たとえば古代の遺跡から新たに出土した土器の破片によって、それまでの定説がひっくり返えった、なんていう考古学ニュースが、しばしばメディアでも報じられている。そんな“事件”がデニムの世界にもある。デニム史を塗り替えた出来事を古着屋「ベルベルジン」のデニムアドバイザー、藤原裕さんに語ってもらった。
第1回:「ヴィンテージデニムの値段の推移と景気の関係」を読む。第2回:「世界でいちばん高価なヴィンテージデニムの話」を読む。──ヴィンテージデニムの価値が世界に認知されて、“古い家の屋根裏部屋からデッドストックがドッサリ発見された”という夢のような話も聞かなくなりましたね。藤原 それが近年“炭鉱系”と呼ばれるカテゴリーが登場して、それまで知られていなかった歴史的なヴィンテージデニムが「出土」しているんです。それを探し当てるデニムハンターと呼ばれる人たちも台頭してきています。もう目新しいデニムはアメリカでも出尽くしただろうと言われ続けてきたなかで、これは衝撃的な「大事件」と言えるでしょう。
──デニムハンターとか出土とか、ワクワクするキーワードが出てきました。炭鉱とデニムっていうのは、まったく結びつかないんですが……。藤原 アメリカの閉鎖された鉱山の廃坑や廃墟に入ってヴィンテージデニムを探し当てる人たちです。聞くところによるとキッカケはアメリカ史を研究している考古学者が、かつて栄えた鉱山の歴史を探るために国に申請を出して、調査のために入山したのが始まりだそうです。
そこには当時の炭鉱夫が実際に使っていた道具などが残されていたんですが、それらは当時の生活様式を知るうえで貴重な資料なわけです。そのなかにとんでもなく古いデニムが発見されたんです。以降、鍾乳洞を探索するような重装備で打ち捨てられた廃坑に潜り込んで、古い時代のデニムを発掘する人たちが出てきました。それがデニムハンターです。
──そもそも、なぜ古い炭鉱にデニム=ワークウェアが置いてあったのか?という疑問が生まれるのですが。藤原 「炭鉱」とひとくくりにしましたけど、古くは銀や銅、その他の鉱物資源を得るためにアメリカ各地にたくさんの採掘抗が掘られ、産業が発展しました。で、今も昔も良からぬことを考える輩がいて、鉱山を所有する会社から支給されたワークウェアのポケットに銀の鉱石を入れて持ち帰ったりする。
*1それを防ぐために坑内で私服に着替えてから帰るように会社がルールを決めていたようです。
*2 そうした日常に、ある日突然廃坑となって、脱ぎ捨てたデニムのワークウェアがそのまま置き去りにされて、今になって発見されているということです。
*1 実際に廃坑の中で発見されたデニムパンツには銀塊を収納するためにワーカーがお手製で縫いつけた隠しポケットを装備したものもある。
*2 鉱石の盗難防止を徹底するために、更衣室を設けてそこでワークウェアを着替えさせる鉱山もあった。
──かつては鉱石を採掘する鉱山から、今ではデニムが発掘されるという、何とも不思議な現象ですね。藤原 そうですね。それまであまり知られていなかった1870年代の非常に初期のリーバイスや球数が少なかった廉価版のNo.2デニムのほか、ポケットに飾りステッチを効かせた「ノイシュタッダー・ブラザーズ」社のブランド“ボス・オブ・ザ・ロード”、またデニムジャケットが確立される以前に普及していたデニムプルオーバーなどが発掘されたおかげで、デニム史を研究するうえで非常に重要な情報源が増えました。
デニムハンターのなかには、発掘したデニムを売って財を成した人もいるそうです。廃坑の奥へ奥へと行けば、さらに古い時代のワークウェアが出てきた、という話を聞けば僕も行ってみたい衝動に駆られますが、同時に落盤や有毒ガスの危険性も増えるらしいので……。
──こういう歴史的価値の大きいピースは速攻で博物館行きなんでしょうね。藤原 ところがこうしたデニムを求めるマニアもいて、実際に日本でも売買されています。実際にはくことは躊躇してしまうモノばかりですが、資料としてコレクションする価値はありそうですね。
これぞまさしく男のロマン! デニムにここまで夢があるとは……だからデニムはやめられないのだ。
この冒険のつづきは11月2日(土)、
「OCEANS DENIM CAMP」での藤原さんのトークショーにて。
志賀シュンスケ=写真 實川治德=取材・文