37.5歳の人生スナップ Vol.12
2018.08.06
LIFE STYLE

平日は大工、週末は林業。「木」にこだわり、日々を生きる男

連載「37.5歳の人生スナップ」
もうすぐ人生の折り返し地点、自分なりに踠いて生き抜いてきた。しかし、このままでいいのかと立ち止まりたくなることもある。この連載は、ユニークなライフスタイルを選んだ、男たちを描くルポルタージュ。生き方のヒントが見つかるはずだ。

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自伐型林業「熱海キコリーズ」に参加する男

「林業」と聞くと、過酷なイメージを持つ人は少なくないだろう。ヘルメットを着け、安全靴を履き、チェーンソーで樹木を伐り倒す。力仕事であり、高所で作業するため、危険もともなう。実際、労働災害発生率や死亡率が高い仕事でもある。

太田大翔さん(33歳)は、主に内装を行う建築会社の代表をつとめながら、自伐型林業に取り組む任意団体「熱海キコリーズ」に所属し、週末だけ林業をしている。山に入って間伐(密集を防ぐために木を切ってまばらにすること)を行っているのだ。

取材時は、木材を利用してなにかを作っている真っ最中だった。額に汗をにじませ、電動ドライバードリルを使って作業する太田さんに、大声で質問を投げかける。木材を一つひとつ組み合わせ、知人のバイク小屋を作っているところだという。

「先月からDIYを始めたんです。この夏に完成できれば、と思っているんですけど……」(太田さん、以下同)。

しかし、DIY(Do It Yourself)と呼ぶにはいささか大がかりだ。道具を駆使しながら、数人がかりで汗だくになって作業をしている。

「この木材は購入したものですが、ときには自分たちで採ってきた木を使って、ものづくりをすることもあります。熱海のすぐそこの山から、みんなで間伐して運び出して」。

指さしたのは、遠くに見える鬱蒼とした山々。静岡県熱海市伊豆山にある、姫の沢の山から採ってくるのだという。

太田さんは、仕事として林業をやっているわけではない。利益はほとんど出ない。ボランティアに等しい活動なのだ。平日は自分の建築会社で仕事をし、週末は山に入っていく。いわば、人生を「木」に捧げている。

危険を顧みず、山に飛び込んでいく太田さん。なぜそこまで「木」にこだわって生きているのだろうか。

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「日本の家はなぜ“外材”ばかりなのか」という疑問

太田さんが建築の世界に飛び込んだのは20歳のときだ。大学で建築学を学び、建築現場でアルバイトして現場の仕事を覚え、27歳で独立した。

13年間建築業界に身を置き、現場仕事を大切にしてきた太田さんには、仕事をするうえで素通りできない疑問があった。それは「日本の家を作るのに、なぜ外国の輸入材木(外材)ばかりを使うのか?」ということだ。

「日本の山に対する危機感のようなものを持ち始めたのは、今から10年ほど前のことでした。仕事柄、木に触れる機会は多いけれど、その木がどこから来たものなのかわからないことが多い。それはおかしい気がして、もっと木について、山について、知りたいと自然に思うようになったんです」。

その答えを探すため、30歳のときに熱海市が主催する自伐型林業の研修に参加した。

自伐型林業とは、採算性と環境保全を両立する持続的な森林経営のことだ。森林は国土の7割を占める。この森林活用のカギとして注目を集めるのが自伐型林業である。1年間の研修では、チェーンソーの使い方など、林業の実践的なノウハウを学んだ。

「日本では、森林保護のために間伐された木は切りっぱなしにされる。山にそのまま捨てられてしまう切り捨て間伐なんです。こんなに使える木がたくさんあるのに、外国産の木材ばかりをわざわざ輸入しているなんて、単純にもったいないじゃないですか。じゃあ何か僕にもできないのかなと」。

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林業をする理由は「日本の森林を守るため」

原木価格は今、過去最低といってもいいほどに低下しているが、その材木を山から搬出するには多額の費用がかかる。間伐した木を搬出するだけで、コスト面では赤字になってしまう。そのため、森林保護で間伐した材木は、行き場がなくなり、ただ捨てられるのみとなる。

「『なんで林業なんかやっているの?』と聞かれることもあります。その問いに対する僕の答えは『日本の森林を守るため』。ただ、それだけなんです」。

自伐型林業に取り組む「熱海キコリーズ」は、研修に参加していた有志によって結成された。メンバーは、消防士やカメラマンなど、その多くが林業とは無縁の仕事をしてきた人ばかりだ。

メンバーに共通するのは、「日本の森林を守りたい」という思いを持っていること。男女関係なく、チェーンソーを片手にボランティアで間伐に参加する。

活動費は国や自治体からの助成金でまかなっているが、懐事情はきびしい。間伐した材木を使い、家具や照明などをハンドメイドし、マルシェ(市場)で販売することもあるが、大きな利益が出るとは言いがたい。

それでも、週末の活動は、太田さんにとってなくてはならないものだという。

「最初はひとりで活動をしていこうと思っていたんですが、団体に入ってみたらそれはそれで面白い。いろいろな特性を持った人が集まっているので、自分では思いつかないアイディアも出てきて、勉強になります」。

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目標は、間伐した檜の木で家の内装を手がけること

しかし、いくら日本の森林を守るといっても、太田さんには家族もいる。28歳で結婚し、その1年後には第一子が生まれた。現在は、家族と住む逗子の自宅と林業活動の拠点である熱海を行き来する日々を送っている。

家族は「木」とともに生きる太田さんのライフスタイルをどう思っているのだろうか。

「そこまで嫌がられてはいないと思っているんですけど(笑)。たぶん面白がってくれているんじゃないでしょうか。山に子供を連れていったこともありますよ」。

生活に関する不満や悩みを感じる時間もないという。最近では趣味の釣りやサッカーをゆっくり楽しむことも減ってしまった。それぐらい、太田さんのなかで「木」は大きな存在なのだ。

今の目標を聞くと、「間伐した檜の木をフルで使い、家の内装を全部手がけること」。拍子抜けするほどシンプルで、それでいて太田さんらしい目標だ。

「それができたら楽しいだろうなあ。間伐材で庭をデザインするっていうのもやってみたいですね」。

好きなことをして生きるというのは、じつはすごくむずかしい。その裏には多くの努力と時間が必要だし、もちろん経済的な負担もともなう。

だからこそ、「木」に関しては収益やリスクは大きな問題ではない。作業をしているときの太田さんの目の輝きが、それを何よりも物語っていた。


藤野ゆり(清談社)=取材・文

# 37.5歳の人生スナップ# 木こり# 熱海
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