十人十色の夫婦関係 Vol.1
2018.04.10
FAMILY

「子供をつくらない」を条件に結婚。そんな夫婦の幸せのカタチ

十人十色の夫婦関係 Vol.1
夫婦のカタチは人それぞれ。その数だけ、異なる幸せがある。たとえ一般的なスタイルと一線を画すものであっても、当人たちが納得していればそれでいいのだ。当連載では、ステレオタイプな「理想の家族」の型にはまらず、独自の主義を貫く夫婦を取材。異色ながらも円満な結婚生活を通じ、多様な幸せの在り方を探る。

結婚時の約束は「子供をつくらない&離婚時の慰謝料2000万円」

今回お話を伺ったのは、家計のコンサルタント会社を営むTさん(43)。整った顔立ち、スタイルも良く、仕立ての良いスーツに身を包んでいる。結婚13年目の妻(40)とは「子供をつくらない」という約束のもと籍を入れた。子なし、を望んだのは妻のほうだという。

「私が30歳でプロポーズした時、妻から提示された条件はふたつ。別れる時は慰謝料2000万円、そして、子供をつくらないこと。慰謝料の件は冗談めかしてですが、子供に関しては強い意志を感じました。契約書を交わしたわけではありませんが、彼女が真剣だったのでこちらも重く受け止めましたね」(Tさん、以下同)。

理由はシンプル。「(妻は)子供が苦手」だから。

「特に、小学生くらいの年代の子供が苦手なようです。また、身体もそんなに丈夫ではないので、出産自体に大きな不安があるとも言っていました」。

ただ、夫であるTさん自身の気持ちはどうなのか? 本音を問うと、「欲しくないわけではなかった。子供がいる友人の話を聞くと『楽しそうだな』と思うことはあります」と、若干の未練を覗かせる。

実際、結婚当初は妻の心変わりを期待していたそうだ。

「これまで2回だけ聞いてみたことがあります。子供、本当に欲しくないの? って。結婚2年目の時と、妻が35歳の誕生日を迎えた時。出産の適齢期も意識していました。そしたら2回とも『ゼロパーセント!』と即答されたので、もうないなと(笑)。以降は僕自身、気持ちを切り替えました。幸い、僕も妻もそれぞれの兄弟に子供がいて、親に孫を抱かせてあげなきゃ、みたいな重圧もありませんからね」。

妻はもともと合理的で、考え方がシンプル。自分の人生に不要とみれば、どんどん切り捨てていくタイプだという。そして、そこが「一番の魅力」とTさんはのろける。

「物を捨てる決断も早いし、スマホの電話帳も1年連絡をとっていない番号は躊躇なく消していく。今は10件も登録されていないんじゃないかな。潔いですよね。かっこいいと思うんです。そんな彼女が決めたことならば、尊重したい」。

 

結婚後、セックスは1回だけ。倦怠期を打ち破るきっかけは「妻の病」と「夫の献身」

Tさんが“完全に”子供を諦めてから5年。以降も、夫婦仲は概ね円満だという。

「喧嘩はほとんどしませんね。出かけるときは手をつなぐし、毎日キスもします。食卓もできるかぎり共にし、『おいしい』は毎回。感謝の言葉もお互いに言い合うようにしています。客観的に見ても、仲の良い夫婦なんじゃないかな」。

しかしながら、子づくりをしないとなると「夜の営み」はどうなっているのか? 下世話(かつ、余計なお世話)と思いつつ聞いてみると……。

「結婚後、セックスしたのは1回だけ。籍を入れた当日、いわゆる“初夜”のみです。それまでも1年間くらいしていなかったので、『このタイミングでなかったら、いつやるんだ!』と。突如、夜中の4時に奮起しまして(笑)。まあ、子供を作らない約束があったから、セックス自体もしなくなるのかなあと、多少の不安もあったのかな……」。

その初夜の交わりを最後に、十数年の月日が経った。Tさんの不安が的中したわけだが、不満はないのだろうか?

「まあ、僕自身はさほど性欲が強いほうではないので。自分で処理もできますし。妻に聞いてみたこともあるのですが、『今さら、もう恥ずかしくてできない』と。僕もタイミングが分からなくなってしまったので、もういいかなと思っています」。

子供がおらず、夜もない。それでも「世間一般の夫婦より仲が良い」と言い切れるほど円満でいられるものなのだろうか? 聞けば、Tさん夫婦にも倦怠期はあったようだ。では、それをいかに打ち破ったのか?

「7年くらい前に妻が心の病気になり、一時期は電車に乗ることすら困難になってしまったんです。僕は当時、仕事ばっかりしていて夜も遅かったですし、妻のことをあまり気にかけていなかった。それも原因のひとつだったんじゃないかと反省しました。以降はふたりの時間を増やし、朝と夜はマッサージし合うなどしてスキンシップをはかっています。妻の容体が安定するにつれ、夫婦仲も深まっていきました。倦怠期でも子供が生まれることで新しい絆が生まれたりすると思いますが、僕たちの場合は妻の病気がそのきっかけになった。病気になって良かったとは言い難いですけど、夫婦仲を見つめ直す転機になったと思います」。

 

身軽な人生を、とことん楽しみ抜く

お話を聞いていると、Tさんの「譲る部分」が大きいのではないか? 夫婦の円満は、夫の我慢や優しさのうえに成り立っているのではないか? そんな印象を受ける。しかしTさん、「それはない」と即答。さらに、「子供がいない良さを説明しましょう」と、前のめりになった。

「まず、一番は経済的な不安から解放されること。もし今の仕事が立ち行かなくなっても、夫婦ふたりならバイトでもしてどうにか食べていけるでしょう。そして、だからこそお金のためじゃなく自分の信念に基づいた仕事ができる。僕は会社を営んでいますが、目先の売上に縛られず、『より良い仕事をして、お客様の笑顔を見たい』という青くさい理想を追求できるわけです。子供がいて学費を稼がないといけない状況だったら、そんな純粋な行動原理だけではとてもやっていけないでしょうね。そもそも、独立もできなかったと思います」。

しかし、青くさい信念は顧客の信頼につながり、結果的に業績は順調。懐も温かい。子供がいる同年代に比べ、自分のために使えるお金は圧倒的に多い。身なりには気を遣い、体型維持のためのキックボクシングのジムにも通っているという。

確かにTさん、清潔感があって若々しく、43歳には見えない。「所帯じみないのも、夫婦円満の秘訣かもしれませんね」。にっこり笑う歯は、芸能人のように白く輝いていた。

他にも、「時間の自由がきく、学校のことを考慮しなくていいので引っ越しもしやすい、子育てにまつわる心配事もない」など、挙げればきりがないようだ。いずれも子なしの“メリット”として想像しやすいことではあるが、Tさんの言葉には当事者ならではの実感がこもっており、説得力がある。

時折、子供がいる人生に思いを馳せつつも、「僕ら夫婦にとってはこの形がベストなんでしょうね」と、現状の幸せをかみしめるTさん。その表情には、身軽な人生を謳歌する充実感がみなぎっていた。

取材・文=榎並紀行(やじろべえ)

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