オーシャンズとレジャー 37.5歳から始める大人の趣味入門 Vol.23
2017.08.15
LIFE STYLE

こんな幸福があるなんて! 一宮町でサーフィンを始めた人たちの物語

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オッサンになってサーフィンを始める人が増えている。まったくの初心者から、学生時代にちょろっとかじった程度の人が再び波の魅力にとりつかれる人も。

どうしてそんなにサーフィンに引き寄せられるのか? 「いい歳」をしてサーフィンに興味を持つのは、ただモテたいとか格好いいとか、そういう表層的な動機であるはずがない。きっと、これからのオッサングッドライフを楽しむヒントがそこにあるはずだ。

日本有数のサーフポイント九十九里浜の最南端にある千葉県一宮町。街ぐるみでサーフライフを推奨するこの街で30年以上もサーフショップを営む店、CHP(カルホルニアハワイプロモーション)。ここで十数年サーフレッスンをレクチャーする岡野さんに「どんな人がサーフィンを始めるのか?」を聞いてみた。
彼が話してくれたのは「誰もが手に届く幸福」をしっかり手に入れた人々のグッドライフストーリーだった。

日の出とともに目覚め、日の入りとともに休息する。
真のゆとりを手に入れた男たち。

CHPのスクールには、まったくの初心者から、家族で体験サーフィンをしにくる人などさまざまな人が訪れる。その中でも最近多いのはカムバック組だ。学生の頃夢中になってやっていた人たちが、20年経って子供も大きくなって生活も落ち着いて「やっぱりサーフィンやりたい!」と一念発起してスクールを訪れる40代も多いという。

そうした40代の中で一宮町に移り住む人も少なくない。
最寄りの上総一ノ宮駅は特急や通勤快速が停まる駅のため、東京まで最短1時間で通勤できる。朝6時に起きて軽くサーフィンをやってから、特急に座って東京に通勤し、9時半に出社をする。たまに地元の友人から「今日はいい波だぞ!」と連絡がくると、早めに仕事を切り上げて、夕方5時に戻ってきてサーフィンし、その後友人たちとビールを飲んで語らう。

日の出とともに目覚め、海と太陽のエネルギーをもらいながら波と遊び、そして、仕事に向かう。必然的に生活や仕事のスタイルも変化する。決して仕事をないがしろにするわけではない。座っていられる通勤時間を有効に使いつつ、限られた時間で質の高い仕事をこなすようになり、むしろ仕事の効率があがっていく。さらに自然とふれあい健康的な生活を手に入れることで心のゆとりも生まれていく。そんな幸福を40代で手に入れた人々がこの街には沢山いるのだ。

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海が人間関係をリセットしてくれる。
しがらみの多い自分を解放する男たち

一宮町のビーチには芸能人もしばしば訪れる。また、いわゆる「先生」と名のつくような地位の高い職業の人も多くやってくるという。
都会から離れて周囲の目を気にしないでいい環境ということもあるが、そもそも波の上では地位も身分も関係ない。誰でもが平等に波を楽しみ、己の技術を高めていく場所だ。有名だろうが、偉かろうが、マナーを守らなければ怒られるし、うまくできたら褒めてくれる。
しがらみの多い立場だからこそ、平等に接してくれる人たちに囲まれることで自分を解放しているのかもしれない。

また、40代のオッサンでサーフィンを始める人は中間管理職が多いという。そういう人たちにとってサーフィンはこの上ないストレス解消法なのだ。
ボードに座って、ひたすらいい波が来るのを待つ。そして来た瞬間に、足を裁いて水の上を滑っていく。その数秒から数十秒の間、頭の中は真っ白になる。
組織や人間関係のしがらみを簡単に打ち消すことはできないことは、大人になればなるほど痛感する。だからこそ、一瞬でも頭の中を真っ白にすることができるなら、どれほどの救いになるだろう。サーフィンを始めたオッサンたちはその快感を求め続けているのかもしれない。

太っているか、痩せているかではない。
締まっているか、締まっていないかだ。

サーファーはみんな「いいカラダ」をしている。マッチョな人はほとんどいない。しなやかでハリのある体つきで健康的な褐色肌な人が多く、男女ともにセクシーな印象を与える。
その体つきはやはり波の力の影響が多いのだろう。スイミングをダイエットに取り入れる人も多いが、サーフィンはさらに波の圧力に晒されている。またボートの上にバランス良く立っている体幹も必要だ。続ければ続けるほどバランスのいい筋肉がついていくのだろう。

かつてCHPのスクールに、30代でサーフィンを始めた女医がいた。彼女はやせ形で体も小さく、最初は15分も経てば疲れて休憩をしてしまうほどだった。しかしサーフィンの魅力にとりつかれ毎週のように一宮町に来るようになって、10年経った今では最新のショートボードを楽々と乗りこなしているという。

太っている人も、もちろんいる。しかし、たるんでいる人はほとんどいないのである。そう、「締まっている」カラダ。それこそオッサンの求める理想の体型ではないだろうか?
サーフィンは、楽しみながら理想のカラダを手に入れることができるのである。

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海と語り合うために
もうひとつの居場所を見つけた男

岡野さんの生徒の最高齢は76歳のおじいさん。その方は、65歳くらいの時からスクールに通い始めたという。普段は埼玉県で会社を経営する立場で、月に一度、泊まりで一宮町を訪れ、岡野さんのレッスンを受けにくる。

76歳ともなれば、技術の向上が目的というわけでもない。岡野さんのサポートを受けながらひたすら波乗りを楽しむのだ。そして、小一時間程度で波乗りを終えて、そのあとはビーチに上がって岡野さんといろんな話をする。岡野さんからはサーファーたちの話や海の話を、そしておじいさんからは人生の話を。岡野さん自身も毎回その時間を楽しみにしているという。

おじいさんはレッスンを終えて着替えた後、缶ビールを買ってまた砂浜にひとりで向かい、日が暮れるまでビールを飲みながら海の向こうをずっと見つめているのだそうだ。そして日が暮れたらペンションに帰っていく。

一宮町でサーフィンを始めた人々。彼らが手にしたのは、紛れもない「手に届く幸福」だ。誰しもが、今の生活の延長線上で「ありたい自分」や「欲しい世界」とつながっている。そして、その場所には「波を楽しむ」というささやかな動機さえあればたどり着けるものだということを彼らは教えてくれているのだ。

【ショップ情報】

CHP(カルフォオルニア ハワイプロモーション)
住:299-4303 千葉県長生郡一宮町東浪見7428-3
問:0475-42-4626
営:月−金 8:00-18:00 土・日・祝 6:00-19:00
休:年中無休
www.chp.co.jp

取材・文=島崎昭光
撮影=PAK OK SUN

# オッサン# サーファー# サーフィン
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