルームに使用している。

いい波に乗りたい。しかし仕事がある。いつの時代も「遊」と「職」の狭間で頭を悩ましているのが社会人サーファーである。

しかもこの悩みは本質的でグローバルスタンダード。日本だけでなく海外のサーファーも変わらない。なぜならいい波に乗るためには、波という自然のリズムに生活を合わせられるか否かがカギとなるから。いい波は週末にやってくるとは限らないからであり、そこでこのカギを手にするうえで2つの手段を講じるサーファーは多い。

ひとつはサーフィン関係の仕事に就くこと。もうひとつはいい波の前に住むことだ。

チリが誇るワールドクラスの波、プンタ・デ・ロボス。サンティアゴから南へ150kmほどにあるこの場所ではパワフルな波でのロングライドが楽しめる。
チリが誇るワールドクラスの波、プンタ・デ・ロボス。サンティアゴから南へ150kmほどにあるこの場所ではパワフルな波でのロングライドが楽しめる。岩が剥き出しの武骨な景色は見惚れるほどに雄大だ。

オーストラリアのシドニーに程近いビーチタウン、ナラビーンで育ったジェシー・フェーンさんは現在45歳。今もオーストラリアに実家がある一方、多くの時間をアメリカ・ロサンゼルス近郊の街、トパンガで過ごす。

自宅から海まではわずか。マリブという世界に誇る上質なサーフスポットも近い。仕事はオーストラリアからアメリカへサーフボードを輸入する会社のマネジャー。リモートワークが主であるため仕事時間は自分なりにカスタマイズでき、波がいいときは海に繰り出せるライフスタイルを築いている。

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いい波とともにあるシンプルな生活を送り続けるジェシーさん。一児の父でもある。
いい波とともにあるシンプルな生活を送り続けるジェシーさん。一児の父でもある。

さらに驚くのは、ジェシーさんは南米チリにも家を所有しているということ。聞けば20年ほど前、知人の世界的なレジェンドサーファー、デレク・ハインドさんから波のポテンシャルについて聞き、土地の購入をアドバイスされたのだという。

「当時のチリはまだサーフィン後進国。サーファーも全然いなかった。海は冷たく、波はハードだしね。でもその環境が僕には魅力的だったんだ。

カリフォルニアの海はいつも混んでいるから、他のサーファーと波を取り合うというストレスが待ち受けていることがある。そうした状況から逃れ、純粋にサーフィンを楽しむうえでチリは格好な場所なんだ」。

トパンガの家からチリの家までは丸一日をかけた旅路。まずはロサンゼルスからサンティアゴへ飛び、空港からタクシーでバスターミナルへ。そこから南へ6時間走り、ようやく沿岸の小さな町、クラニぺに着く。

現地へは年に2〜3回の頻度で訪れ、その都度2週間ほどの滞在を楽しむという。滞在中は「ほぼ何もしない」スローな生活。

波に乗り、10歳の娘との時間を大切にし、おいしい食事に舌鼓を打って、読書や、ときに友達との再会を楽しむ。テレビはなく、インターネット環境も良好ではない。その不便さが、逆にチリでの豊かな時間を約束してくれる。

ちなみに家は海に面しているが、波質はそれほど良くないらしい。それでもチリには5000kmもの海岸線がある。少しクルマを走らせれば、自然が剥き出しのコーストラインに良質な波がブレイクするスポットにアクセスでき、混雑知らずでサーフタイムが楽しめる。

「この家があるから、もう波を求めて見知らぬ場所へ旅に出かける必要がなくなった」と言うほど、ジェシーさんにとって意義深い場所になっている。

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人生の転換期となった世界ナンバーワンの職場

常にいい波に自分を置く。そうしたブレない人生は10歳でサーフィンを始めた頃から変わらない。幼い頃はコンペティションに夢中になりプロを目指した。トップアマとしてスポンサーを得るほどに活躍したものの、同国トッププロとなった同世代を見て自身の可能性の限界を実感。

進路を変え、20歳で母国のサーフィン雑誌「ウェイブス」の編集者に。そして3年後、同誌での活躍が目にとまりアメリカのサーフィン誌「サーフィング」から声がかかる。オファーを受諾して23歳で渡米。以来、カリフォルニアをホームにしている。

スケールの大きな自然も魅力のひとつ。快晴時の夜には、空一面を埋め尽くすほどに多くの星が輝く。
スケールの大きな自然も魅力のひとつ。快晴時の夜には、空一面を埋め尽くすほどに多くの星が輝く。

「渡米した1997年当時はサーフィン界も出版界も好況で、アメリカのサーフィン誌といえば世界ナンバーワンのメディアだった。そこで働けたことは、とても人生に大きな影響を与えている。

同世代のケリー・スレーターをはじめ出会えたサーフィン界で活躍する人も、多くの国を旅してサーフィンできた波も文字どおりワールドクラスだったしね」。

世界ナンバーワンの環境で経験した数々の“本物”は、まず世界観を広げてくれた。次に感性を磨き、いいものを世界基準で判断する力を与えてくれた。だから当時は未開の地だったチリに家を買えたのだ。

チリはビッグウェーブの宝庫。ロングボードに適したメロウな波が多いカリフォルニアとは違ったチャレンジングな環境が身近にある。
チリはビッグウェーブの宝庫。ロングボードに適したメロウな波が多いカリフォルニアとは違ったチャレンジングな環境が身近にある。さらにサーファーの数が少なく、誰にも邪魔されずに波と向き合いサーフィンできる環境もチリの魅力だという。

世界観の広まりは仕事にもいい影響を及ぼす。出版社を退社後、ケリー・スレーターを中心に生まれたブランド「VSTR」に携わるなど、編集者時代のキャリアが仕事を生み出してきた。現職もオーストラリアとアメリカをサーフィンでつなぐ仕事で、自身の人生が反映されている。

まさに「職」も「遊」もサーフィン一色。少しの曇りもないストレートでシンプルな生き方には、Airbnbなどのサービスが生まれたことで追い風も吹いている。今やチリの家は、不在時には「稼ぐ家」になっているのだ。どうやらジェシーさんの自由なサーフィンライフは、これからも安泰のようである。

 

牧野吉宏(W)、ジェフ・ラガッツ、スコット・サリバン=写真 momo takahashi=文

# サーフィン# チリ# 職遊融合
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