37.5歳からの愉悦 Vol.154
2020.07.23
FOOD&DRINK

経堂の鉄板バルで、看板娘がビールの売り子バイトで新人賞を受賞していた

「看板娘という名の愉悦」とは……

プロ野球シーズン真っ盛り。球場で飲む冷たい生ビールは最高だが、そんなシーンも今年は当分望めないだろう。しかし経堂には、そんな生ビールをガンガン売っていた看板娘がいた。

この先には東京農業大学の世田谷キャンパスがある。

訪れたのは、今年6月にオープンしたばかりの「あらた」。本場大阪仕込みのお好み焼きが食べられる鉄板バルだ。

今年6月にオープンしたばかりの「あらた」。本場大阪仕込みのお好み焼きが食べられる鉄板バルだ。
テイクアウトもOK。

16時から営業しているのも嬉しい。

店内を覗くと看板娘の姿が見えた。
クラフトビールにも力を入れている。

しかし、ここは鉄板バルという名のスタジアム。生ビール一択だろう。お値段650円。

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看板娘、登場

「お待たせしました〜」。

とびきりの売り子スマイルを見せるのは茉子さん(21歳)。広島県から上京し、現在は都内の大学に通っている。昨年から球場でビールを売るアルバイトを始めたが、コロナの影響で休業状態。7月からこの店で働き始めたそうだ。

フードメニューも拝見。

やはり、鉄板焼きは外せない。茉子さんと相談の末、「あらたスペシャル 極み」(1430円)と「濃厚かきバター」(968円)を注文した。

外野席上段あたりに飛び込むホームランだ。

茉子さんは友人たちから「ぴんまこ」と呼ばれている。

「お姉ちゃんの名前が『りこ』なんですが、小さい頃から『りこぴん』って呼ばれていたんです。私のあだ名も相談したら、『まこぴん』は変だから『ぴんまこ』にしなよって。何が変なのかはわかりませんが(笑)」。

インスタネームも「ぴんまこ」。

ちなみに、売り子バイトでの最高記録は1日約300杯。見事、メーカー内の新人賞を受賞した。たくさん売るコツを知りたい。

「試合の状況を把握することですね。イケイケで盛り上がっているチームのファンはテンションが高いので、そこを逃しません」。

肩に背負っているビールサーバーは、人差し指でトリガーを引いてビールを出し、親指で別のトリガーを引いて泡を出す仕組み。しかし、これだと時間のロスがあるため、ビールだけで泡を作る高等テクニックを習得したそうだ。

「お店のサーバーの方が簡単」とのこと。

店名の「あらた」は店長・藤原 新(あらた)さんの名前をそのまま冠している。新さん、入ったばかりの茉子さんはどうですか?

「お客さんへの気遣いができるし、いるだけで店の空気が明るくなるんですよ。ドラフト1位で指名した選手が入団してくれた気分。うちの店でも新人賞を獲りますよ(笑)」。

店長は地域に溶け込もうと、開店前に店周辺のゴミ拾いをしている。

先ほど「広島県から上京」と書いたが、広島は広島でも茉子さんは島の出身だった。

「倉橋島のなかの音戸町というところで、地区の特産品はプリップリの牡蠣。本土とは音戸大橋で繋がっていて、呉市街までは車で40分ぐらいですね」。

2005年に呉市に編入されて自治体としては消滅したが、町名は残っている。茉子さんも思い入れが強いらしく、「私は音戸の子なので」と言っていた。

中央付近の倉橋島内にあるのが音戸町。

実家は海運業を営んでいる。

「といっても、お父さんが社長でお母さんが船長という小さな会社ですけど。こないだも山口の宇部港や大阪の堺泉北港を回って、2週間ぶりに下船したと言ってました」。

船内のタンクには化学系の燃料などが入っている。

両親は非常に仲が良く、家でも船でも常に一緒にいるそうだ。そして、お父さんは『オーシャンズ』を定期購読していた。

船乗り夫妻のツーショット。

現在は本土と結ぶ2つの橋が架かっているが、それ以前は「音戸の渡し船」が活躍した。わずか90mを片道3分で結ぶ「日本一短い航路」で、今も現役だ。

情緒あふれる渡船場。

一方、呉には中央桟橋ターミナルがあり、広島や松山に向かう高速船やフェリーが発着している。

上には呉市内を360度見渡せる展望室。

高校時代の茉子さんはテニス部の部長で、学校としては9年ぶりとなる中国大会出場を果たした。結束力のある部員たちとテニス初心者の顧問が一体となって頑張ったという。

「18時に部活が終わると、そのあとは塾。家に帰るのは毎日23時ぐらいでした。車で送り迎えしてくれた両親に感謝です」。

大学ではフットサルサークルのマネージャー。

趣味は旅行、カフェ巡り、服を買うこと。昨年は高校時代の友人と台湾を訪れた。

「現地で食べたマンゴーがめっちゃ美味しかったです。あと、好きな色と香りのシャンプーを自分で調合できるショップにも行きました」。

2006年に開店、女子に人気の「mr.hair」。

インタビューが終わり、茉子さんは店の前で呼び込みを始めた。すると、面白いように客が入ってくる。

経堂の新たな風景として定着するであろう(半)外席。

上京して「コンビニに歩いて行けることに感動した」という茉子さんも大学4年生。単位はすべて取得済みで、就職活動も6社受けて落ちたのは1社のみだ。来春からはアパレル系の商社で働くが、それまではたくさんシフトに入るつもりだと言っていた。

お見送りをしてくれる看板娘。

さて、最後に読者へのメッセージをお願いしますよ。

音戸町の特産品である牡蠣とちりめんを添えてくれました。

 

【取材協力】
お好み焼き・鉄板バル あらた
住所:東京都世田谷区経堂1-5-10
電話:03-5451-8800
https://gg7z310.gorp.jp

 

「看板娘という名の愉悦」とは……
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文 

# お好み焼き・鉄板バル あらた# 看板娘# 経堂
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