“あの波”に挑めなくても、人生は続く 〜Beyond The Wave〜
ただくつろぐだけでも気持ち良い時間を過ごせ、サーフィンをした瞬間に人生は大きく変わってしまう。ひとつのシーンからそんな海の魅力を発見していくコラム。
今回は「Beyond The Wave」
本作に描かれているサーファー像は、近年広く知られているものではない。登場人物たちは、メロウでヘルシーなリア充ライフを誇るのではなく、失敗をすれば怪我を負い、命も落としかねないスリリングな波に生を実感するため挑んでいく。より大きな波へのテイクオフに、サーフィンの醍醐味を見いだすのだ。
しかし、メインキャストである少年2人のうち1人は、未知なる波を前に怖じ気づく。あいつは行ったこの波に、俺は行けない。そうして自身の弱い一面を知るのである。挫折は心の傷となり、生気さえも失った。なぜなら、彼にとってサーフィンは趣味でもレジャーでもなく、人生そのものだから。何もない小さな町で、昨日も今日も変わらない時間を過ごしていた日々を、大きく変えてくれたから。
自分は自分と割り切れる“大人”はもう通り過ぎてしまった、純粋の塊だった時代の物語。さて、忖度も予定調和も知らない少年たちは、波が2人を明確に分けたあと、どのような日々を歩いていくのだろうか?
『ブレス あの波の向こうへ』
監督:サイモン・ベイカー/出演:サイモン・ベイカー、エリザベス・デビッキ、サムソン・コールター、ベン・スペンスほか/配給:アンプラグド/7月27日(土)より新宿シネマカリテほかにて全国ロードショー
クリアな映像が波のダイナミズムと少年の緊張感を映し出す、大きな波へのテイクオフシーンは圧巻。しかも2人の少年は本当のサーファー。演技経験はないというが、サーファーらしさは十分に表現した。
© 2017 Screen Australia, Screenwest and Breath Productions Pty Ltd
小山内 隆=編集・文