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2017.09.25

ライフ

【ニューウェーブ インタビュー】佐野元春 〜野暮か野暮じゃないか、その判断が大切なんです〜

知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。
 

【佐野元春】

1956年、東京都生まれ。シンガーソングライター。’80年3月、シングル「アンジェリーナ」でデビュー。同年4月、ファーストアルバム『バック・トゥ・ザ・ストリート』を発表。現在は独立系レーベル「デイジーミュージック」を主宰。オンライン上での音楽活動など先進的な試みを続ける。
「シン・ゴジラが出てきたから、僕もシン・サノモトハルでいこうと思って。それで去年、デビュー35周年のツアーを終えて心機一転バッサリ切りました」
開口一番、トレードマークのライオンヘアに別れを告げた理由を冗談めかしてさらりと語り、その場の空気をほぐしてくれたベテランミュージシャン、佐野元春。デビュー以来、真摯にロックンロールと向き合い、市井に生きる人々の喜怒哀楽を丹念にスケッチし続けてきた彼は、このたび、2年ぶりにアルバム『マニジュ』をリリースした。
リリックのテーマは“若い都市生活者たちの憂い”。あたかも10代の少年が書いたようなまっすぐな言葉を散りばめて、厳しい現実を浮き彫りにしている。
それにしてもだ。なぜ、今、“憂い”だったのだろう。その意図を探ればシンガーソングライターとしての佐野元春について理解を深められるような気がして、まずはそれを問いかけてみた。すると彼は言った。
「社会で暮らせば、自分の意思とは関係なく身の回りにはいろいろなことが起こる。例えば権力を持った人間が横暴なことをやり、自分の意思とは関係なく苦境に立たされたりするでしょう。つまり、ありのままにサバイバルするのはすごく大変なんです。僕は、それを歌にしたい。僕には言葉とメロディ、そしてビートでパフォーマンスできるスキルがある。その三位一体の表現を通して、必死にもがいている人たちの助けになれたらうれしいよね」
だからなのだろう。佐野の音楽には希望や救いが感じられる。憂いを描いていたとしても、悲壮感はない。
「僕はセンチメンタリズムが好きじゃない。人生にはむしろロマンティックなものの見方が必要だと思っている。そうした精神風土を僕は父や祖父から受け継いだ。もともと東京の下町生まれ。何が野暮で、何が野暮じゃないか。その判断基準だけで生きているんです」
それゆえに、佐野はソングライティングに自分の感情を反映させることはいっさいない。聞けば40代は失意の連続だったそうだが、そのときも悲しみや同情を誘うような表現は行わず、ひとりの作家として、冷静に世を見つめる視点を失わないように細心の注意を払ったという。
そんな“観察者”として佐野は、最後にこんな言葉を残した。
「人生は積み重ねていくもの。誰でもいろいろな波を経験するだろうけど、そんなときにこそ大切なのは“Do The Right Thing”。自分にとって正しいことを続けていけば、その結果、光が差し込む。僕はそう信じています」

『マニジュ』


佐野元春&ザ・コヨーテバンド/デイジーミュージック/3000円
佐野元春&ザ・コヨーテバンドによる第4作目のアルバム。サイケデリック、フォークロック、ニューソウルなどを現代的な解釈で再構築した、佐野元春流のモダンクラシックスが凝縮。通常盤に加え、初回限定ボックス版(4500円)、アナログ版(3800円)を揃える。
柏田テツオ(KiKi inc.)=写真 美馬亜貴子=取材・文


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