37.5歳の人生スナップ Vol.92
2019.11.06
LIFE STYLE

フリーターから日本一稼ぐ弁護士へ。「今を楽しめない人は一生楽しめない」

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「お金が手に入れば幸せになれる。そう信じている人は多いけど、お金が手に入っても幸せにはなれません」。

代官山の閑静な住宅街。都内でも有数の超高級マンションの一室に、弁護士の福永活也さん(38歳)の自宅はあった。ホテルさながらのフロントを抜けてお邪魔した部屋は玄関から地続きに真っ白な床が続く。少しイヤな言い方をしてしまえばまさに「成功者」の部屋だ。にもかかわらず、お金では幸せになれない、と福永さんは言う。

今年7月『日本一稼ぐ弁護士の仕事術』(クロスメディア・パブリッシング)という本を上梓した福永さんは、タイトルのままに弁護士業1本で、国税庁統計の所得レンジで最も高い5〜10億円に入ったこともある“日本一稼ぐ弁護士”のひとり。それ以外にアプリ開発や不動産投資など実業家としての顔も持っている。しかし実際に会ってみると華やかな経歴や自宅にはまるで興味がないというふうに、福永さんは気取った部分のまったくない人柄の持ち主だった。

「今は社会的に見ると、少しはいい暮らしをしているのかもしれない。でも僕はフリーター時代の日々にも満足していたし、楽しかったんです」

フリーターから弁護士へ転身して成功を収めた今は、ライフワークの一環として、冒険家としても活動するという人並みはずれた行動力の持ち主。そんな福永さんの謎の多い半生に迫った。


レンタルビデオ店でバイトをしていたフリーター時代

名古屋工業大学を卒業後、フリーターとして過ごしていた福永さん。4年次に就職を決めた住宅リフォーム会社はすぐ辞めてしまったという。

「何も考えずに入っただけだったので辞めるのも早かった。その後は近所のレンタルビデオ店で何の目的意識もなく働いていました。そこでもパッとしなくて、暇だからって勝手に店内のビデオとか見て、怒られたり(笑)」。

熱中する趣味もなければ、将来の夢があるわけでもない。打ち込むことがないなかで福永さんの生活の中心になっていたのは草野球だったという。

「高校までずっと野球部だったので、社会人の草野球チームに入りました。平日みんなでバッティングセンター行って騒いで、休日は練習して……。毎日楽しく過ごしてましたね」。

働き方も生き方も多様化する現代ではフリーターの印象も変わりつつあるが、10年以上前はまだまだフリーター=社会から外れた人という偏見は拭えなかった。

「フリーターしながら草野球やってると、将来どうするの?って聞いてくる人、必ずいるんですよ。でも当時からあまり気にならなかった。僕は周囲が言うほどフリーターが悪いことではないと思っていて、少なくとも自分としては楽しくて満足のいく生活を送れているわけだから、それの何がいけないのか、わからなかったんです」。

昔から他人と自分を比較することはほとんどなかったという福永さん。草野球とレンタルビデオ店を往復する日々という幸福な毎日を変える必要性は感じなかった。そして今もなお当時の生活を振り返ると「楽しかった」という思いがこみ上げてくることは変わらないという。

「重要なのは、そのときの自分にとって一番大切なことは何かを見定めること。当時の僕にとって、それは草野球だったし、野球のために生活していたようなものだったから、フリーターという時間にも意味があったと思えるんです」。

しかし、そこから一転して弁護士を目指したのは、一体何故だったのか。そう尋ねると「勉強が楽しいことに気づいてしまったから」という意外な答えが返ってきた。

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親友が裁判官になったことが転機に

「高校時代、野球部で3年間を共にした一番の友人が裁判官になったんです。一緒に遊びながらも、僕とは違う視点で努力を積み重ねていた彼のことをすごく尊敬していたし、彼の姿と、自分を初めて比較しました。努力すれば彼のようになれたかもしれない。身近だったからこそ、彼は僕に最も夢を与えてくれる存在だったんです」。

法曹界に興味を持つキッカケとなったのは、当時放送していたドラマ『カバチタレ!』の影響もあったという。主役の常盤貴子さんが行政書士の資格取得のために奮闘する物語だ。

「主人公が勉強を自主的に行う姿が輝いて見えて、人生で初めて真剣に勉強というものをしてみようかなと思わされました。そこでドラマのマネをして、行政書士の勉強をスタートさせたんです」。

自主的に勉強を始めると、それは意外なほど面白かった。見聞きしたことのない法律用語も、生活のツールになると思うといくらでも頭に入ったという。

「自主的にやるかどうかの意識の違いだけで、勉強の満足感を一気に得られるようになったんです」。

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将来のために今を犠牲にすべきなのか?

もっと法律の勉強をしたい。そんな気持ちから、ロースクールへの入学を決意。あえて慣れ親しんだ名古屋を離れ、友人も草野球も何もない大阪で法科大学院生としての生活をスタートさせた。

「人生でいちばん楽しかったのはいつ?と聞かれたら、迷わずロースクールでの3年間と答えます。司法試験の受験が苦しいと言う人は多いけど、それは勉強が試験合格のための手段でしかないから。弁護士になる目的のためだけに3年間勉強をしていたら、そりゃしんどいですよ。僕は目的として、ただただ法律の勉強がしたかったので、まったく辛くなかったんです」。

一方で、多くの学生が将来のために“今”という時間を犠牲にし続ける空気には、強い違和感があったという。

「廃人のようになって勉強する友人を見ていたら、そんなイヤな思いをしてまで今を犠牲にする必要はあるのかなと不思議でした。弁護士になることが満足いく人生のためだとしたら、今の3年間も人生の一部をつくる大事な一期間だし、楽しくなければおかしい。将来のために今をないがしろにしていい、という理屈は僕のなかでは通らないんですよ」。

勉強も職業選択も人生を楽しむツールに過ぎない。今を楽しまないロースクールの生徒たちの姿勢は、大きな疑問として残った。

「良い大学に入るために高校は受験に専念しよう、大学に入ったら就職のため、就職したら5年後10年後のポジションのため、いまを捨ててがんばりましょうっていうのがずっと続く人生っておかしくないですか? 楽しみを延々と先延ばしにしているうちに、どんどん人生を楽しむ習慣や人柄がなくなって、何も楽しくなくなってしまうと思うんです」。

今を楽しめなければ、たとえ目指しているものが手に入ったとしても楽しめない。それはお金においても同じ。福永さんは、そう考えていた。

3年後、見事に福永さんは司法試験に一発合格する。晴れて弁護士となってからの活躍は後編で。


藤野ゆり=取材・文 小島マサヒロ=写真

# 37.5歳の人生スナップ# 司法試験# 日本一稼ぐ弁護士# 福永活也
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