「Tシャツはアートだ」と証明した本に載せなかった自分遺産T
されど、Tシャツ。●これまで何枚着てきたか、Tシャツ。服としては何よりシンプルなつくり、Tシャツ。理想の一枚に出会ったと思ってもすぐに次が欲しくなる、Tシャツ。されどで探す、今年いちばんの、Tシャツ。
Tシャツ本を出してしまうほどTシャツが好きな人たちのマイベストTは、我々のTシャツ選びにおける羅針盤になる。アメ村の名店「ピグスティ」からバトンを受け取るのは、ヴィンテージTシャツのセレクトショップ「ハローテキサス(HELLO//TEXAS)」の店主、三好智之さん。彼の常識ハズレな目線も大いなる参考に。

「もはやアート」という評価を得た“ある意味”Tシャツ本
アメリカの土産物や記念品、とあるイベントで配られていたであろうノベルティなど、我々がよく知るヴィンテージTとは明らかに違う「ハローテキサス」に集まるTシャツたち。その独特な世界は2015年に一冊にまとめられ、撮影はホンマタカシが担当。「これはもはやアート本」という評価を獲得した。

つまりこれは逆説的なTシャツ本で、本書の帯にも“ある意味、Tシャツ本”と書かれている。今回は、そんな「ハローテキサス」による魅惑のTシャツワールドにみなさんをご案内する。
Tシャツの多様性は、先人が築いた価値観だけでは計れない
ーヤバイ。見たことあるようなTシャツが一枚もない。
三好 でしょうね(笑)。古着業界で先人たちが作り上げてきた「こういうTシャツは貴重だよ」という価値観ってありますよね。そのレールの上でみんなあれこれ話をしているけれど、俺はそれだけじゃ面白くないなと。もちろん俺もその手のTシャツはたくさん持っているけれど、同じように珍しくて、格好いいTシャツはいっぱいある。その多様性が魅力なんですよ、Tシャツは。
ーそもそも三好さんは、なんでTシャツにハマったんですか?
三好 ヴィンテージブーム全盛の学生時代、リーバイスのビッグEなんかが20〜30万の値が付いていたんです。これをアメリカで手に入れてきたら……と思ってアメリカに渡って、スリフトショップや小さな店をシラミツブシに探しながらあちこち走り回ったんです。でも、なんにも見つからない。どうやらアメリカのバイヤーたちが買い漁ったあとだったんです。店内をよく見りゃ「WE BUY OLD LEVI’S、LEE、WRANGLER」って書いてあるし。
ーそれがどうTシャツにつながるんですか?
三好 で、「何だよっ!」と思っていろいろ見てたら、こういうTシャツがめちゃくちゃある。当時からTシャツは好きでいろいろ買ってましたけど、こういうワケがわからないグラフィックのTシャツは持ってなくて、しかも大半が3ドル以下。「これ、格好いいじゃん!」と思って。それがキッカケでしたね。
パティ・スミスも、ジャック・ジョンソンも反応したTシャツ世界
ーウケる確信はあった?
三好 「それいいね!」という人はほとんどいませんでした。
ー一般ウケは確かに難しそう……。
三好 でも、ミュージシャンには突っ込まれましたね。「ハローテキサス」を始める前に某音楽誌の編集兼カメラマンをやっていたんですけど、ジャック・ジョンソンには「それヤバいね!」と着ていたTシャツを褒めてもらったし、パティ・スミスは、このカエルのTシャツによく似た一枚をライブでジャケットの下に着ていました。ホテルのスーベニアTシャツらしいんですけどね。それで確信したんです。俺がビビビッと来ているTシャツは絶対格好いい!と。
ーそれで店も始めて本も出して。
三好 スタンスを変えずにやり続けてもう11年目。その間、著名なアートディレクターやミュージシャンなど、さまざまなクリエイターが来てくれて、何かを見つけては喜んでくれる。こんなTシャツを扱っているのは世界でも「ハローテキサス」だけだろうから、うれしいですよ。すぐ潰れるって言われていましたし(笑)。
ーTシャツに新たな価値を見出したんですね。
三好 こういう自由な感覚こそTシャツの魅力。相当ヘンテコな一枚を着ていてもそれほど変な人には見えないですから。Tシャツくらい自分本位で選べばいいと思いますよ。
想いが重くて何が悪い? 三好さんのベストチョイスNOW
ー本に載せた99枚はどうやって選んだんですか?
三好 手放したくない目線です。個人的に、着ていた時間が長いとか、思い入れが強いTシャツですかね。これもそう。
ー元LAドジャース監督のラソーダさんじゃないですか!
三好 1994年に野茂投手の試合を見に行ったときに買ったんです。「俺の体にはドジャーブルーの血が流れている」っていう吹き出し付き。当時は野茂フィーバーがすごくて、現地での熱気を強烈に覚えていますね。
ーほかに、今選ぶならどんな?
三好 そうですね〜。例えばこれ。おそらくテネシー州にあるキングスポートの町おこしの一環で気球を飛ばそう、となったと思うんですよね。それで、このデザイン。仮にTシャツを作るのであれば白ボディの方がいいと思うんですけど、なぜか緑。さらにプリントを重ねている。ファッション的には罪(間違い)を重ねてますね(笑)。想いは伝わるけれど、想いを詰め込むほどファッション的にはアウトになっている。でも、作りたいから作る、描きたいから描く。そういうピュアさに惹かれますね。この手のTシャツは、100枚あったら100個のストーリーを持っているはずです。
ー表層的なデザインだけでなく背景も想像するとTシャツはもっと魅力的になる、と。
三好 はい。これも同様ですよね。大学のテコンドー部のTシャツ。しかもこの大学、すごく頭がいい大学で、多分これはクラブができたばかりの頃のアイテムだと思います。まずね、欧米目線のアジアンカルチャーのねじ曲がり具合(笑)。どこかクエンティン・タランティーノ感も漂ってます。作意のないピュアな感じ、作られた目的、仕上がり、そして30年経っても誰にも評価されない感じ。唯一無二なTシャツだと思います。
ーつづいては?
三好 コレは分類すると企業Tになるのかな。「NORTH WOODS OUTFITTING Co.」という会社のTシャツ。おそらく狩猟専門のサバイバルグッズを扱っていたんだと思います。胸に描かれた鹿はターゲットでしょうね。可愛さの裏側にあるハンターとしての意図に身震いしますよ(笑)。
ーほんわかデザインなのに。
三好 今これを選ぶ人は「かわいい鹿だね〜」と言って着るかもしれないですけど、本来は週末狩りをしに行く人のためのものなんです。そのギャップが半端ない。Tシャツって本当にシンプルなアイテムですけど、それぞれにそれぞれのエピソードがある。そこまで掘っていくと、意外な魅力に出くわすわけです。それを知らずして選り好みするのは、もったいないと思うんです。
Tシャツが持つ無限の可能性は、既成概念を壊した先に広がっている。三好さんはまさに、それを実践した人だ。もしも今「コレ気になるな」という一枚が目の前にあるのなら、思い切って飛び込んでみること。大切なのは、人の意見よりも自分の意思。それを許してくれるのが、Tシャツなのだから。
【問い合わせ】
ハローテキサス
住所:東京都渋谷区神宮前2-18-4 石黒荘 103
電話:03-6804-1147
営業:およそ14:00~18:30
日曜定休
www.hello-texas.jp/
菊地 亮=取材・文