風呂とオッサン vol.7
家庭を持つオッサン世代にしてみれば、風呂はひとりになれる数少ない場所。日々の疲れを癒やし、明日への英気を養うためのエナジースポットだ。しかしそのことを意識せず、ただ“気持ちよく”入っているだけの人がほとんどでは?いやいや、風呂の楽しみは深い。身体の調子を整える健康効果、そしてエンタメ溢れる小さな個室。すなわち、探求の余地がある“風呂ンティア”なのだ!
「風呂とオッサン」を最初から読む出勤前の朝風呂か、はたまた帰宅後にゆっくり浸かるか。入浴のタイミングは個人の好みや生活リズムによりけりだが、身体のコンディションは時間帯によって変わるため、入り方を誤ると脳や心臓に負担がかかってしまうことも。そこで、時間帯ごとに気を付けるべき入浴のポイントについて、東京都市大学教授で温泉療法専門医の早坂信哉氏に教えていただいた。
寝起きの入浴は要注意! 心筋梗塞や脳梗塞のリスクも人の自律神経には交感神経と副交感神経があり、朝目覚めた時は前者の交感神経が優位になってくる。交感神経の働きが活発になると心拍数が増え血圧も上がるが、このタイミングで入浴をすると、その変動がより大きくなり、身体に負荷をかけてしまうリスクが高まるという。
「ヒートショックという言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、急激な温度差によって血圧が乱高下すると、さまざまな健康被害をもたらします。失神やめまい、ひどい場合は心筋梗塞・脳梗塞の可能性もあります。交感神経の働きにより血圧が上昇する起床後すぐの朝風呂は、夜の入浴に比べてヒートショックのリスクも高くなります」
一般的に、若いうちは血管がしなやかなため、心筋梗塞や脳梗塞の危険は少ない。しかし、40代以降になると危険度が増すので、入浴の際にも一層の注意が必要なのだとか。
ヒートショックを防ぐには、浴室との温度差をなくすため脱衣室を暖房やヒーターで温めておくこと、湯船に入る前に足先からしっかり「かけ湯」をすることなどが大事だという。特に冬場の入浴や朝風呂の場合は、より入念に行いたいところだ。
就寝前90分の入浴で、良質な睡眠を手に入れる早坂教授によれば、できれば朝は湯船には浸からず、シャワーだけにしておくのが望ましいという。湯に浸からなくても、起き抜けに少し熱めのシャワーを軽く浴びるだけで良い効果が得られるようだ。
「男性は40歳を過ぎると、加齢臭の原因になる皮脂が急激に増えてきます。朝に41度のシャワーを1分間浴びると、浴びなかった場合と比べて夕方頃の加齢臭が大幅にカットされることが調査で分かっています。また、朝シャワーで刺激を与えることで、副交感神経から交感神経への切り替えがスムーズになり、日中の活動パフォーマンス向上が期待できます」
ゆっくり湯に浸かるのは帰宅後。就寝90分前までに入浴できればベストだ。
「就寝90分前までの入浴は、良質な睡眠をもたらしてくれます。湯に浸かると血流がよくなり、身体が隅々まで温まる。その後、お風呂から上がった時に放熱が起こり、約90分経った頃から急激に体温が下がっていきます。そして、この体温の低下に伴い、眠気が出てくるのです。特に、冷え性の方などは適切なタイミングで入浴し、血流をよくすることが大事ですね」
ちなみに、昼間の入浴についてはどうかというと……?
「休日や旅行などでリラックスしたいということであれば昼間の入浴も良いと思いますが、その後に仕事を控えている場合は、あまりおすすめしません。前述の通り、体温の変動と眠気は密接に関わっています。そのため、仕事前に入浴で体温を上げ過ぎると、下降するタイミングで眠気が襲ってくることが考えられ、ひいてはパフォーマンスが落ちてしまうかもしれません」
なお、「入浴回数はお好みで」とのことだが、あまり何度も入り過ぎると人によっては湯疲れしてしまうので、気を付けた方がいいそうだ。朝と夜では身体のバイオリズムが異なり、それぞれの時間帯に適した入浴方法がある。このことをふまえ、安全かつ効果的なバスタイムを過ごしたいものだ。
取材・文=末吉陽子(やじろべえ)
早坂信哉/東京都市大学人間科学部教授1968年生まれ。自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。2002年、自治医科大学大学院医学研究科修了、同大学医学部総合診療部、浜松医科大学医学部准教授、大東文化大学教授などを経て、現職。博士(医学)、一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長、温泉療法専門医。著書に『たった1℃が体を変える ほんとうに健康になる入浴法』(KADOKAWA)、『入浴検定 公式テキスト お風呂の「正しい入り方」』(日本入浴協会)がある。
http://hayasakashi.wixsite.com/bath/resume