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2018.06.27

ライフ

『金田一37歳の事件簿』謎を解かない主人公に、何となく共感する

「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む

90年代、本格ミステリマンガとして登場し、当時の少年たちを夢中にさせた作品がある。『金田一少年の事件簿』(天樹征丸、金成陽三郎 原作、さとうふみや 作画/講談社)だ。

かの名探偵・金田一耕助を祖父に持つ高校生・金田一 一(きんだいち はじめ)が、さまざまな殺人事件に巻き込まれ、それらを見事に解決していく。

「謎はすべて解けた」「ジッチャンの名にかけて」といった名台詞も生み、本作は大ヒットを記録。アニメ化、ドラマ化もされたことから、誰もが触れたことのある作品だろう。

そんな名作が、新シリーズとなって帰ってきた。それが『金田一37歳の事件簿』(天樹征丸 原作、さとうふみや 作画/講談社)だ。

『金田一37歳の事件簿』(天樹征丸 原作、さとうふみや 作画/講談社)

本作の主人公はこれまで同様、一であることに違いはない。ただし、その年齢は37歳。あの高校生探偵も、すっかりおじさんになってしまっているのだ。

大人になった一はPR会社に勤務するごく普通の会社員。謎解きとは無縁の日々を送っている。

しかしあるとき、孤島リゾートのオープニングイベント企画の担当を任されることに。そこは「歌島」。そう、『金田一少年の事件簿』で描かれた「オペラ座館殺人事件」の舞台であり、3度にわたって殺人事件が起きたいわくつきの島である。

もちろん、胸騒ぎが抑えられない一。そして、その予感は的中してしまうことに――。

さて、かの推理力を存分に発揮するか、と思いきや、当の本人は「もう謎は解きたくない」と頭を抱える。

それは名探偵の孫としていくつもの怪事件を解決してきた一とは思えない言動。作中ではまだ明らかにされていないが、どうやら事件とはもう関わりたくないと思うほどの何かが一の身に降り掛かったのだろう。

しかしながら、やはりその身に流れる探偵の血は消えていない。一は渋々ながらも、事件解決の糸口を集めだしていく。

本作は事件解決までの一連の流れとともに、一の身に何が起こったのかも読みどころになっている。

幼馴染である七瀬美雪(ななせ みゆき)と結婚していないのも、もしかしたら事件絡みの複雑な事情があるのかもしれない。読者は目の前で起きている事件の顛末のほかに、作中で描かれていない空白の20年間についても想像しながらページをめくっていくことになるだろう。

同世代の読者であれば、自身の過去を投影し、共感できるかもしれない。学生時代に得意だったことで身を立てられるとは限らない。だが昔取った杵柄が役に立つ局面は、まれにある。

我々と同様に、大人になった元・高校生探偵。懐かしさとともに、彼が再び活躍する場面をぜひ追いかけてもらいたい。もしかしたら自分の過去を見つめ直す、いいきっかけになるかもしれない。

五十嵐 大=文
'83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。



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