Camp Gear Note Vol.105
2021.08.22
LEISURE

“最初の”ストーブ「プリムス」が、100年後も選ばれ続ける理由

プリムス
「Camp Gear Note」とは……

前人未到に挑むハードな探検において、ストーブは性能の良し悪しが大きく問われるギアの代表格。

気圧が低い高所や氷点下数十度を記録する寒冷地において、安定した火が使える火器は調理だけでなく、雪から飲料水を作るためにも必要不可欠。遠征の成否をも左右する重要なギアなのだ。

今回は、世界中のタフな探検家たちに100年以上愛され続けているスウェーデン生まれの燃焼器具ブランド、「プリムス」にスポットライトを当てる。

世界の一流探検家がこぞって愛用

プリムス
コンパクトかつハイパワー、風への強さなど、カタログスペック以上に、フィールドでの信頼感こそプリムスが人気を集める理由だ。

プリムス製品の歴史をたどると、話は19世紀にまで遡る。

18世紀の産業革命、19世紀に起きた第二次産業革命は、薪や石炭から灯油や石油へと燃料の進化に伴った革命である。

その波が家庭にまで届いたのは19世紀末のこと。それまで家庭で使われていた薪や石炭に代わり、ガソリンやパラフィンなど液体燃料を使ったランプやバーナーが登場し始めるようになった。

この時代に、燃焼効率が良く、煤の発生も少ない技術を採用した画期的なバーナーを生み出したのが、「ストーブの父」とも呼ばれるスウェーデン人のフラン・ヴィルヘルム・リンドクヴィスト。

1892年に世に送り出されたこのストーブは、ラテン語で「最初の」を意味する「プリムス」と名付けられた。

プリムス
こちらが「最初の」プリムスストーブ。
プリムス
「PRIMUS」ストーブの名が社名に出てくるようになったのは、1966年のこと。

1966年にPRIMUS-SIEVERT社が設立されるまで、このストーブはBAHCO社によって販売され、世界中で快調に売れ続けた。他社が販売し始めた同型のパラフィンストーブも「プリムスストーブ」と呼ばれていたほど、世間に「プリムス」の名は浸透していたそうだ。

プリムス製品はその性能の良さはもちろんだが、世界中で一流の探検家がこぞって愛用していた事実が人気に拍車をかけた理由だ。なかでも、ふたつの世界的な探検で使われたことはプリムスの性能が実証された好例だろう。

プリムス
エベレスト遠征にてヒラリーたちが使用したストーブと同型のもの。

まず、ひとつめは1911年にノルウェーの極地探検家ロアード・アムンゼンが人類史上初めて南極点に到達した遠征で使用したこと。数あるランプの中からプリムスを選んだアムンゼンは、のちに同社の広告にも登場し、その素晴らしさを称賛している。

1953年には、イギリスのヒラリー卿とテンジンによる世界最高峰エベレストへの初登頂にも携行された。氷点下の気温と強風、そして酸素の希薄な高地や極地という極限に近い状況下でも、絶対的に信頼できる製品であると太鼓判が押されたのだ。

彼らの探検がどれほどのプロモーションになったかは、想像に難くない。

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週末キャンプからヒマラヤまで、使用環境を選ばない信頼性

プリムス
1985年日本上陸時のカタログ。現行品とほぼ形が変わらない製品も少なくない。

以降、現在にいたるまでアウトドアの燃焼器具ブランドとして世界120カ国以上で販売されているプリムスだが、日本に上陸したのは岩谷産業とプリムス社が合弁会社「イワタニ・プリムス」を設立した1985年と、かなり後年のこと。

当時の日本はバブル景気前夜。所得が向上して生活に余裕が生まれ、週休2日の働き方が定着して余暇が増えことで、アウトドア市場が成長し始めた時代だった。

280万もの世帯に「LPG(液化石油ガス)」を販売していた岩谷産業が、ガスボンベを使ったアウトドア製品の展開を積極的に増やそうとしていた時期でもあった。

また、’70年代半ばまで、アウトドア用のガスコンロは一旦燃料に接続すると使い切るまで取り外すことができず、そこに新たなガスバルブ構造が登場。一気にガスコンロやストーブのコンパクト化が進んでいった時代とも重なる。

プリムス
現在は燃焼器具以外のギア開発も幅広く手掛けている。

このように、さまざまな時代背景も追い風となり、携行性に優れ、使用環境を選ばないプリムス製品は日本でもヒット。アメリカ的な使い捨て感覚ではなく、ヨーロッパの長く良いものを使う高級志向の打ち出しも成功した。

1990年代のオートキャンプブーム、のちの登山ブームの波にも乗り、今ではすっかりアウトドア好き御用達のブランドになっている。

ちなみに、筆者の登山仲間の中には父親から譲り受けたという年代モノのプリムスのバーナーを現役で使っている人がいる。これが使い込まれた雰囲気でものすごく格好良い。

プリムス
ヒマラヤ登山家もピクニックに出かけるファミリーも同じ道具が使える。

現在は、世の中の需要の変化に合わせるように製品数も増加中。グループキャンプで使えるような焚き火台から、ソロキャンプに対応可能な小型バーナーやクッカーにいたるまで、日本国内では60型近くを展開する。

その高い品質と信頼の根底にあるのは、やはり100年以上もの長きに渡り「燃焼の専門メーカー」として歩む中で、常に世界中の過酷な環境でも機能し続けてきた歴史だろう。長い年月をかけて“最初の”ストーブは磨き上げられ、週末のキャンプでも、ヒマラヤや南極遠征でさえも変わらない実力を示し続けている。

 

[問い合わせ]
イワタニ・プリムス
03-3555-5605
www.iwatani-primus.co.jp

「Camp Gear Note」
90年代以上のブームといわれているアウトドア。次々に新しいギアも生まれ、ファンには堪らない状況になっている。でも、そんなギアに関してどれほど知っているだろうか? 人気ブランドの個性と歴史、看板モデルの扱い方まで、徹底的に掘り下げる。 上に戻る

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池田 圭=文 矢島慎一=写真

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