OCEANS

SHARE

「コスト以外」の要素、家を買ってから50年のライフスタイルが重要

筆者の経験から言うと、特段の意図なく公平に比較すると、住宅ローンが超低金利の現在は買ったほうが「コスト面」では得になる可能性が高い。もちろんこれは、購入も賃貸も立地や広さ、設備仕様などが同等の住宅なら、という前提条件での話だ。賃貸は住宅の質が購入する場合より劣ることが多いで、この前提も無理があるといえばあるのだが、住宅のレベルを揃えるのが、最も公平な比較だと筆者は思う。前述の記事では金利2.1%で住宅ローンの負担を計算して、購入と賃貸のコストが拮抗していたのだから、現在の金利水準(変動型なら0.5%程度、固定型なら1%強程度)で計算すれば、購入するほうがコスト負担が大幅に小さくなるのは自明だ。
ならば、買うほうが正解かといえば、そうとも言えない。家を買うか賃貸を借りるかで比較すべきことは「コスト」だけではない。筆者は「コスト以外」の要素も、どちらを選ぶかの物差しとしてコストと同様に重要だと考えている。
住宅選びの「コスト以外」の観点とは、ライフスタイルだ。例えば、賃貸の最大の良さは、引っ越しの自由度の高さだ。言葉にすると当たり前の話にしか聞こえないだろうが、この自由度高さが実は大きな意味をもつ。自身の転職や子供の成長・進学などに応じて、必要な環境は変わるものだが、賃貸なら都度最適な環境に住み替えることが容易になる。購入しても住み替えは可能だが、賃貸に比べるとハードルが高いので、現実には多少の不便は我慢して、そのまま住み続ける人が大半だろう。
一般に、家族の成長や老いによって、ライフスタイルは数年~十数年単位で変化するものだ。家を買って以降の残りの人生が50年として、数度は訪れる変化に応じて最適な住まいや環境で暮らせるかどうかは、人生の質を左右するといっても過言ではない。だから、変化に対応しやすい賃貸住宅には、コストのように数値化できないが、購入では得難い価値があると筆者は思う。
とどのつまり、コスト重視なら購入、自由度重視なら賃貸という、わかりきった結論にしかならないのだが、自由度の価値は数値化できないのでコストに比べて軽視されがちだ。まずはそこを自覚することが、自分にとってどちらが正解か、的確な答えを出すために必要なことだと筆者は思う。
取材・文=山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。


SHARE

次の記事を読み込んでいます。