職場の20代がわからない Vol.22
2018.09.21
LIFE STYLE

職場の20代に「そこまで利益が大事ですか?」と聞かれた

職場の20代がわからない Vol.22
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同期から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。

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「お金は汚いもの」は江戸時代の質素倹約精神のなごり?

今回のテーマは「お金」です。日本人はお金を稼ぐこと、富を得ることに対して、そこはかとない嫌悪感を抱いている人が多いとよく言われます。「お金は汚い」、もしくは「お金に汚い人は汚い」、そう考えていると。

理由は、いろいろ唱えられていますが、例えば、近世の為政者であった徳川家康を開祖とする江戸幕府が、革命や下剋上を防ぐために人々に財力をつけさせないよう、参勤交代などの諸施策とともに、仏教の布教などを通じて強烈に質素倹約の精神(「清貧の思想」的な)を人々に注入し、日本人は慎ましやかに暮らすことが美徳であり、金儲けのことばかり考えているのは下品であるという考えになっていったという説などが有力なものとしてあります。

実際、日本人は現代に至るまで、お金の話を公然とするのはタブーであるとされていますし、仕事でさえもお金を稼ぐためではなく、「働くとは、『傍』(はた)を『楽』(らく)にすることだ」などのダジャレがいつまでも全国の職場に流通しています。特に若者は生まれたときから裕福に何不自由なく暮らしてきたため、この傾向が強い、と。しかし、これは本当なのでしょうか。

 

オッサンがつい語ってしまう「利益」哲学

もし、我々オッサン世代の人がこれを鵜呑みにしていて、タイトルのように若者が「そこまで利益が大事か」と言うのを聞いたのであれば、おそらくその人は「お金を稼ぐことは悪いことじゃない」と若者に説教を垂れることになるでしょう。パナソニックの創業者である経営の神様、松下幸之助の利益に対する考え方などを引き合いに出したりなどして。

「確かに、利益の追求自体が企業の最大使命ではない。しかし、事業を通じて社会に貢献するという使命を遂行し、その報酬として社会から与えられるのが利益なのだよ。企業は利益から税金を納めることで、社会の福祉に貢献することになるんだ。利益を生み出せない会社は、社会に何らの貢献をしておらず、本来の使命を果たしていないんじゃないかな。だから『赤字は罪悪』だと思うよ(以上、ほぼ松下幸之助の受け売り)」。

確かに私もこの考え方は大賛成です。若者もこれにはなかなか反論できないでしょう。そしてオッサンは「言ってやった」と溜飲を下げるわけですが、これではきっと若者はげんなりしていることでしょう。それはなぜでしょうか。

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若者はお金が嫌いなわけではない

それは、若者が別にオッサン世代が勘違いしているように「お金に無頓着である」とか「お金よりもやりがい」とか思っているわけではないからです。よく、「若者の◯◯離れ」と言いますが、私は実はすべての根本的な原因は、むしろ「お金の若者離れ」にあるのではないかと思っています。

実際、20代の平均年収を調べてみると、この20年間でほぼ右肩下がりで50万円近く減少し、現在は平均で300万円ほどです。もともと少ない年収でこれだけ減ると、それは生活がきつくなり、いろいろなものから離れざるをえないのではないでしょうか。

結婚しないのも、クルマを買わないのも、お酒を飲まないのも、すべてお金がないから――それはもちろん言い過ぎですが、20代の意識の高い人たちが、「もう俺たちはお金がモチベーションなどではない」と宣言したりしているのは、ある意味彼らの素晴らしい意味付け力というかセルフモチベート力によるものではないかと邪推しています。

「お金がモチベーションではない」のではなく、「お金でモチベートしてもらわなくても、別のことでセルフモチベートできますよ」ということではないかと。私の周囲の20代は特殊かもしれませんが、適切にお金に興味のある人が多いです。もちろん、お金「至上主義者」などほとんどいませんが、「お金なんて汚いからいらない」なんていう人もいません。いらないなら、もらいます。

 

「若者に利益をちゃんとよこせ」と主張しているのではないか

では、それならなぜ若者は「利益が大事なのか」などと言うのか。私には、「どうせ俺たちが頑張っていくら稼いだところで、上に詰まっている何もしないオッサンたちが過剰に搾取していくんだろ。そんなことなら、利益を出すことにあくせくするなんてまっぴらだ。利益なんて度外視して、仕事であろうと生活であろうと、やりたいことをやって楽しみたい」と言っているように聞こえます。

もし、そうだとすれば、彼らに「利益哲学」を説くのは場違いであると思いませんか。若者は心の中で、「いや、そんなことはわかってるから」「利益に貢献してないのはオッサンたちじゃないの」「お前が働きに合わせて、給料減らせば利益なんて出るんじゃないの」と叫んでいるかもしれません。

私は、若者の所得向上は急務だと思っています。成果を出さない若者にまでオッサン世代の若者時代のように一律に高い報酬をあげる必要はありませんし、一部の大企業を除けばそんな体力はないでしょう。

ただ、日本の労働法では、待遇の不利益改定がしにくいので、中高年の高過ぎる報酬をあまり下げられない分、若者が割りを食っていることが多い。そこで、難しいのはわかるのですが、報酬制度を変えるなど工夫してその状況を改善し、若者であろうとオッサン世代であろうと、成果を出した人に高い報酬が渡るようにすることが重要であると思います。我々オッサン世代がそれを怠って、場違いな哲学を語ってるだけだとしたら、若者は学習性無気力に陥って趣味に走ったり、ここではないどこかに逃げて行ったりするだけではないでしょうか。

曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

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