センスがいい男たちと考察! 「大人カジュアル」ガイドブック Vol.8
2020.03.06
LEISURE

アウトドアの“モノとコト”にこだわる、モンベルのモノ作りの哲学

僕らのアウトドアアクティビティに欠かせないブランド、それがモンベルだ。三代目社長の辰野岳史氏は、創業者・辰野 勇氏の長男である。

いったいどんな社長なのか。それはとことん客のことを考え、とことん手を動かす社長だった。

僕らのアウトドアアクティビティに欠かせないブランド、それがモンベルだ。三代目社長の辰野岳史氏は、創業者・辰野勇氏の長男である。
「良いモノを安く親切に売る。それに尽きるんですよ」代表取締役社長 辰野岳史 氏 1976年、大阪府生まれ。幼少時よりアウトドア全般に親しみ、高校時代には自転車のツーリングやバイクのカスタムに夢中になる。大学卒業後クルマのカスタムショップに勤務したのち、2000年にモンベルへ入社。店舗勤務を経て、’07年に専務取締役に就任。’17年9月1日より現職。3児の父。

Brand Profile
アイガー北壁日本人第二登を果たした辰野 勇、その山仲間の真崎文明、増尾幸子により1975年に設立。“Function is Beauty(機能美)”および“Light & Fast(軽量かつ迅速)”をコンセプトに製品開発を続けるアウトドアブランド。登山、キャンプ、自転車から農林漁業まで、さまざまなフィールドで使うウェアとギアを生産する。

モノ作りの起点はフィールドでの実体験

「創業者の辰野 勇(現会長)は1970年代のトップクライマーのひとり。ただその当時は、テントや寝袋、衣料といった登山用具は軍の払い下げ品などを使っていたそうです。満足できるモノがなかったことが、モンベル設立のきっかけなんです」。

そう言って当時の製品カタログを見せてくれたのは、2017年に代表取締役社長に就任した辰野岳史氏だ。モンベルの創業初期に作られた製品のひとつに、中空構造のダクロン繊維の中綿を採用した寝袋がある。軽く暖かく、コンパクトに収納できるこの寝袋は、化学繊維が「ダウンの代用素材」と思われていた時代に、イノベーションを起こした製品といえる。

「創業メンバーはモノ作りのプロではありませんでしたが、コトのプロフェッショナルでした。実際のフィールドで本当に必要な要素を追求。今も製品のアイデアは、そのほとんどが社内から上がってくるものなんですよ」。

最新のゴアテックス素材を使用し、優れた防水透湿性を発揮するレインウェア「トレントフライヤージャケット」。/モンベル
最新のゴアテックス素材を使用し、優れた防水透湿性を発揮する「トレントフライヤージャケット」。きわめて軽量な仕立てで、付属の小さなバッグにコンパクトに収納できるというレインウェアだ。2万2800円/モンベル 06-6536-5740

モンベルには現在、登山、カヌー、サイクリング、キャンプなどさまざまなカテゴリーに精通した多くの社員がいる。彼らの実体験に基づくニーズが、製品に直結しているのだ。

「今は約4000アイテムの製品を作っています。売れる商品もあれば、それほど売れない商品もありますが(笑)。ただ、自分たちが必要だと思うモノは、そのアクティビティを楽しむ誰かにとって必ずプラスになる。コトを楽しむ助けになる。そう信じているんです」。

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アウトドアの“モノとコト”はあらゆる場所で役立つ

モンベルのアイテムには街着として十分通用するデザイン性がある。実際、街でそのフリースやバックパックを目にすることも多い。

「例えば襟なしのインナーダウン(製品名「スペリオダウン ラウンドネックジャケット」)は、首回りのゴワつきや窮屈さを解消するために開発したもの。もちろんフィールドでの着用を想定していましたが、発売してみると、スーツのインナーに着るというお客様がいたんです。街でも着られる山着というわけです。アウトドア用品は、使う人それぞれが、自由な使い方をしていいんですよね」。

竹柄と波柄の開襟シャツ「TAKEロハ」/モンベル
竹柄と波柄の開襟シャツ「TAKEロハ」。山好きには竹柄を、海好きには波柄をおすすめしたい。柄ばかりでなく、コットンに竹繊維を混紡した生地を採用。もちろんボタンはバンブーボタンだ。各7200円/ともにモンベル 06-6536-5740

またアウトドアの服や道具は、いざというときの生きる力になる、と岳史氏は言う。

「災害時にもテント、寝袋、最低限の着替えをザックに詰め込めば、一週間くらいは何とかなります。あとは水と食料を確保すればいい。また服や道具はもちろん、アウトドアで培った知識や経験も、有事の際には必ず役に立つはずです」。

モンベルでは1995年1月の阪神・淡路大震災以来、継続して災害支援活動に取り組んでいる。物資の提供。義援金の協力。ボランティアの派遣。直接的な支援に加えて、“アウトドアのモノとコト”が自然災害への対応力となることを伝え続けている。

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興味を持った人をがっかりさせてはいけない

「もともと機械いじりが好きですし、モノ作りそのものにハマるタイプかも」という岳史氏。高さを3段階に変えることができる「マルチ フォールディング テーブル」やコンパクトサイズの財布などは、岳史氏が発案し商品化したものだ。アイデアが浮かべば企画室で図面を引いたり、店舗の什器を設計したり。常に手を動かしている社長なのだ。

凹凸加工を施して体積を減らした背面パッドを採用するなど、とことん軽量化を図ったバックパック「ルルイパック23」。/モンベル
凹凸加工を施して体積を減らした背面パッドを採用するなど、とことん軽量化を図ったバックパック「ルルイパック23」。ロールトップ式で、インナーバッグを装着することで高い防水性を発揮してくれる。容量は23L。H50×W25×D16cm 1万1500円/モンベル 06-6536-5740

社長に就任して3年。今後モンベルをどのような方向に導こうと考えているのだろうか。

「父である辰野勇の行動基準は知っていましたし、モンベルとしての選択肢の取り方は見ていました。だから社長に就任したときも特別何かを変えようとは思いませんでした。私自身、ずけずけと言いたいことを言うのも店舗勤務のときから変わらない(笑)。私は社長ですが、私の会社ではありません。何よりお客様あってのモンベル。お客様に信頼され、喜んでもらえる会社であり続けたいですね」。

岳史氏のモンベルでのキャリアは、店舗スタッフからスタートしている。長く接客と販売に携わり、ひとつわかったことがある。

「私たちは『モノを売っているわけじゃない』と思ったんです。お客様は、登山を始めてみたい、子供と一緒にキャンプをしてみたいという夢を持って店にやってくる。僕らの仕事は、その夢をかなえるお手伝いをすることではないかと。例えば、モンベルの登山靴がどうしても合わないお客様がいるとしましょう。もし社員に売り上げのノルマを課せば、そのお客様に無理に売ろうとするスタッフが出てくるかもしれない。それは絶対やってはいけないこと。むしろそのお客様の足に合うであろう他のブランドを提案して、モンベルから送り出してあげるべき。

創業者の辰野勇は、ことあるごとに『良いモノを安く親切に売らなければならない』と言っていました。この言葉の裏側には、せっかくアウトドアに興味を持ってくれた方をがっかりさせてはいけない、という意味があると思っています」。

側面をほぼ垂直に立ち上げ広々とした空間を実現した「ルナドーム 2型」。/モンベル
側面をほぼ垂直に立ち上げ広々とした空間を実現した「ルナドーム 2型」。本体とフライシートに新開発の素材を使用し、優れた軽量性と剛性を備える。ポール、フライシートを含む本体重量はわずか1.58kg。H110×W210×D130cm[収納時は径17×W36cm] 4万6000円/モンベル 06-6536-5740

さて先日、長く愛用していたモンベルの折りたたみ傘の骨を折ってしまい、ある店舗で新しいものを購入した。そして折れた傘の処分をお願いした。「もちろん承ります。ただ、一度拝見していいですか?」。スタッフは折れた箇所を確かめるとこう言った。「修理できます。時間はかかりますが、お待ちいただけるのならぜひ」。購入はキャンセルしてくれた。

スタッフの心遣いがありがたかったし、費用的にも助かった。何より「壊れたら買い替えるのが当然」という考え方に対して、今一度思い直すきっかけを与えてくれた。岳史氏が「モノを売っているわけじゃない」と言った真意を、理解できたような気がした。

 

山口謙吾=写真(人物)、鈴木泰之=写真(静物) 加瀬友重=編集・文

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