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2018.06.06

かぞく

夫婦関係を客観視できるマンガ『妻は他人 だから夫婦は面白い』

「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む

『妻は他人 だから夫婦は面白い』(さわぐちけいすけ/KADOKAWA)

妻は他人である。この言葉を目にしたとき、率直にどう思うだろうか? 冷たい、寂しい話だと受け取る人も少なくないかもしれない。しかし、この考え方が「夫婦円満」のヒントになるとしたら――。

『妻は他人 だから夫婦は面白い』(さわぐちけいすけ/KADOKAWA)は、タイトルにあるとおり、妻のことを「他人」と捉えている夫の目線で描いた、とある夫婦の日常だ。さわぐち氏は趣味で描いていたマンガをツイッターに投稿しており、2017年5月に投稿した本作の一編がバズったことで注目を集めた。

本作に描かれるのは、あくまでも夫婦の何気ない日常である。例えば、さわぐち氏の家庭では、基本的に別々にご飯を食べる。それは夫婦間で話し合った結果ではなく、付き合い出した当初からのこと。さわぐち氏は「自分のご飯だし(自分で作るのが当たり前)」という価値観を持っており、その習慣は夫婦になった今も続いている。

とはいえ、決して仲が悪いわけではない。むしろ、本作を読む限り、夫婦関係は非常に良好だ。誕生日にはちょっと良い肉を焼くし、月に数回は外食もする。デートと称して遠出をすることだってある。さらにいうと、結婚して4年、付き合い始めて7年が経つが、喧嘩をしたことがないという。

その円満の秘訣は、やはり「妻を他人」だと捉えることにあるのだろう。こんなエピソードも収録されている。

明らかに妻の機嫌が悪いとき。さわぐち氏は、「機嫌が悪いのかどうか」「側にいてほしいのかどうか」「必要なものはあるかどうか」などを冷静に尋ねるそうだ。もちろん、妻は現状を踏まえた回答をする。その結果、さわぐち氏はベストな行動を起こすことができる。

距離が近くなればなるほど、相手の気持ちや状況を察して当然、気づいて当然と考えがちだ(無論、その逆も)。しかし、いくら親しい関係であっても、当人のことは当人にしかわからない。その塩梅を間違えると、喧嘩に発展してしまう。「どうして察してくれないのか」「気づいて当然だろう」は、喧嘩時の常套句。そして、やがて疲弊してしまうのである。

「妻は他人」という考え方は、決して寂しいものではない。特別な人だからこそ、「なあなあ」になってしまいがちなことに対しブレーキをかけ、今一度初心を思い出させてくれる考え方だ。妻はあくまでも「独立したひとりの人間である」ということを忘れなければ、トラブルの火種になり得る思いやりの欠落や配慮のなさも回避できるかもしれない。

さわぐち氏は本作の他に、『人は他人 異なる思考を楽しむ工夫』(KADOKAWA)という新作を発表している。そちらで描かれているのも、他者との程良い距離の測り方について。『妻は他人 だから夫婦は面白い』と併読することで、現代ならではの人間関係の構築法が学べるのではないだろうか。

五十嵐 大=文
’83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。



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