職場の20代がわからない Vol.15
2018.06.08
LIFE STYLE

職場の20代に「うつ病かもしれません」と言われた

職場の20代がわからないVol.15
30代~40代のビジネスパーソンは「個を活かしつつ、組織を強くする」というマネジメント課題に直面している。ときに先輩から梯子を外され、ときに同期から出し抜かれ、ときに経営陣の方針に戸惑わされる。しかし、最も自分の力不足を感じるのは、「後輩の育成」ではないでしょうか。20代の会社の若造に「もう辞めます」「やる気がでません」「僕らの世代とは違うんで」と言われてしまったときに、あなたならどうしますか。ものわかりのいい上司になりたいのに、なれない。そんなジレンマを解消するために、人材と組織のプロフェッショナルである曽和利光氏から「40代が20代と付き合うときの心得」を教えてもらいます。

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「メンタルが弱い若者」というイメージがあるが、実は20代のうつ病患者は少ない

今回のテーマは、「健康」――特にうつ病などに代表されるメンタルヘルス(精神的健康)です。職場でうつ病になる若手をよく見かけるようになってきたこともあってか、「最近の若者はメンタルが弱くなった」などと我々オッサン世代はすぐ言ってしまいがちです。ところが、統計数字を見る限り実はそんな傾向はありません。3年に一度実施されている厚生労働省の直近の「患者調査」(平成26年)によれば、うつ病等の気分障害の罹患者は111.6万人で、内訳をみると、年代では40歳台が約24万人と最多です。

一方、20歳台は約8万人で、未成年を除けば(20歳未満は2万人弱)最少です。この数字だけをみれば、20代のうつ病患者はむしろ少ないです。我々オッサン世代のほうが人口比を考えても多いです。それなのに何故、冒頭のように「メンタルが弱い若者」、「すぐうつ病になってしまう若者」というイメージが生じているのでしょうか。

 

気分障害患者数はここ20年で3倍に増えている事実はあるが……

確かに絶対数は増えています。例えば、上述の「患者調査」では、気分障害罹患者数は、90年代では40万人台でした。これとその約20年後の直近数字を比較すれば3倍程度と大幅に増加しています。それに比例して20代の罹患者も増えるわけですので、そこだけ見れば確かに「最近の若者」は「昔の若者」(つまり、今の我々オッサン世代)よりもうつ病にかかる人が多いと言えます。

しかし、オッサン世代のいう「若者はメンタルが弱い」は、何も「昔のオレ」と比べているのではなく、「今のオレ」と比べているのでしょうから、この分析は当たらないでしょう。さらに言えば、他にもメンタルの強さ(弱さ)につながる数字であると思われる数字、例えば自殺者数などを見ると、2016年の厚生労働省調査では、40代は約4000人、20代は約2000人と、やはり「今の若者」は「今のオッサン」よりも弱いとはけして言えないのです。

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「耐え忍ぶ」のが好きなオッサンたち。「メンタルが強い」の意味が違っている

ここからは私見ですが、おそらく我々オッサン世代の言う「メンタルの強さ」と、若者の考えるそれとの意味が異なっているのではないでしょうか。オッサン世代は、山本五十六の「男の修行」(苦しいことなどをじっとこらえてゆくのが男の修行だと言っています)とか、徳川家康の「人の一生は重荷を負て遠き道をゆくが如し」とか、とにかく「耐え忍ぶ」のが大好きです(というより、実のところは、オッサンになるにつれて「これまで耐え忍んできたオレ」を周囲に評価させるために、そういうものを尊ぶようになるのでしょう)。だから、すぐに「病気」だと言ってしまうことで、自分にかかるいろいろな負荷を減らしてもらおうとする態度を「メンタルが弱い」と言っているのです。

そのため、実際には、人口比で考えると特に大差の無い20代と40代の「うつ病」罹患者数が、「若手はあまり躊躇せずにうつ病であると言う」「オッサンは我慢してなかなかうつ病であると言い出さない」ということから、表面的には、若者のほうがすぐうつになる、メンタルが弱い、となっているのではないでしょうか。

 

オッサンの「やせ我慢」よりも、若者の「弱音を吐く勇気」がありがたい

しかし、若者からすれば、オッサン達のそういう態度は単に「やせ我慢」であり、強いことでもなんでもない。むしろ、コンディションが悪い状態のまま、無理して仕事をしても良いパフォーマンスは出ず、最終的には周囲に迷惑をかけることになる。それを、自分の小さなプライドを維持するために、どうしても我慢できなくなるまで、周囲に何も言わずに自分の中だけにとどめておくようなスタンスこそ、勇気のなさ、メンタルの弱さと考えている……と言ったら言い過ぎでしょうか。

近年のベストセラー『嫌われる勇気』ではありませんが、若者は「弱音を吐く勇気」を持っているとも言えるかもしれません。実際、マネジメントをしていて、うつ病を発症しているにも関わらず、ずっと黙って我慢してしまわれると、管理者や経営者側からみれば困ります。社員の健康に対する責任もありますし、ある日突然耐えられなくなって急に休まれるのも大変です。そう考えれば、若者のように、すぐに体調不良を言ってくれるほうがありがたいです。

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不調を訴えられたら、「よくぞ言いにくいことを言ってくれた」と言える上司に

社会全体で考えても、うつ病という病気は同じような問題を抱えています。うつ病は、実際には発症していても、病院に通わない人が多いのです。ある調査によれば、上述の厚生労働省の調査よりも、実際にはその3倍程度、300万人以上の人がうつ病にかかっているのではと推定されています。しかも、内閣府の発表によれば、自殺の原因が健康問題であった人のうち、うつ病が原因のケースはわかっているだけでも42.1%ということを考えれば、もしかすると本当は「うつ病」と言えなかったまま自殺に至った人がその3倍程度いても不思議ではありません。

つまり、「うつ病である」ということを言いやすい世の中であることは大変重要なことなのです。自分を「うつ病」であると認めて、病院に通ったり、職場に伝えたりすることをなかなかしない原因はさまざま考えられると思いますが、病気に対する職場の偏見や、すでに述べたような「弱音を吐いてはいけない」「そういう人は弱い人だ」的な古い考え方もそのひとつではないでしょうか。ですから、若手が「うつ病かも……」と言ってくれた時には、「これだから最近の若手は……」と考えるのではなく、「よくぞ言いにくいことを言ってくれた、ありがとう」ぐらいのスタンスで臨むべきだと思います。

 

曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

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