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2017.07.31

ライフ

お世話になったケアマネジャーに、金品を渡してもよい?


あまり考えたくはない未来の「もしも」が、人生には必ずある。夫婦のこと、子どものこと、両親のこと、会社のこと、健康のこと、お金のこと、防災のこと――心配しだすとキリがないけれども、見て見ぬフリをするには、僕たちもそう若くはない。今のうちから世の中の仕組み、とりわけセーフティネットについて「知っておくこと」は、自分の大切な人たちを守るためにも“大人の義務教育”と言えよう。37.5歳から考える未来の「もしも」、全6回にわたり「家族の介護」について考えていきたい。
「37.5歳のもしも……家族に介護が必要になったら?」を最初から読む
人生の最期を支援してくれるケアマネに、家族がお礼を渡したくなる気持ちもわかるのだが……

ケアマネに伴走してもらう期間は、長ければ10年以上になる

日本人の健康寿命と平均寿命の差は、男性で約9年、女性で約13年程度と言われています。健康寿命の定義は厚労省によると「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされていますので、逆にいえば健康寿命と平均寿命の差は「日常生活で誰かの支援(ケア)が必要な期間」と考えることができます。
その期間介護サービスを利用すると仮定すると、ケアプランを作成するケアマネジャー(以下ケアマネ)とのお付き合いは、長くなれば10年以上になることもありえます。異動、退職等で担当変更がなければ、ひとりのケアマネが人生の最期を10年以上伴走することになるのですから、本人や家族にとっては身内以上の存在のケアマネもいるでしょう。
家族としては、辛い時期を支えてくれて親身に相談にのってくれたケアマネに、心ばかりのお礼をしたいという気持ちになるのも自然なこと。では、家族にとって身内以上の存在のケアマネに、感謝の気持ちとして現金や物品を渡しても良いのでしょうか?

ケアマネが働く上での基本的な倫理とは

公的資格であるケアマネがどういう倫理で働くべきかを示す「倫理綱領」が、日本介護支援専門員協会によってまとめられています(※詳しくはこちらを参照ください)。自立支援や利用者の権利擁護、公平・中立な立場の堅持など、全12条文が記載されていますが、まずは前文を解説してみたいと思います。
(前文)
私たち介護支援専門員は、介護保険法に基づいて、利用者の自立した日常生活を支援する専門職です。よって、私たち介護支援専門員は、その知識・技能と倫理性の向上が、利用者はもちろん社会全体の利益に密接に関連していることを認識し、本倫理綱領を制定し、これを遵守することを誓約します。
倫理綱領というと堅苦しいイメージがありますが、ケアマネの倫理綱領は比較的読みやすい文章で、さすが「利用者本位」を名乗るだけあるなと個人的に感心したことはさておき、この前文ではケアマネが「介護保険法に基づいて」動くことが基本である、と示されています。一般的な商習慣や慣例よりも、まずは介護保険法が優先なのです。

ケアマネは公平・中立な立場でなければいけない

では、介護保険法に金品授受について明記された条文があるのか。はっきりとは明記されていませんが、第69条に「介護支援専門員は、その担当する要介護者等の人格を尊重し、常に当該要介護者等の立場に立って、当該要介護者等に提供される居宅サービス、地域密着型サービス、施設サービス、介護予防サービス又は地域密着型介護予防サービスが特定の種類又は特定の事業者若しくは施設に不当に偏ることのないよう、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」とあります。要は、公平・中立であれ、ということです。
条文にある「特定の事業者に不当に偏る」とはふたつのことが考えられます。ケアマネが所属している会社が運営している事業者ばかりを紹介する、もしくは、経営母体は別ではあるがケアマネがバックマージンをもらう約束をしている事業者ばかりを紹介することです。このふたつは法律的にも倫理的に厳しく規制されているので、利用者本位でないサービス誘導があると感じたときには、その理由をケアマネに問いただしてみてください。
では本人・家族からの金品授受はどうか。これも公平・中立から見れば、ケアマネが受け取ることはNGです。一方、寒い中来てくれたから温かい缶コーヒーを差し出す、庭で採れた野菜が豊作だったからおすそわけする、など普通の人間関係でもやりとりするレベルなら許容範囲と言えますが、線引きが難しいのも確かです。そう考えるとケアマネへのお礼は、お金や物品ではなく「心からの感謝の一言」が最もふさわしいと言えるでしょう。
次回は「ケアマネがなかなかつかまらない。そんなに忙しいの?」について書いてみたいと思います。
取材・文/藤井大輔
リクルート社のフリーマガジン『R25』元編集長。R25世代はもちろん、その他の世代からも爆発的な支持を受ける。2013年にリクルートを退職し、現在は地元富山で高齢者福祉事業を営みながら、地域包括支援センター所長を務める。主な著書に『「R25」のつくりかた』(日本経済新聞出版社)
 
 
 


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