Camp Gear Note Vol.74
2021.01.10
LEISURE

アメリカ東海岸生まれの「ニーモ」が、日本のフィールドで支持される背景

「Camp Gear Note」とは……

日本のアウトドアマーケットには、数多くの海外ブランド製品が溢れている。

ニーモ

どれもスタイリッシュで魅力的に見える。が、なかには実際にフィールドで使ってみると今ひとつなものも少なくない。

開発された欧米と日本の気候や環境が大きく異なるため、高性能かつ多機能なことを売りにしているモデルでも、日本ではその実力を十分に発揮できないことがあるからだ。

その点、テントやスリーピングマットなどを手掛けるアメリカ東海岸発のブランド「ニーモ」の製品は、ここ日本でも、現場のプロたちからの評判がすこぶる良い。なぜだろう?

ブランドの歩みと開発背景を探ってみると、その理由がはっきりと見えてきた。

一風変わったテントからブランドをスタートしたわけ

ニーモ
市場に存在しない革新的なテントでシーンに衝撃を与えるため、初めの2年間はテントの開発に専念した。

ニーモの創業は2002年。金属フレームの代わりにエアビーム(空気の梁)を採用するという斬新な構造のテントによって、世界的な注目を集めた新興ブランドだ。

創業者のカム・ブレンシンガーはデザインと設計を学ぶ大学生だった。そして、スキー、MTB、アイスクライミングなど山の遊びから、サーフィン、SUP、釣りなどの海の遊びまで幅広くこなす多彩な趣味人でもあった。

子供のように好奇心旺盛な彼は、その幅広い趣味から得た知識と経験を生かし、現在も製品のデザインと開発に取り組んでいるそうだ。

ニーモ
カムはアメリカでも有数の芸術とデザインの大学「RISD」在学中に、ニーモを起業した。

数あるギアの中から手始めにテントを選んだ(しかもかなり個性的な)背景には、将来的にアウトドア総合ブランドとしての展開を睨んだカムの長期的戦略があった。

当時、既に市場にはさまざまなアウトドアギアが流通していたが、テントは長年大きな革新がないジャンルだった。

「まずは、このジャンルに斬新なアイデアを持ってインパクトを与えよう。そして、マーケット内でのポジションを確立してから徐々にラインナップを広げていこう」。

そんなカムの狙い通り、見事インパクトを残すことに成功すると、ニーモの名とともにブランドとしての信頼性と将来性も大きく広がっていった。

ニーモ
国際的な展示会に出店すると、個性的かつ機能的なテントの数々は大きな話題と注目を集めた。
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フィールドでの要望を形にするためには小さなパーツにもこだわる

ニーモ
世界レベルのアドベンチャーレーサーたちがテントを愛用してくれたことが、なによりのブランドPRとなった。

世界的な展示会で権威ある賞の数々を受賞したのち、2006年にニーモは正式に製品の販売をスタートした。

その頃には、世界中のアドベンチャーレーサーやアルピニスト、カヤッカーなど、エクスペディションな環境にチャレンジするコアユーザーの間で、ニーモはすっかり話題のブランドになっていた。

マーケット発信の話題優先ではなく、実際にフィールドで使い込むリアルなユーザーから認め始められたことに、このブランドの立ち位置がよく現れている。

ニーモ
エクスペディションな環境からファミリーキャンプまで、幅広く使える製品ラインナップもブランドの特徴だろう。

彼らのテントはエクストリームな極地遠征にも使われているが、初めてキャンプに出かけるエントリーユーザー向けのテントまで幅広いタイプのデザインが揃うのも特徴である。

すべてのニーモ製品に共通するのは、「より暖かく、よりドライに、より快適(安全)に過ごせること」。

テントはアパレルと違って大量に売れるものではないので、生産効率を考えると既存の素材やパーツを組み合わせてデザインするのが一般的だ。しかし、この生産の効率化やコスト削減がテントの進化を足止めしてきた。

一方で、ニーモは構造だけでなく、小さなパーツにいたるまで積極的に独自の開発を進めている。その小さな改善の積み重ねこそが、ニーモの圧倒的な独自性を形作っているのである。

ニーモ
柔軟で自由な発想のフレーム構造を生み出すためには、小さなパーツでも作る手間や時間も惜しまない。

ちなみに、現在日本で流通するニーモのテントのほとんどが、日本の気候やマーケットニーズに合わせた仕様となっている。製品テストやフィードバックの検証を行なうため、プロダクトの開発チームは年に数回、日本にも訪れているそう。

高温多湿で四季のある日本独特の気候環境に対応できるよう、換気と温度調整機能を追求した彼らのテントは、現場の評判がすこぶる高い。

なかでも日本向けにゼロから作られたフラッグシップモデル「タニ」は、この10年で日本の山岳テントのスタンダードのひとつとしての地位を確立したほどだ。

ニーモ
日本仕様のモデルとして大ヒットを記録している「タニ」。もはや山岳テントのスタンダードだ。
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ユーザーにより良い体験を提供する

ニーモ
マットやシュラフもニーモが得意とするジャンルである。

近年はマットやシュラフ、キャンプ用品に関しても、本国では展開していないサイズや仕様のラインナップを増やしてきている。

さらに、テント同様、その発想はどれも独自性に富んだものが揃う。例えば、エアマット特有のフワフワとした寝心地を排除しつつ、断熱性を高めるためのフィルムを吊り下げ構造にすることで不快な音を排除した画期的な構造のマット然り。寝返りに対応できるよう、肘と膝周りに余裕を持たせた独特なシェイプのシュラフ然り。

どんなに売れそうだとしても、既に市場に流通している製品に類似したものは頑なに作らないらしい。

ニーモ
「スプーンシェイプ」と名付けられた独特な形状。細部まで手を抜かない独自構造の面白さは後編で解説する。

ちなみに、ニーモが本社を構えるのは、ニューヨークの上に位置するニューハンプシャー州。

森林や湖に囲まれた自然豊かなフィールドで、バックカントリー・スキーやMTBができるスポットやサーフポイントにもすぐに出られるという、なんとも羨ましい職場環境だそう。

気候は東北や北海道に近く、日本と同様に四季が存在する。そんな自然環境を舞台に、日々製品テストが行なわれている。

ニーモ
ポンプを足で踏むことで水圧を得られるポータブルシャワーはサーファーにも人気の商品。

カムを含め、開発スタッフにはサーファーも多く、「ヘリオプレッシャーシャワー」のように、山だけでなく海でも使える視点で開発されている製品も少なくない。

残念ながら製品化にはいたらなかったが、過去にSUPのデッキ上にセットして使うテントやインフレータブルタイプのボディボードの開発が検討されたこともあったらしい。

ニーモ
キャンプやビーチ、BBQでも活躍するシェルターも使用シーンを選ばない。

「現在市場に存在するものよりも、さらにユーザーに良い体験を提供するための製品を手掛ける」。

この企業理念に則してさえいれば、彼らに山の道具、海の道具という境界線は存在しない。

作りたいのは真にフィールドで必要とされるもの。そうして生まれるギアは、机上で数値やギミックを追いかけて作られた製品とは一線を画す。

必要とあれば小さなパーツも作るし、日本だけの仕様を作ることだっていとわない。この圧倒的なユーザー目線の姿勢。そりゃ、現場からの評判がいいわけだ。

ニーモ

[問い合わせ]
イワタニ・プリムス
03-3555-5605
www.iwatani-primus.co.jp

「Camp Gear Note」
90年代以上のブームといわれているアウトドア。次々に新しいギアも生まれ、ファンには堪らない状況になっている。でも、そんなギアに関してどれほど知っているだろうか? 人気ブランドの個性と歴史、看板モデルの扱い方まで、徹底的に掘り下げる。 上に戻る

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池田 圭=取材・文 宇佐美博之=写真

# Camp Gear Note# キャンプ# スリーピングマット# テント# ニーモ
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