2018.10.28
LIFE STYLE

ジャーナリスト・佐々木俊尚「軽井沢がくれたのは、“あり余る素敵な時間”」

連載「実現可能か!? 俺の週末・軽井沢ライフ」
’80〜’90Sに青春をすごした男にとって、軽井沢は特別な場所である。かつて避暑地として一世を風靡した、緑深くも都会的なその土地に、憧れを抱かずにいられない。そんな場所に、拠点がつくれるとしたら……! 多拠点生活先に軽井沢を選んだ、ジャーナリストの佐々木俊尚さんにインタビュー。後編となる今回は、彼が軽井沢に住んでから起きた変化について。

前編「ジャーナリスト・佐々木俊尚『軽井沢を、第2の拠点に選んだ理由』」

 

多拠点での暮らしから生まれた“分散型”のライフスタイル

東日本大震災を機に、多拠点生活者となった佐々木さん。生活の場を複数持つことで、暮らしに対する意識に大きな変化があらわれたという。

「当初は災害に対する“リスク分散”という観点で、東京以外の拠点を持つことにしたのですが、実際に多拠点生活を始めてみると、ライフスタイルそのものが“分散型”になっていったんです。これは、自分の人生にとって非常に興味深い変化でしたね」。

東京では仕事場を兼ねた200平米のテラスハウスで暮らしていたが、次第に拠点間の“ギャップ”に不便さを感じるようになっていった。

「多拠点生活のストレスを軽減させるポイントが『生活環境を揃える』ことにある、ということがわかってきたんです。歯ブラシひとつにしても、拠点ごとに違うものでは、やはり違和感をおぼえてしまうんですよね」。

このように小さなものなら拠点ごとに統一して揃えればいいわけだが、高価なものとなれば話は別だ。

「たとえば目黒の家ではワインセラーを使っていたのですが、だからといって軽井沢や福井にもワインセラーを置くというのは、さすがに無駄じゃないですか。だったら、ワインセラーを使うことを止めてしまったほうが現実的ですよね」。

同様に、都内の仕事場で使っていたデスクトップPCも整理し、小型のノートPCをメインマシンとして持ち歩くように。最終的には広大なテラスハウスも引き払い、こじんまりした家に引っ越しをした。

軽井沢の仕事部屋。本棚はあるというが、極めてシンプルなつくり。ノートPCさえあれば、どこでもギャップなく仕事に没頭できる。

「最近では自動車も、外国車1台から国産軽自動車2台へと買い替えて、それぞれ軽井沢、福井の拠点に置いてあるんです。東京だと、必要な時にカーシェアリングを利用すればいいかなって」。

住居だけでなく、生活のすべてが一極集中型から分散型へと変わっていったわけだ。

「ハイクラス志向のライフスタイルに対する興味が、どんどん薄れていったんですよね。全体の生活レベルは下がったのかもしれませんが、そのぶん複数の拠点を自由に行き来して、それぞれの場で違う生活を営む面白さを知ったのは、とても良いことだと思っています」。

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余りある時間を有効に使えるのが、軽井沢暮らしの醍醐味

多拠点生活によって得られた身軽さと、拠点ごとに異なる暮らしの愉しみ。佐々木さんの場合、1カ月の半分を東京、残りの半分を福井と軽井沢に充てているというが、それぞれの役割は、どのように違うのだろうか。

「東京での生活はほぼ仕事がメイン。講演や取材対応など、他の拠点ではできない仕事を詰め込んでいますね。対して、福井は人との出会いを愉しむ場所。現地のNPOにかかわっていることもあり、東京では触れ合う機会がない職種や年齢層と交流できるんです」。

では軽井沢は佐々木さんにとって、どのような場所なのか。

「一言でいえば、時間を有効に使うための場所。たとえば集中して取り組む必要がある書籍の執筆は、軽井沢で行うようにしています。軽井沢では深い人付き合いも敢えて避けているので、時間の大半を自分のためだけに使えるんです」。

レベルの高いレストランや食料品店が点在する軽井沢では、生活の愉しみとして食が大きなウェイトを占めるというが、そこでも「時間」の使い方がポイントになるそうだ。

「仕事以外の時間は、ほとんど食に費やしているかもしれませんね(笑)。もともと料理をするのが好きなんですが、東京の忙しい生活では、凝った料理をする時間なんてとてもつくれない。その点、軽井沢なら地元で買った食材を使い、何時間もかかるような料理をじっくりと愉しめますから」。

天気のいい夏の日には、ワインクーラーを持ち出して一杯やることも。
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課題も残るが、多拠点生活の地としての魅力は十分

軽井沢での“遊び”といえば、豊かな自然を満喫する散歩を愉しむことが多いという佐々木さん。軽井沢に流れる余りある素敵な時間を過ごすなら、秋から冬にかけてが最適だという。

「避暑地というイメージが強いですが、地元で暮らす人たちは、誰もが静かな冬の軽井沢を愛していますよ。水道管が凍るほどの寒さとはいえ、積雪量も通常そこまで多くはないので、生活ができなくなるほどではありません。スノーブーツを履いての散歩も、なかなか楽しいものですしね」。

贅沢なひとときを過ごすことができる、軽井沢。しかし佐々木さんによれば、多拠点生活の地としての課題も多く残されている。

「東京からの距離も、拠点としては魅力的ですが、多拠点生活や移住に適した物件は、まだまだ多いとはいえません。古い別荘の空き家は腐るほどありますが、特に冬場の利用を考えると、リノベーションしなければ住めないでしょう。設備の面でも、住むなら新築物件がオススメです」。

ちなみに、佐々木さんが暮らす軽井沢の家は、冬場の生活にも対応できる新築物件で賃料は20万円台とのこと。一般的にみて、多拠点生活のコストとしては、かなり高額な部類に入る。

「一方、観光が主な地元の収入源ということもあり、現状では民泊施設の建設が制限されているのも、試しに暮らしてみたいという人にとってはネック。若い世代の活動によって、これらの課題がクリアされれば、多拠点生活や移住の候補地として軽井沢がさらに注目されるのではないでしょうか」。

すでに、ゲストハウス建設に向けた動きもみられるなど、あたらしい魅力の創出が始まっている軽井沢。由緒ある別荘地から、幅広いライフスタイルを愉しむ多拠点生活の地へ。その変化を体感できるのも、現在の軽井沢ならではの魅力かもしれない。

 

石井敏郎=取材・文

# 佐々木俊尚# 多拠点生活# 軽井沢
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