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2019.04.21

ファッション

「革ジャンの保管に役立つのは新聞紙」洗濯のプロ直伝レザーのメンテ術

正しいメンテと賢い収納術【冬服編】●4月に雪が降る異常事態を終え、そろそろアウターをクローゼットにしまい込んでも良さそう。でもその前に、ちゃんとメンテした? 次の冬も仲良くするための適切なケアと保管方法についてプロに聞いてきた。
買うときに「一生モノだから」なんて言い訳したそのレザージャケット。昨冬はよく着た? それとも、出番は少なかった? いずれにしても長期的視野でパートナー契約を結んだ以上は、来年もしっかり活躍できるようコンディションを整えておかなければ。

高級メゾンの繊細なレザージャケットからヴィンテージの革ジャンまで、これまで膨大な革製品をリフレッシュさせてきたクリーニング店、レジュイールの榎本裕介さんに、オフシーズンのレザーに施すべき休息方法を教えてもらった。

【1】オイルを塗ればいいと思ってる人、間違ってます

レザーの手入れといえば、やはりオイルだろう。栄養は大事だと聞いたし。
「いえ、衣替えで収納する前には基本的にクリームやオイルは使いません」。
何っ? 最初から意外すぎる言葉が出てきた。そして、榎本さんはこう続ける。
「これは全部のレザーに言えることなんですが、栄養過多は良くないんです。オイルは、せいぜい着用シーズンに1度くらいのイメージですかね。むしろ気を付けたいのがタイミング。汚れている状態でクリームやオイルを塗ると、それをコーティングしてしまうことになるので危険です。それにムートンのケアでもお話ししましたが、収納する直前に栄養を与えすぎるとカビが発生しやすくなるんです」。
なるほど。では、そのままクローゼットに突っ込んでいい?
「ダメです(笑)。濡らしてかたく絞った布で全体を拭いてください。本来、ほとんどのレザーは水洗い出来るんですよ。ただ、洋服になったレザーは裏地があったり、つくりが複雑になっているので注意は必要ですが。あと、淡いトーンのレザーは少しの水分でも色が変わってしまうことがあるので、淡色の場合はウエスで拭く程度にしてください」。
濡れ拭きをする際には、襟元や袖口、裏地も忘れずに。スムースレザーのケアについてはよくわかったが、次なる問題はスエードなどの起毛革だ。
 

【2】スエードは「ササッ」と「シュッ」

「スエードの濡れ拭きは推奨できません。ウエスで拭いて全体のホコリを落としてからブラシをかける。基本は靴などと一緒で、最初は柔らかい馬毛、仕上げに硬い豚毛を使うという流れです。それでも落ちにくい皮脂の汚れや、毛足が潰れてしまっている部分には真鍮ブラシを。そうすると毛足が立ちますよ」。

スエードはブラシをかけて、色が濃くなったら毛足が立っている証拠。部位によってその方向が異なるので、均一になるようにブラシをかけていく。
右から豚毛、馬毛、真鍮ブラシ。左端はステッチなどの細かい部分に使うために用意しておくと便利。
革が硬化しているなど、極端にダメージを受けている場合には……。
「スエードは、専用のスプレータイプの栄養剤があるので、それを使うと質感を損なわずにケアできます。撥水処理もしてくれるものもありますよ」。
WOLYのスエードクリーナー
スプレータイプのスエードクリーナーと栄養剤。榎本さんが愛用するのは撥水機能も備えたもの。製品によって使えるレザーの色が限定される場合があるので注意。
サッとブラッシングしたらシュッとスプレー。これだけなら簡単だ。
 

【3】シワが付いたら最後。防止のために使うのは……

スムースレザーもスエードもしっかり汚れを落としたら、あとは保管。通気性のいい日陰にハンガー掛けでOKだが、ここでも注意が必要だ。
「レザーは、一度付いたシワを落とすことはほぼできません。保管する際のいちばんの敵はシワですね」。
そこで登場するのが新聞紙。

これを棒状にするそうだが……。
「袖は潰れてシワがつくことが多いんですが、それを防ぐために役立つのが新聞です。縦長に丸めて袖の中に通してあげると、自然な形を維持しやすくなるんです」。
棒状に丸めた新聞紙を両袖に入れておく。あまり重たくすると肩の伸びの原因になるので、ボリュームを持たせられる最小限の枚数でOK。
これだけで袖が潰れにくくなる。そのうえ新聞紙は湿気を吸ってくれるので、通気性の低下によるカビ回避にも役立つという。
あとはラックへの詰め込みすぎだけ避ければ、概ね問題ないだろう。
 

ちゃんとケアしないとどうなるの?

ちゃんと手入れをしなかったレザーがどうなるか。その末路を、ヴィンテージの革ジャンを山ほど見てきた中目黒の名店・ハレルの加瀬善隆さんに聞いてみた。
「“カチカチ病”にかかりますね。僕がバイイングしているときも、シワがいい感じだと思って手にとっても、そのままピクリともせず腕も曲げられないって革ジャンを何着も見ました。そうなるともう鎧ですよ(笑)。無理に曲げればひび割れします。
基本的に革は一度死んでしまうと、どんな処置をしても戻らない。最低限のケアは必要ですね」。
愛するレザーウェアの死後硬直……コワイ。また、革ジャンの劣化は表面だけに止まらない。
「ズバリ、汗のニオイ。カットソーかよってくらいに臭うヤツもありますから。つまり、レザーは想像以上に汗を吸っているんでしょうね。それがニオイの元になる」。
 
とまぁ、世話をしないオッサンの革ジャンには危険がいっぱい潜んでいる。次のシーズン、いやこの先ずーっと仲良くするために、上の3カ条は守っておきたいものである。
 
Rejouir(レジュイール)●約35年の歴史を持ち、現在では世界的メゾンからのクリーニング依頼も途絶えない東京・南麻布の高級クリーニング店。熟練した職人がアイテムごとに最適な処理を見極めて、1点1点に膨大な手間をかけてケアしてくれる。
東京都港区南麻布1-5-18 FRビル
03-5730-7888
営業/9:00〜18:00
日・月曜、祝日休み
今野 壘=取材・文


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