十人十色の夫婦関係 Vol.7
2018.09.21
FAMILY

月に一度しか会わない「月イチ婚夫婦」。別居こそ円満の秘訣?

十人十色の夫婦関係 Vol.7
夫婦のカタチは人それぞれ。その数だけ、異なる幸せがある。たとえ一般的なスタイルと一線を画すものであっても、当人たちが納得していればそれでいいのだ。当連載では、ステレオタイプな「理想の家族」の型にはまらず、独自のスタイルを持つ夫婦を取材。異色ながらも円満な結婚生活を通じ、多様な幸せの在り方を探る。

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今回お話を伺ったのは結婚7年目の荒川さん夫妻。ふたりは現在、一緒に暮らしていない。結婚当初は同居していたものの、ほどなくして妻の亜利沙(27歳)さんが実家へ“出戻り”。夫の真次さん(36歳)はそのままひとり暮らしとなり、以降は週に数回会うなどして婚姻状態を継続してきた。1年前からはその頻度はさらに減り、現在では月に1度顔を合わせるかどうかという状態だ。

とはいえ、夫婦仲は至って円満で互いに離婚の意思もないという。傍から見れば破たんしているようにも見えるその関係。しかし、それでも幸せそうなふたりに話を聞いた。

 

若かった妻、忙しい夫。現状に合わせてスタートした別居婚

まずは別居に至った経緯について。「別居」というと何だか穏やかでないが、ふたりの場合は具体的に何か問題があってのことではないようだ。

亜利沙さん「結婚したのは私が19歳のとき。まだ若かったこともあって、母や友達がいる居心地のいい地元にしょっちゅう帰っていたんです。そしたら、そのうち実家にいる割合が多くなっていった感じですね」。

真次さん「僕は僕で仕事が忙しく、一緒に住んでいたときも3日連続で家に帰らないなんてことはザラでした。そんなときに妻から『(帰らないなら)しばらく実家に戻っててもいい?』と言われ、全然いいよって。こんなに実家がメインになるとは思いませんでしたけどね(笑)」。

真次さんは結婚直後に立ち上げたイベント運営会社の仕事で忙しく、生活も不規則。特にイベントが多い週末は家を空けることが多かったという。そこで、週の後半から土日にかけては亜利沙さんが実家で過ごし、週の前半の平日に会う。いつしか、そんな形での「別居婚」がスタートした。

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同居したくないわけじゃない。でも、今のペースには一番合っている

真次さん「客観的に見たら、別居って離婚の危機ですよね。そんな生活に、僕も当初は不安や違和感が全くなかったわけではありません。普通の夫婦生活、いつから始まるのかな?って思ったこともあります。僕自身、ごく一般的な家庭で育ちましたしね。でも、子供もいないし、今の僕らにはお互いのやりたいことを尊重できるこの形が合っているのかなと」。

ちなみに、今はさらに会う頻度が減り、この日の取材で顔を会わせたのも約1カ月ぶり。週末婚どころではなく、今や月イチ婚である。ただ、これにも事情がある。

亜利沙さん「じつは、去年の冬に私が腎臓の病気になってしまったんです。当初は2日に1度ステロイドを点滴しないといけないような状態でした。ただ、都内の病院だと混んでいて1日がかりになってしまうので、横浜の実家近くの病院に通うことにしました。注射を打つと半日くらい痙攣することもあるので、そのまま近くの実家に滞在できたほうが何かと安心ですから。病気が別居の理由ではないんですけど、結果的にこの生活スタイルが病気の治療にも適していましたね」。

ふたりは決して、同居して営む夫婦生活を否定しているわけではない。ただ、夫婦の現状をふまえると、別居という形が最も理にかなった選択だったということだ。

真次さん「夫婦関係って、離婚しなければ終わりはない。どちらかが死ぬまでたっぷり時間はあるので、お互いそのときにしかできないことをやる、やるべきことを思いっきりやる時期があってもいいと思うんです。それが妻は病気を治すことで、僕の場合は仕事。ふたりの将来のためにも、大きな仕事をやってもっと稼げるようになりたいんです。彼女もそれを応援してくれて、仕事をしやすい環境を与えてくれている。その代わり、実家の親や友達との縁を大切にする妻の気持ちも尊重したいと思っています」。

亜利沙さん「そうそう。年をとって、ひとりでいるのがしんどくなったらまた一緒に住めばいいわけですしね。今は本当に好きなようにやらせてもらっています。例えば夫と約束していても、『近所の公園に限定のポケモンが出たから、ごめんキャンセルで』って、それでも許してもらえるくらい、自由でゆるい関係性です(笑)」。

真次さん「限定ですからね、仕方ないです(笑)。まあ、夫婦だからといって、いついかなるときでも最優先にすべきってちょっと息苦しいですよね。ときにはポケモンを優先してしまうくらい柔軟なほうが、心地良くいられると思うんです。逆に僕が『徹夜でマージャンして疲れたから』っていう、しょうもない理由で予定をキャンセルすることもありますしね」。

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たまに会える時間を大切に

とはいえ、互いの気持ちが冷めているわけではない。毎日交わすというLINEでのやりとりは、ほぼすべてのメッセージがハートマーク付きだ。また、月にたった1度のデートも、久しぶりだからこそ新鮮で特別なものに感じられる。「結婚して7年ですが、一緒にいた時間を合計したら1年に満たないかもしれない。でも、そのぶん会えるときにはなるべく楽しく過ごすようにしています」と真次さん。亜利沙さんも同じ気持ちだ。

亜利沙さん「会ったときには喧嘩をしないように。といっても、そもそも夫に対して不満が全くないので喧嘩のしようもないんですけどね。既婚の友人の話を聞くと、やっぱり夫に対していろいろと日頃の鬱憤が溜まっているみたいなんですけど、私たちの場合は一緒に住んでいないからなのか腹も立たない。無駄な争いがなくなるというのは、別居のメリットだと思います」。

真次さん「僕も不満はないですね。仮にあったとしても、一緒にいるときにあえて言わなくてもいいんじゃないかなと。デートしていたら、何に腹を立てていたかも忘れてしまいますしね」。

ただ、たまのデートだからといって特別なことはしない。買い物に行ったり映画を観たり、いたって普通に過ごすという。

真次さん「あとは、会ったときは必ず妻が料理を作ってくれて、それを食べるのが楽しみなんです。彼女は料理がとても上手で、結婚したいと思った理由のひとつでもあります。僕、もともと体重が55kgしかなくてガリガリだったんですけど、今は79kg。これは完全に妻のせいですね(笑)」。

なお、特に好きな手料理はグラタン。「別居婚を嫌とは思わないけど、妻のグラタンをたまにしか食べられないことだけはちょっと辛いですね」とのこと。

真次さんの大好物だというグラタン。ほかの料理写真も見せてもらったが、とても彩り豊かな食卓だ

 

別居婚ではなく「自立婚」

亜利沙さんはその不思議な夫婦関係について、次のように自己分析する。

「別居婚じゃなくて、『自立婚』って言い換えたらいいんじゃないかな。互いに精神的に自立しているから、同居という形にこだわらなくてもやっていけるんだと思います」。

自立婚……、なるほど的を射ている。しっかり想い合ってはいるが、しかし過度に寄りかかることなく互いに自由を謳歌している真次さんと亜利沙さん。それもまた、幸せな夫婦の形のひとつといえるかもしれない。

 

榎並紀行(やじろべえ)=取材・文

# 別居# 十人十色の夫婦関係# 自立
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