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2018.06.03

ライフ

「僕はずっと海から発想してきた」川口清勝さんが海を目指す理由


海は広くて大きいから、目指す人たちの理由も十人十色。そこで知りたくなったのは、まっとうな大人の男たちが、なぜそんなにも熱心に海を目指しているのか、ということ。各人バラエティに富んだ話から、共通していることがあった。それは幸せそうな笑顔を見せて楽しい人生を歩んでいるということ。皆さん、海を目指して、何かいいことありました?


海を愛する男たちに、海を目指す理由を聞く連続企画。第2回は、TUGBOAT クリエイティブディレクター/アートディレクターの川口清勝さんに伺った。

第1回:三原康裕さん「サーフィンより楽しいものはこの世にない」


TUGBOAT クリエイティブディレクター/アートディレクター

川口清勝 さん(55)

かわぐちせいじょ●多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業後、電通に入社。1999年、TUGBOATを設立。日本プロサーフィン連盟(JPSA)アドバイザー、多摩美術大学グラフィックデザイン科教授としての顔も持つ。


「頭と心の大掃除をしに行くような感覚」


自分にとって海は「目的地」ではなく「居場所」。そう表現するほうが相応しいような気がします。

僕は幼い頃、網元の頭領をしていた爺さんにしょっちゅう面倒を見てもらっていて、爺さんが漁に出るときは、よく沖の干潟で遊んで過ごしました。そこは砂と海しかない世界で、街ははるか彼方だった。そんな原体験を持っているせいか、海を特別なものとして捉えたことは一度もありません。

15歳でサーフィンを始めたのも、ごく自然な成り行き。どうせ海に居るなら船よりも小回りが利いて、自由でありたいと思ったから(笑)。もちろん、波がいい日は、何をおいても海にいきます。波乗りファーストな人生ですから。

ハワイを代表するレジェンドサーファー、ケアウラナ親子とは親交が深く、今でもハワイに行けば、一緒に波に乗り、マグロ釣りなどをするそうだ。写真は16年ほど前に撮影したもの。


海がもたらしてくれる効能に開眼したのは、デザインで食っていくようになってからのことですね。ほら、海で絶対的な安全は保障されないでしょ? 波に巻かれりゃ溺れかかる。場合によってはサメがうろついているかもしれない。

だからこそ、そこに身を委ねる際はもしものときに備えて、臨戦態勢のスイッチがオンになるのですが、コレが非常にイイ。それまでの日常がリセットされますから。

人間は欲望の塊なので、新しいコトを発想するには満たされていたら駄目なんだろうなぁ。ニュートラルでないと。海はそれを実現してくれる。言うなれば、海に行くのは自分の頭と心の大掃除をしに行くようなことなのかもしれません。シャワーを浴びるのと同じ感覚です。

振り返れば、僕はずっと海から発想してきたような気がします。みんなが東京から海を眺めている間、僕は海から東京を見ていた。海からデザインを考えてきた。するとね、つい目線がシニカルになって、都会のまずいところが目につくんですよ。

なぜか。足を着けられる陸と違って海は不安定で、海で起こることは人智を凌駕するからでしょう。海に浸かれば浸かるほど完璧なんてありえないと身に染みてわかる。これ以上の教えはないんじゃないかな、といつも思います。



梶 雄太=写真 甘利美緒=文

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