FUN! the TOKYO 2020 Vol.45
2020.06.11
LIFE STYLE

五輪メダリストとして、Uber Eatsの配達員として、TOKYO2020の先に見る未来

前編の続き

ロンドン五輪フェンシング銀メダリスト、三宅 諒。TOKYO 2020の延期を受け、スポンサー契約を一旦打ち切った彼は、「Uber Eats」の配達員生活を選択した。そんな彼の直近の目標は、宅配バッグを降ろし、今の生活から脱出すること。そして東京五輪への出場を果たすことだ。

2021年に向けて描くビジョンに迫った。

日本フェンシング界で唯一メダル獲得経験を持つ三宅諒選手(29歳)。

次なる展開は「言葉の剣士」

「練習が本格的に始動すると、Uber Eatsで働く時間もなくなっていくだろうなと思います。それでも収入は必要ですからね。次に考えているのは、例えばYouTube。アスリートとしてのメンタリティやフェンシングの技術をオンラインで発信していきたいと考えています」。

日頃から“言葉”を大切にしているという三宅。コロナ禍が終息したら、講演活動も積極的に展開したいという。

大学で文学部の哲学科を専攻していた三宅は、ファンから“ピスト上の哲学者”と呼ばれている。実際、インタビューの受け答えも常に理路整然としていて、発言には一切の迷いがない。とても29歳という若きアスリートのものとは思えないが、本人にその自覚はないらしい。

「久しぶりに『若い』なんて言われました! 僕なんて、アスリート界ではもうおじいちゃんですよ(笑)。男子も女子も、フェンシングのフルーレの平均年齢は22〜23歳。前線では18〜19歳の子も主戦力になっていますから」。

NEXT PAGE /

挫折知らずのエリートが歩んだ道

トレーニングを兼ねて配達員として働く三宅選手。©️コモンズ2

5歳でフェンシングを始めた三宅。そのキッカケには運命的なものを感じているそうだ。

「当時スイミングスクールへ通わされていたのですが、実は未だに泳げないくらい水泳が苦手でして。でも、辞めたいのに親に言い出せなかったんです。ただ、通っていたのがいろんな競技を教えるカルチャースクールだったので、『別の競技に移れば許してくれるかも』と閃いた。そこでたまたま選んだのがフェンシングだったんですよ」。

当初はスイミングを辞める口実で始めただけのフェンシングだったが、水泳とは打って変わってメキメキと上達。幾度となく日本一に輝き、21歳にして五輪銀メダルを首に掛けた。

「正直、挫折はしたことがないんです。メダルを獲るまで順風満帆のエリートコースでした。でも、メダルを獲ってからはたくさん苦労をしましたね。僕からすると、メダルを獲り続ける人はバケモノです(笑)。もちろん、自分もまた獲りたいし、勝ちたい気持ちはずっとあります。でも、モチベーションを保ち続け、さらに強くなるのは簡単じゃない。彼らはなぜそれができるのか。相当な努力と精神力が必要ですよ」。

三宅は「挫折と苦労は別物だ」と言うが、苦労を並々ならぬ努力で乗り越えてきたからこそ「挫折知らずのエリート」になれたのだろう。

現在はスポンサードもなく、周りには怪物もいる。それでもこの挫折知らずの剣士は、またひとつずつ困難を乗り越えていくに違いない。メダリストという大きなプライドにさえ固執せず、日々自転車を漕ぐ姿からは、やはり常人とは違う大器を感じざるを得ない。

NEXT PAGE /

将来の夢はロマンスグレーなおじいちゃん

現役選手としては年長者にあたる三宅。フェンシング界の未来をどのように考えているのか。

「実は、下の世代を育てたいとは特に思っていないんです。ロンドンで一緒にメダルを取った太田雄貴は引退後、日本フェンシング協会会長に就任し、改革を積極的に行っています。では自分には何ができるだろうと考えたときに、練習場の雰囲気だったり、練習メニューだったり、コーチや仲間との関わり方だったり、自然とみんなが続けていけるような、いい環境の整備をしていきたいと思っています」。

三宅はまもなく30歳を迎える。オーシャンズ世代の仲間入りをする今の心境はというと……

「30代には本当にワクワクしています。僕の将来の夢は素敵なおじいちゃんになること。フェンシング界ではもうおじいちゃんですが(笑)、ロマンスグレーの似合う人になりたいですね。いろんな知識や知恵を身につけて、いつか生まれるであろう子供や孫に受け継いでいけるような、素敵なおじいちゃんを目指しています」。

29歳にして老後のビジョンまで描いているとは驚きだが、話がファッションに及ぶと、「テッドベーカーのTシャツが好きで、イギリス遠征に行ったらいつもたくさん買ってくるんです!(笑)」と年相応な一面も。この自称・老剣士がどんな30代を過ごしていくのか、今後の活躍と併せて楽しみで仕方がない。

三宅はつい先日、さっそく有言実行。三宅諒公式YouTubeチャンネル『三宅 諒の履歴書』を開設した。フェンシングの魅力や上達のコツ、食生活やトレーニング方法など、自らの活動を中心に紹介していくという。

記念すべき初回はユニフォーム姿でUber Eatsの配達バッグを背負ったショットからスタートする。実に三宅らしい。

我々はまず、そのバッグを下ろす日を見届けようではないか。

 

七瀬あい=取材・文

# UberEats# フェンシング# 三宅諒
更に読み込む
一覧を見る