Camp Gear Note Vol.76
2021.01.24
LEISURE

一度座ると立ち上がりたくなくなる「オンウェー」のアウトドアチェアができるまで

オンウェー

「Camp Gear Note」とは……

昨今のキャンプブームの流れを受け、アウトドアギアにひとつの顕著な変化が見られるようになった。

これまでは屋外で使うための機能や見た目に特化した、手軽に手に入るものこそがアウトドアギアの主流だった。しかし、ショッピングモールにもキャンプ道具が普通に置かれるようになった今、実用性は保ちつつも日常的に自宅で併用できる高品質なものが主流になりつつある。

つまり、アウトドアギアと生活用品や家具との境界線がなくなってきているのだ。

今回取り上げる「Onway(オンウェー)」は、そんな流れが生まれるずっと前から、アウトドアギアの枠に捉われず、ひたすらに良い家具を作ることだけを目指してきた日本ブランドである。

 

メーカーとしての経験がブランドとしての強みでもある

オンウェー
代表作のひとつ「スリムチェア」。この佇まいの美しさは機能面を追求することで生まれる。

世の中が第一次キャンプブームに沸き立つ1995年、オンウェーはアウトドア製品の“メーカー”として産声を上げた。

実は、自社ブランド・オンウェーを立ち上げたのは、2013年と最近になってからのこと。それ以前は、メーカーとして独自に設計したものを他社に提案したり、要望を受け付けたりするのが主な業務で、数々のブランドとの仕事を手掛けていた。

創業当時のアウトドアマーケットには似通ったギアが多く、品質面にこだわるブランドやユーザーは今ほど多くはなかったそう。業務を通じて多種多様な製品を目にしてきた創業者の泉 里志さんが「世代を超えて長く愛される高品質な製品を手掛けたい」と思い立ったのは、必然だったのかもしれない。

オンウェー
理想の家具を形にするためには、まだリターンが見込めない状況であろうと金型から製作することも厭わない。

当時のキャンプ用品は安価な商品が良しとされるなか、オンウェーは家具の歴史、折り畳み構造の歴史にまで深く着目して製品開発に臨んだ。その存在が異質だったことは想像に難くない。

彼らが製品開発のテーマとして掲げたのは、「世代を超えて永く愛される製品を開発すること」である。これは自社の製品単体のことではなく、彼らが世に出した製品がさまざまなシーンに影響を与えながら、全体で不朽の作品となることを意味する。

ロープライス、大量生産、お洒落で便利な……なんてテーマとはちょっと質が違う、壮大な志が彼らのものづくりの根底には流れている。

オンウェー
300kg、72時間も強度テスト、2000回にも及ぶ耐久テストなど、厳しい品質検査をクリアして初めて製品化される。
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折り畳みファニチャーへの飽くなき探究心

オンウェー
モデルごとに独創的なフレーム構造が採用されている。

数あるアウトドアギアの中で、泉さんが目を付けたのは折り畳みができるアウトドアファニチャーだった。

当時のキャンプブームは欧米からの影響を大きく受けていたため、キャンプ道具はどれも欧米仕様の大きく重たいものが当たり前だった。欧米人はなんでも積み込める大きな車と広々としたガレージを持っている。しかし、我々日本人は同じようにはいかない。

よりコンパクトに収納できる方法はないか。より軽量で丈夫な素材はないか。泉さんは自社工場を立ち上げ、製品開発から品質管理までを手掛けながら、最良の形を模索し続けた。

オンウェー
さまざまな試行錯誤を経て、良いとこどりな多方向開閉タイプが生まれた。

ちなみに、折り畳み椅子と言われて、皆さんはどのようなものを思い浮かべるだろう。きっと会議室にあるような形に違いない。

あれは「前後タイプ」と分類されるもので、座面が畳まれないために座り心地はいいが、収納性に難がある。一方、アウトドアチェアによく見られる「中央収束タイプ」は、収納サイズが非常にコンパクトな反面、座面の張りが出せないデメリットがある。

そこでオンウェーが生み出したのが、両方の良い面を併せ持った新機構「多方向開閉タイプ」。フレームの構造自体から設計し直し、小さなパーツやギミックを搭載することで、座り心地と収納性を同時に実現させている。

座り心地の違いは、アウトドアショップに行ってみれば明確にわかる。

オンウェー
小さなパーツや構造を見直すことで驚くほどコンパクトな収納方法を実現している。

実はオンウェー製品の大きな特徴が、この座り心地の良さ。どの椅子も使用目的が設定されており、人間工学に基づいてそれぞれのシーンでもっとも収まりが良い高さと角度に、座面と背もたれがデザインされている。

アウトドア好きの間では、「オンウェーの椅子は一度座ると立ち上がりたくなくなる」なんて話も出るほど、その座り心地の評判は高い。

しかし、このデザインから設計、製造までを指揮する泉さんは営業畑出身というから驚きだ。すべて独学でデザインや人間工学を学んだというのだから、その熱意には頭が下がる。

オンウェー
リラックス用と軽い休憩用では、背もたれや座面の高さがここまで違う。
オンウェー
実物で見比べると、モデルごとの違いはよーく見ないと気付かないほど。しかしこの違いが大違いとなる。
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目標は「100年後にも使われる道具の開発」

オンウェー
ブランド初期から現在まで売れ続けるベストセラー「ディレクターチェア」。

ブランド初期に転機となった製品は、現在も売れ続けている「ディレクターチェア」だろう。

従来のディレクターチェアは足が4本あったが、1本のフレームを美しく曲げたものをサイドに採用することで、これまでにない強度とフォルムの美しさを実現。また、ワイドな設計、後ろ荷重にすることで座り心地の快適さを重視した構造になっている。

この作品を機に、オンウェーの名は海外の展示会で注目されることとなった。オンウェー独自の強みを作り上げた、記念碑的製品である。

オンウェー
ほかの製品開発で不良在庫になっていたフレーム素材が発想の元となった。

以降も、ネジなしで畳んで収納できるテーブル、ベンチにテーブルを収納できるセット、丸められるアルミ天板のテーブルなどを画期的なアイディアが光る製品を次々と発表し、マーケットに大きな影響を与え続けてきた。

自動車のバンパーや住宅の外壁から素材の着想を得たりと、発想は自由そのもの。その強みを活かした共同開発にも積極的で、近年はザ・ノース・フェイスのファニチャーも手掛けている。知らずに愛用している読者もいるのでは?

オンウェー
左の一般的な丸型フレームと比べると違いは明らか。部材ひとつとっても設計、試作を繰り返している。

さらに、より快適な時間を使用者が過ごせるようにと定番モデルの素材を見直したり、ディテールを変更し続けたりと、現在の地位にあぐらをかくことはない。

オンウェー
ブランドの歴史を追う図。たくさんの椅子を開発してきたことがわかる。

目標は「100年後にも使われる道具の開発」と言うが、彼らの椅子を未来のキャンパーがフィールドや自宅で愛用しているシーンを想像するのは難しくないような気がする。

欲しくなったら、自分のためやキャンプで使うためではなく、「孫のため」「自宅でも使うため」と言えば、きっと奥さんも首を縦に振るに違いない。

 

[問い合わせ]
オンウェー
03-3234-9981
www.onway.jp

「Camp Gear Note」
90年代以上のブームといわれているアウトドア。次々に新しいギアも生まれ、ファンには堪らない状況になっている。でも、そんなギアに関してどれほど知っているだろうか? 人気ブランドの個性と歴史、看板モデルの扱い方まで、徹底的に掘り下げる。 上に戻る

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池田 圭=取材・文 矢島慎一=写真

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