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若者はお金が嫌いなわけではない

それは、若者が別にオッサン世代が勘違いしているように「お金に無頓着である」とか「お金よりもやりがい」とか思っているわけではないからです。よく、「若者の◯◯離れ」と言いますが、私は実はすべての根本的な原因は、むしろ「お金の若者離れ」にあるのではないかと思っています。
実際、20代の平均年収を調べてみると、この20年間でほぼ右肩下がりで50万円近く減少し、現在は平均で300万円ほどです。もともと少ない年収でこれだけ減ると、それは生活がきつくなり、いろいろなものから離れざるをえないのではないでしょうか。
結婚しないのも、クルマを買わないのも、お酒を飲まないのも、すべてお金がないから――それはもちろん言い過ぎですが、20代の意識の高い人たちが、「もう俺たちはお金がモチベーションなどではない」と宣言したりしているのは、ある意味彼らの素晴らしい意味付け力というかセルフモチベート力によるものではないかと邪推しています。
「お金がモチベーションではない」のではなく、「お金でモチベートしてもらわなくても、別のことでセルフモチベートできますよ」ということではないかと。私の周囲の20代は特殊かもしれませんが、適切にお金に興味のある人が多いです。もちろん、お金「至上主義者」などほとんどいませんが、「お金なんて汚いからいらない」なんていう人もいません。いらないなら、もらいます。
 

「若者に利益をちゃんとよこせ」と主張しているのではないか

では、それならなぜ若者は「利益が大事なのか」などと言うのか。私には、「どうせ俺たちが頑張っていくら稼いだところで、上に詰まっている何もしないオッサンたちが過剰に搾取していくんだろ。そんなことなら、利益を出すことにあくせくするなんてまっぴらだ。利益なんて度外視して、仕事であろうと生活であろうと、やりたいことをやって楽しみたい」と言っているように聞こえます。
もし、そうだとすれば、彼らに「利益哲学」を説くのは場違いであると思いませんか。若者は心の中で、「いや、そんなことはわかってるから」「利益に貢献してないのはオッサンたちじゃないの」「お前が働きに合わせて、給料減らせば利益なんて出るんじゃないの」と叫んでいるかもしれません。
私は、若者の所得向上は急務だと思っています。成果を出さない若者にまでオッサン世代の若者時代のように一律に高い報酬をあげる必要はありませんし、一部の大企業を除けばそんな体力はないでしょう。
ただ、日本の労働法では、待遇の不利益改定がしにくいので、中高年の高過ぎる報酬をあまり下げられない分、若者が割りを食っていることが多い。そこで、難しいのはわかるのですが、報酬制度を変えるなど工夫してその状況を改善し、若者であろうとオッサン世代であろうと、成果を出した人に高い報酬が渡るようにすることが重要であると思います。我々オッサン世代がそれを怠って、場違いな哲学を語ってるだけだとしたら、若者は学習性無気力に陥って趣味に走ったり、ここではないどこかに逃げて行ったりするだけではないでしょうか。
曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。


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