2019.10.16
LIFE STYLE

コールマン企画開発者・本田圭悟(39)が気づいた、ユーザーへの想いの届け方

【前編】を読む

2006年のコールマン入社以来、ダークルームやクラシックランプなどの人気プロダクトを生み出し、次々とヒットに導いた本田圭悟さん(39歳)。現在はプロダクトマネージャーとして企画開発の先頭を切るポジションだ。

水泳選手だった高校時代、アメリカでスポーツビジネスを学んだ大学時代を経て、コールマンに入社した本田さんだが、最初はギャップがあったと苦笑する。

本田さん

「日本のビジネスマナーはアメリカと違って、良くも悪くも体育会系(笑)。大学院でずっと勉強をしていたので営業という業種自体にも最初は戸惑いがありました」。

入社から2年営業を経験した後、本田さんは営業経験を買われて企画開発のセクションに異動した。仕事の第一歩は、あらゆる業界用語のインプットから。初めて手掛けた商品は、持ち運び式のカイロだったと懐かしそうに笑う。

「いまの主流は電池式カイロですが、当時は過渡期でオイルを染み込ませて使用するものが一般的でした。古くからある使い切りタイプのカイロですね。それで、僕が最初に作ったのは蓋を閉じることでガスを止め、使いたいときに使えるようにしました。これが初っぱな結構当たったんですよ(笑)」。

ポータブル イージー ウォーマー
本田さんが初めて手がけた商品「ポータブル イージー ウォーマー」。コンパクトな仕様と使い勝手のよさで人気となった。

快調な滑り出し……と思いきや、なかなかヒット商品を生み出せない時期もあった。自信を持って打ち出した製品が売れなかったときがいちばん辛かったという。

「そのときは自分なりの思いで作っていたけど、きっとユーザー目線が足りていなかったんでしょう。何を企画すればよいか、自信をなくした時期もありました」。

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LEDライトで得た、ユーザー心理を突く核心

手応えを感じたのは2014年ごろ、LEDライトを担当していたときだ。時代は蛍光灯からLEDに移り変わる最中。当時まだLEDライトには今ほどの明るさは備わっていなかった。

そんな中、主流が200ルーメンだったのに対し、1000ルーメンのLED製品が登場。当時のスペックとしては革新的だった。

本田さん

「でも、これと同じものを『コールマン史上もっとも明るい1000ルーメンです!』という打ち出し方をしても、おそらく売れないだろうと思いました」。

事実、スペックで売り込んでいた他社の売れ行きはそれほどでもない。そこで本田さんは“1000ルーメン”がユーザーにどんな価値を提供できるのか考えることにしたという。

「ちょっと調べたら1000ルーメンってワンマントルランタン(コールマンの人気ガソリンランタン)と同じ明るさなんですよ。じゃあそれでいいじゃんって話だけど、ワンマントルランタンは火を使用するし、熱くて火傷のリスクがある。それに専用のガソリンも準備する必要がある。LEDならすぐに用意できる乾電池で明るいキャンプサイトが叶う。そこでお子さんがいる方やキャンプ慣れしていないユーザーに『ワンマントルランタンと同じ明るさで、安全です』という伝え方をするようにしました」。

ミレニアLEDキャンプサイトランタン
2015年2月に発売された「ミレニアLEDキャンプサイトランタン」。プレスリリースには、「火気燃料を使用しないためどこでも手軽に利用でき、(中略)小さなお子様を持つファミリーキャンプにオススメしたい製品です」との表現がある。

ただスペックを謳うのではなく、その先の使い方やメリットを明確にする。使用イメージが浮かぶだけでユーザーは自然と製品を手に取ってくれた。このことをきっかけに本田さんは商品を売るためには、コミュニケーションが重要なことに気づいたという。

「スペックで推すのではなく、この商品によってユーザーにどんな魅力的な価値を提供できるかというところまで、きちんと伝えることの大切さを感じました。営業だけでなく、僕たち企画者もコミュニケーションを大事にする。それからは製品を使用するとユーザーにどんなうれしいことがあるか、という点を企画開発の段階でまず大事にするようになりましたね」。

30代半ばで気づいたユーザーファーストの重要性。これがひとつのターニングポイントとなり、本田さんは遮光性に優れた「ダークルーム」シリーズや、“1人で立てられる”をコンセプトとするテントなど、ヒット商品を次々と生み出した。

タフスクリーン2ルームハウス
2020年の新商品展示会でお目見えした「タフスクリーン2ルームハウス」。展示会の商品板には「簡単に立てやすくなった。」「天井が高く、テント内が広くなった。」など、ユーザー目線のメリットが書かれていた。

製品の価値が伝わるかどうかはコミュニケーション次第だ、と本田さんは言う。

「伝え方については経験だけじゃなく常にアンテナを張るようにしています。アウトドア用品だけじゃなくクルマや家電、そのほか一般消費財など……いろいろな方面から情報を集めないと。結局、すべての製品に言えるのは伝えるための努力を惜しんではいけないということだと思う」。

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企画開発生活12年、今のターゲットユーザーは“乗り気じゃない妻”

携帯カイロから始まってクーラーボックスにグリル、ライト、寝袋、そしてテント。あらゆるコールマン製品の開発に携わって12年。いま本田さんはどんな目標を掲げているのだろうか?

本田さん

「まずは今携わっているテントシェルターをより拡大していきたい。あとはキャンプに行ったことがない人が自分から行きたいと思えるような商品を作りたい。行きたくない理由なんて多分いっぱいあるんですよ、暑いし、虫もいるし、準備は面倒だし。家のほうが絶対快適じゃないですか」。

キャンプに行かない人の行きたくない理由を、自身の生み出すプロダクトで解決したい。目下、その対象となっているのは本田さんの奥さんだ。

「家族でよくキャンプに行くんですけど、妻はね、じつはあまり乗り気じゃないんです(笑)。自分から行こうとは絶対、言わない。だから僕の目標は、妻からそろそろキャンプ行こうよって誘ってくるような製品を作ることかな」。

『キャンプが、社会を豊かにする。コールマンは、本気でそう信じている。どことなく満たされない今、キャンプは人と人を強く繋げるから』

アウトドアを通じてユーザーや家族とつながること、そしてそのためのコミュニケーションに情熱を傾ける本田さんの姿勢は、コールマンのコンセプトそのものだった。

 

藤野ゆり(清談社)=取材・文 澤田聖司=写真

# 37.5歳の人生スナップ# コールマン
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