週末ファーマーズライフ Vol.1
2019.09.11
LIFE STYLE

「楽しむ」ことから始まる、都市生活者と“農”の自然な関係

上田さん

連載「週末ファーマーズライフ」
都市部に住む大人の男の間で、ちょっとした話題となっている「週末農業」。子供の食育にもいいし、なにより土をいじって野菜と向き合えば、心も体もキモチいい! 週末ファーマーズ志願者たちに送る、農業スタイル提案。

“都市型農的ライフスタイル”を提唱し、渋谷界隈を中心に活動を展開する「URBAN FARMERS CLUB(以下、UFC)」。そこでは、ビルの屋上や商業施設のコンコースなどに創られたユニークな「畑」を中心とした、アーバン・ファーマーを志す人々による“自由で緩やかな”コミュニティが醸成されている。

UFCのメンバーたちはどのような形で、そしてどのようなスタンスで“農”と向き合っているのだろうか。結成初期から参加しているというオーシャンズ世代の姿から、UFCが提案するライフスタイルの魅力を探ってみよう。

街着で行う“チャラい農業”。でも、それが大事なんだ

とある週末の朝。場所は、渋谷駅南口から徒歩5分ほどの場所にある複合施設のコンコースに設けられた、UFCが運営する「畑」のひとつとなる「渋谷リバーストリートファーム」。ここで毎月開催されているストリーム農業部のワークショップに参加するため集まったUFCメンバーの中に、今回の“主人公”上田元治さん(46歳)の姿を見つけた。

上田さん

白シャツにネイビーの短パン、そしてスリッポン。まるで、近所の公園へ散歩にやってきたかのようなファッションは、いわゆる“農作業”のイメージとは、だいぶん離れたものだ。

「UFCの活動に参加するときって、だいたい何かの“ついで”なんですよね。今日も、仕事の前にちょっと立ち寄ったという感じですし。だから、特に“農作業”を意識した格好をすることはありません」(上田さん)。

イベント

周りを見ればほかのメンバーの装いも、都会に溶け込むごく自然なもの。小規模なUFCの「畑」で行う農作業は、特定の作業をのぞき、せいぜい「手が汚れる程度」で済むのだという。

「一言でまとめれば“チャラいファーマー”なのかも(笑)。メンバーのスタンスは人それぞれでしょうが、僕の場合はそんな感じですね。都合が合うときだけプラッと参加して、オイシイところだけもらってる。もちろん主催の小倉さんを筆頭に、大半の方々は真面目に活動されているわけですが、僕のようなスタンスのメンバーがいることもまた、UFCにとって結構大切なんじゃないのかなと思っていて」(上田さん)。

NEXT PAGE /

前のめりな気持ちは不要。「なんとなく」から生まれる“農”との接点

そんな上田さんは、UFC初期からメンバーとなっている“古参”のひとりだ。渋谷エリアでコンテンツ事業の仕事に携わっている関係でUFC設立イベントに参加し、その場で即メンバーとなった。

上田さん

「それまで、特に農業に興味があったわけではないんです。それでも、UFCの趣旨や活動予定を聞いて何故か『なんとなく面白そうだな』と思ってしまった。そのときの気持ちを説明するのって難しいんですけど、強いて言えば、未知なものに対する軽はずみな好奇心というか」(上田さん)。

興味がなかったことだから、やってみたいと思わなかったことだから、あえてその世界に飛び込んでみたい。現在趣味となっているトライアスロンの場合と同様の実践主義から始まった、上田さんの週末ファーマーズライフ。UFCの仲間たちと農作業をすることで、あらためて“農”に対する興味がわいてきたという。

上田さん

「最初は『なんとなく面白そうだな』という程度の軽い気持ちで参加したのですが、実際に土いじりや野菜づくりにかかわることで、農業の大変さだったり野菜の尊さみたいなものがわかるようになってきて。いまだに遊びのような感覚もあるんですが、一方で知的好奇心を含む『面白さ』が芽生えてきたんですよね」(上田さん)。

イベントの様子

だからこそ、上田さんはUFCの“気軽さ”に魅力を感じているのだとも。

「特に前のめりになる必要がないのって、UFCの良いところだと思うんです。なんとなく楽しそう、という程度の感覚で野菜づくりを楽しんで、そこから“農”との接点が持てる。僕もそうでしたが、これくらいの気軽さがないと、都市生活者が農業や食の問題について考えるきっかけを得ることって、なかなか難しいんじゃないのかな」(上田さん)。


大人も子供も、もっと自然に楽しみながら“農”との距離を縮めてほしい

今もなお、軽はずみな好奇心をベースにUFCとのかかわりを続ける上田さんだが、現在では自宅の軒先でトマトを栽培するようになったほか、UFCのイベントに家族も誘うようになったともいう。

上田さんの娘さん
次女の里茉ちゃん[左]と、長女の珠里ちゃん[右]。写真提供:上田さん

「子供たちを誘うようになったのも、特に食育とかそういう気負った姿勢からではなく、自分が体験して楽しかったことを共有したいだけ。まず『楽しい』という感覚が伝われば、そこから自然と、いわゆる食育的な要素につながっていくと思うんです」(上田さん)。

ピーマンの収穫
ピーマンの収穫を楽しむ、次女の里茉ちゃんと奥さま。写真提供:上田さん

誘い始めた当初は、それこそ近所の公園で一緒に遊ぶような感覚で「付き合って」くれていた子供たちも、先日行われた近郊農家との交流&収穫体験イベントでは、梱包などの作業まで、積極的に手伝うようになっていたのだとか。

「子供たちにとっては、そういった作業も『楽しい』のひとつに過ぎないと思うんです。そういう感じで自然と農業に触れたり、作り手と受け手との距離感を縮めたりできるのは、とても良いことだなって。それが、子供たちだけでなく活動にかかわるすべての人たちにとって、UFCがもたらす大きな魅力なんでしょうね」(上田さん)。

上田さん

<都市生活者であっても、自分たちが食べる物を自分たちの手で育てることが当たり前になる社会になったらいいよね>

とは、主催者である小倉 崇さんが語るUFCのコンセプトである。そして、そんな素敵な社会を拓くための道筋は、決して難しいものではない。たとえ“チャラい”動機であっても、その端緒に着くことができるのだから。

そんな上田さんのスタンスは、これから週末ファーマーを目指す男たちの背中を、軽やかに後押ししてくれるはずだ。

玉井俊行=写真 石井敏郎=取材・文

# URBAN FARMERS CLUB# 農業# 週末ファーマーズライフ# 都市
更に読み込む