不動産の噂の真相 2017 Vol.17
2018.04.15
LIFE STYLE

「住宅購入vs賃貸、どっちがお得?」の比較、実は意味がない?

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不動産の噂の真相Vol.17
オーシャンズ世代にとって“避けては通れない未来”のひとつに、「住まいをどうするのか」というテーマがある。結婚し、子どもが生まれ、やがて巣立っていく――そんな人生の物語をつむぐ舞台=住まいについて、実は私たちはそこまで深い知識を持っていない。なんとなく周りの意見やメディアの見出しやウワサ話に踊らされてはいないだろうか。この連載では、元SUUMO新築マンション編集長が、世の中に出回っている“不動産のウワサ”について徹底検証。信じるも信じないも、あなた次第です。

「コスト比較」は、制作者の恣意的な条件設定で、損得の結論が変わる

家は買うのと賃貸を借り続けるのとではどちらが正解か? この疑問は、大げさに言えば住まい選びの永遠のテーマであり、古今東西、あらゆるサイトで論じられている。結論は、買ったほうが有利という記事もあれば、その逆もあるし、あえて結論を出さず中立の立場を保って書かれているものある。

筆者も、住宅情報誌の編集者だった時代にこのテーマで数えきれないくらいの記事をつくってきた。その経験から正直に言えば、購入と賃貸の少なくとも「コスト比較」については、ほぼ意味がないと思っている。というのは、買う場合の購入価格やローン金利、賃貸の場合の家賃をいくらに設定するか、また何年間の総コストを比較するかで、損得の結論は変わるからだ。

要は、制作者が恣意的に条件設定すれば結論をいかようにもコントロールできるわけで、実際、そうした意図があからさまに働いたと思われる記事も珍しくない。つい先日も、今年4月にあるサイトにアップされたばかりの、購入と賃貸を比べた記事を見たら、買う場合の住宅ローンの金利設定が2.1%になっていて、思わず苦笑してしまった。

苦笑の理由はふたつ。ひとつは、相対的に金利が高めの全期間固定金利型でも1%台前半で借りられる今の時代に、金利を2%超に設定している違和感だ。この時点で、記事の担当者は賃貸が有利な結論にしたい意図があるのかな、と邪推してしまう。もうひとつは、単なる仮定にすぎない設定金利を2.1%と刻んでいる不自然さ。2%丁度でも現実離れした高金利なのに、さらに0.1%上乗せているのは、そこに購入と賃貸の計算上のコストが拮抗する分岐点があったのだろう、と推察できる。

例に挙げたコスト比較が現実からズレているのは間違いないが、そもそも「読み物」の記事のなかで、住宅購入と賃貸のコスト比較をするのはかなり無理がある。購入であれ賃貸であれ、求める住宅や払える金額などの条件は人それぞれなので、本来なら読者自身が条件を入力できるシミュレーターのようなものでもなければ的確な比較はできないのだ。

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「コスト以外」の要素、家を買ってから50年のライフスタイルが重要

筆者の経験から言うと、特段の意図なく公平に比較すると、住宅ローンが超低金利の現在は買ったほうが「コスト面」では得になる可能性が高い。もちろんこれは、購入も賃貸も立地や広さ、設備仕様などが同等の住宅なら、という前提条件での話だ。賃貸は住宅の質が購入する場合より劣ることが多いで、この前提も無理があるといえばあるのだが、住宅のレベルを揃えるのが、最も公平な比較だと筆者は思う。前述の記事では金利2.1%で住宅ローンの負担を計算して、購入と賃貸のコストが拮抗していたのだから、現在の金利水準(変動型なら0.5%程度、固定型なら1%強程度)で計算すれば、購入するほうがコスト負担が大幅に小さくなるのは自明だ。

ならば、買うほうが正解かといえば、そうとも言えない。家を買うか賃貸を借りるかで比較すべきことは「コスト」だけではない。筆者は「コスト以外」の要素も、どちらを選ぶかの物差しとしてコストと同様に重要だと考えている。

住宅選びの「コスト以外」の観点とは、ライフスタイルだ。例えば、賃貸の最大の良さは、引っ越しの自由度の高さだ。言葉にすると当たり前の話にしか聞こえないだろうが、この自由度高さが実は大きな意味をもつ。自身の転職や子供の成長・進学などに応じて、必要な環境は変わるものだが、賃貸なら都度最適な環境に住み替えることが容易になる。購入しても住み替えは可能だが、賃貸に比べるとハードルが高いので、現実には多少の不便は我慢して、そのまま住み続ける人が大半だろう。

一般に、家族の成長や老いによって、ライフスタイルは数年~十数年単位で変化するものだ。家を買って以降の残りの人生が50年として、数度は訪れる変化に応じて最適な住まいや環境で暮らせるかどうかは、人生の質を左右するといっても過言ではない。だから、変化に対応しやすい賃貸住宅には、コストのように数値化できないが、購入では得難い価値があると筆者は思う。

とどのつまり、コスト重視なら購入、自由度重視なら賃貸という、わかりきった結論にしかならないのだが、自由度の価値は数値化できないのでコストに比べて軽視されがちだ。まずはそこを自覚することが、自分にとってどちらが正解か、的確な答えを出すために必要なことだと筆者は思う。

取材・文=山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。

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