Running Up-date Vol.62
2021.03.06
LEISURE

ファッションデザイナー小林 学さんにとって、真夜中のランニングが特別な理由

小林 学
「Running Up-Date」とは……

スロウガンとオーベルジュ。服好きから圧倒的な支持を集める両ブランドのデザイナーを務める小林 学さんは、実はランニング歴10年の先輩ランナーである。

といっても、レースに参加して記録の更新を狙うシリアスランナーではなく、気ままに走り続けての10年選手だ。

ただしひとつだけ、「走るのは主に深夜の駒沢公園」という点は特徴的かもしれない。

 

夜を駆けるオレゴンのランナーたちに背中を押されて

小林さんが走り始めたのはおよそ10年前。もともと体重の増減が激しく、ファッションの世界に身を置く者として体型維持には興味こそあれど、当時盛り上がっていたランニングブームとは精神的な距離を感じていた。

「最新のランニングウェアを着て、皇居や東京マラソンを走る、という選択肢が自分の中にありませんでした。ファッション畑の人間として、それはないよなって」。

転機となったのは雑誌「ブルータス」のランニング特集を目にしたことだった。

小林 学

「“世界で走ろう!”という特集の号で、アンダーカバーのジョニオ(高橋 盾)さんが登場していました。それから世界のさまざまな都市のランニングカルチャーも紹介されていたのですが、その中の一企画で、オレゴンのランナーたちが夜の街を走っている、というページがあったんです」。

オレゴンの野郎どもが、夜な夜なフィットネスな行為であるランニングをしている。街ではバーをはしごする人で賑わう時間帯だというのに、それってなんかパンクっぽいというか、アバンギャルドというか、なんだかとても面白そうだ。

小林 学

「そのアドレナリンの出し方が良いなと思ったんですよね。自分もそれを真似して、夜の東京を走ってみようじゃないかとインスパイアされました。

自宅のそばに駒沢公園があるという環境も良かったのかもしれません。夜の公園を走るシチュエーションにマッチする音楽を選んで、人気の少ない公園の中を突っ走る。健康のため、ヘルシーであるため、とは違うカウンターカルチャー寄りのスタンスと言いますか、世界中で同時多発的にそういうランナー連中が登場し始めていたようなんですよね。

もちろん、走ることで結果的に体調がすこぶる良くなり、体型も絞れるので、フィットネスとしても申し分なかったんですけど」。

ファッションとスポーツの距離感はなかなかに難しい。特に10年前なら尚更だ。

生粋の服好きとして業界からの信頼の厚い小林さんにとっても、前述のように、スタイリッシュなスポーツウェアに身を包んで流行りの場所で走るというのは、立ち位置的にしっくりときていなかった。

小林 学

「ファッションやカルチャーの世界に身を置く人間にとっては、実際に汗をかくようなアスレチックなものごとの周辺に居場所がなかったんですよね。でも、あえて夜の公園で走るという遊び方に気が付いたとき、居場所がポンッとできたような感覚がありました。

走るときには1990年前後のナイキのACGが好きでよく着ているのですが、これもスポーツシーンど真ん中のものではなく、日常生活に山やアウトドアを取り入れるというコンセプトがあったと記憶しています。自分にとって、ファッションとスポーツの距離感は常にそんな感じなんです」。

デザイナーが選ぶランニングギアも大いに気になるところだが、そこは後編で改めて聞いてみよう。

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真夜中の公園だから味わえる爽快感

駒沢公園には1周2km強のランニングコースが設けられており、緑も多く、日中は近隣住民たちのランニングのメッカになっている。

小林さんは仕事を終えて帰宅し、周囲が寝静まったあと、玄関を飛び出して駒沢公園まで足を伸ばす。そして周回コースを1周もしくは2周してから自宅へと戻るというのが定番になっている。

「1周なら自宅からでトータル45分、2周しても1時間ほど。アスレチックなこととは程遠い深夜の時間帯に、普通の人がやっていないことをやっている感覚が面白いんですよね。

それと、夜の駒沢公園ってすっごくキレイなんですよ。空気も良いですし。夏は公園の水道で水をかぶって、汗を流してから家路につきますが、そのときの夜風に当たる爽快感たるや。駒沢公園にはほかにも深夜に走っているランナーがチラホラいて、なんだかシンパシーを感じてしまいますね。

とはいえ基本的には空いているので、音楽を爆音で聴きながら走っても大丈夫なんです。とにかく気持ちが良い。雨が降っている日でも、気にせず走りますよ」。

小林 学

「自分は身長が171cm、体重70kg前後の、いわゆるMサイズの体型です。オーベルジュチャンネルという動画チャンネルで表に立つ機会が多くなっている手前、中肉中背のマネキン的な体型はキープしないといけない(笑)。

太りやすいので、体重が増えると食事面での制限も始めるんですが、60kg台の半ばに近づいてくると調子が良いですね、やっぱり」。

ブランドの顔であるデザイナーとして、横に成長しすぎることはある意味、死活問題なのだ。

「食べることが好きなので、放置するとどんどん体重が増えちゃうんですよ。ランニングという行為自体は気持ちが良いからやっているので、その副産物で体型維持がついてくるのはありがたいと言いますか。

歳も歳なので、去年までと同じことをしていると明らかにお肉がついてしまう。ちょっとずつハードルを上げていかないとキープできないので、それもいいモチベーションになっています」。

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走るときに考えていること

小林 学

走るときにデザインや企画が思いつくこともあるのだろうか。

「このところは、コラムや動画の内容を考えながら走ることが多いですね。駒沢公園1周がちょうどYouTubeの番組1本分になるので、話す内容を頭の中で反芻させながら。砂時計のような役割ですよね。それが今の習慣かな」。

飲みに出歩くのではなく、夜中の公園に走りに行くのであれば、誰かに咎められるようなこともない。後ろ指さされずに自分だけの時間を作るには実に良い口実であり、手段になる。そして、夜の駒沢公園にはちょうど良い塩梅の非日常感、スリリングさも待っている。

「ニューヨークのセントラルパークを走っている気分に浸っているような、イマジネーションの世界に行けます。この環境が良かったからこそ、今まで続けてこられたのかな。今後も変わらぬスタンスで走り続けると思います」。

そう、走ることは無理なく日常へと取り入れられる、ちょっとした冒険なのだ。

小林 学

RUNNER’S FILE 30
氏名:小林 学 
年齢:54歳(1966年生まれ)
仕事:スロウガン代表
走る頻度:週2~3回。平日であれば深夜に、10kmほど
記録:レースへの参加は特になし

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「Running Up-Date」
ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。街ランからロードレース、トレイルランまで、走ることは日常でできる冒険だ。 上に戻る

礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真

# Running Up-Date# オーベルジュ# スロウガン# ランニング# 小林学# 駒沢公園
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