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2018.01.18

たべる

「モエ・エ・シャンドン」はどう作られる? 醸造最高責任者に聞いてきた!

シャンパーニュという酒を語るとき欠くことのできないブランド、それが1743年創業のシャンパーニュメゾン、モエ・エ・シャンドンだ。
F1の表彰台におけるシャンパンファイトをはじめ、カンヌ国際映画祭、有名ブランドのショーなどセレブリティが集う晴れの舞台には、必ずと言っていいほどこのシャンパーニュが供される。
2015年に醸造最高責任者のブノワ・ゴエズ氏が造り出した「MCⅢ(エムシースリー)」は、ブランドの歴史そのもののアサンブラージュ(調合)といえるかもしれない。
その味を決定する醸造最高責任者、ブノワ・ゴエズ氏がブランドの歴史と新しいシャンパーニュについて語った。
 
モエ・エ・シャンドンとは?
1743年、フランスでクロード・モエが創業したシャンパーニュのトップブランド。ブランド名は1833年のモエ家とシャンドン家の結婚に由来する。ウェディングの風景としてお馴染みとなったシャンパンタワーもこのブランドによる発明だ。
1987年にラグジュアリーブランドグループ「LVMH」の傘下に。1190ヘクタールを超えるシャンパーニュ地方最大のブドウ畑を所有し、世界各国へ出荷している。
 

「クラシックへの敬意がなければ、新しいものは生まれない」

醸造最高責任者 ブノワ・ゴエズ 氏。1970年、フランス・ブルターニュ出身。大学卒業後、カリフォルニア、ニュージーランド、オーストラリアのワイナリーで修業を積む。その後南仏プロヴァンスでワイン造りをしていたときに当時のモエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者と出会い、’99年に入社。2005年には35歳の若さで醸造最高責任者に就任する。都会よりも自然豊かな郊外で過ごすのが好きだという。休日にはDIYやガーデニングを楽しんでいる。
「モエ・エ・シャンドンのルーツはシャンパーニュ地方で1743年に創業した小さなワイナリー。創業者のクロード・モエの尽力によってフランス政財界の間で知名度を高め、1748年にはフランス王室御用達に。その後、ルイ15世の寵愛を受けたポンパドゥール夫人によってヴェルサイユの王侯貴族たちの間に広まりました」。
1792年には3代目当主ジャン・レミー・モエのもとシャンパーニュの専業ブランドに。「シャンパンの魔法を世界中へ」という思いから、18世紀後半からアメリカへの輸出を開始。1903年には日本上陸を果たし、グローバルブランドへと成長を遂げる。
「F1のシャンパンファイトは栄えあるエピソードのひとつです。’67年にフランスで開催されたル・マン24時間耐久レースの表彰式で、優勝したアメリカ人レーサーがモエ・エ・シャンドンを観客に浴びせたのが始まり。このことからモエ・エ・シャンドンは“成功の証し”と言われるようになりました」。
そんな華麗なる歴史に2015年、新たな1ページが書き加えられた。「MCⅢ(エムシースリー)」の登場である。ブランド名を表す「MC」と、メタル、ウッド、ガラスという3つの環境を象徴する「Ⅲ」を冠したものだという。
「その名のとおり3つの異なる環境で熟成させたワインをアサンブラージュ(調合)しました。第1の層はステンレススティール製のタンクの中で発酵、熟成させたワイン。第2の層は大型のオーク樽で熟成させ、その後ステンレススティール製タンクに貯蔵した’98年、2000年、’02年の“グラン ヴィンテージ コレクション(※1)”をブレンドしたもの。第3の層は瓶内熟成を経た’ 93年、’98年、’99年のヴィンテージシャンパンです。つまりステンレススティール(メタル)とオーク(ウッド)、瓶(ガラス)という、3つの環境で造り上げられたヴィンテージを融合した、三位一体のシャンパーニュというわけです。完璧な調和、相互補完性、バランスの3つを備えた味に仕上げました」。
グラスを傾けながら、その複雑精妙な味わいをゴエズ氏はこう表現する。
「シルクのような滑らかな口当たりは、熟成期間の長いヴィンテージワインならではのもの。フルボディでありながら繊細、濃厚かつしなやか、そしてエレガント。フィニッシュは爽やかでミネラル感溢れる長い余韻が続きます」。
先駆的な醸造工程によって生まれた「MCⅢ」は、シャンパーニュ界の新しい時代の扉を開くものといえる。
「我々は地位に甘んずることなく、常に先進性を重視し、時代に合った最高のシャンパーニュを生み出してきました。ただ、そのためには、ブランドの歴史や先人の教えを忘れないことが何よりも大切です。クラシックへの敬意がなければ、新しいものを生み出すことはできないのですから」。
 
グラン ヴィンテージ コレクション(※1)
天候に恵まれ、抜群の品質を持つブドウが収穫された年にだけ造られるシャンパーニュ。メゾンの財産というべきもので、ブランド初の「グラン ヴィンテージ」は1842年に誕生している
 
押条良太(押条事務所)=文


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