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2018.02.11

ファッション

社員はみんなクレイジー⁉︎ サーフ部門ディレクターが語った「パタゴニア」の秘密

パタゴニアは確かにアウトドアアパレルを扱うブランドだ。だが、ほかのブランドに比べ、サーフィンやスイムウェアに関する製品が充実している点に特徴があると思う。そしてその製品にこそ、ブランドの哲学が完璧に反映されているのである。それはなぜか? ビジネス・ユニット・ディレクター・サーフのジェイソン・マキャフリー氏が語ってくれた。
パタゴニアとは?
1973年、イヴォン・シュイナードにより米カリフォルニア州ベンチュラに創業。クライマー向けのピトンやチョックを製造していた「シュイナード・イクイップメント」のウェア部門としてスタートし、化繊パイル地のセーターなどを販売。’85年に発表された軽量で保温性に優れた「シンチラ・フリース」は、日本でも大きな話題を呼んだ。現在はクライミングからサーフィンまで、さまざまなアウトドアカテゴリーのアイテムを生産する。

「うちの社員は誰もが少しだけクレイジーなんです」

ビジネス・ユニット・ディレクター・サーフ ジェイソン・マキャフリー氏。1972年、米ニュージャージー州生まれ。パタゴニアでの社歴は15年以上。直営店勤務からキャリアをスタートし、サーフボード工場や営業などの経験を経て、2010年よりグローバルのサーフカテゴリーにおけるディレクター職に着任。仕事の傍ら、ペパーダイン大学にてMBAを取得。パタゴニア本社のすぐ近く、カリフォルニア州ベンチュラに住まいを構えている。「通勤もサーフィンもあっという間なんだ」。奥さまのジェシカさんとは社内で出会ったという。
山好きにとってパタゴニアはお馴染みのブランド。アウターシェル、フリース、バックパックまで、実際に使っている人も少なくないだろう。製品は知られている。しかしパタゴニアが「普通の企業とずいぶん違う」ことを知る人は決して多くないと思う。
「長い間パタゴニアに勤めていますが、人の入れ替わりがあっても社員のタイプはなぜか似ているんですよ。誰もが少しだけクレイジー。仕事よりもスポーツや環境問題に熱心な“ダートバッグ(何かに夢中なやつ)”で、ある意味雇用に適さないタイプだと思います」。
ジェイソン・マキャフリー氏は仲間たちをそんなふうに眺めている。それは大げさだろう──と思った。そうは言っても自分の仕事をきっちり終えてから、好きなことを楽しむのだろうと。
「いや、好きなことが先です(笑)。近くの川が洪水になったらみんなでラフティングを楽しむ。大雪が降ればバックカントリーに遊びに出かける。楽しいことが目の前で起きていたら、仕事はあとでこなせばいいんですよ」。
今の地球環境の状況を鑑みたら、貴重な自然を楽しむために仕事をサボっても、社員は誰も文句は言わないはず、とマキャフリー氏は語る。1973年の創業から現在まで、パタゴニアは常に環境問題について自問自答を繰り返してきた。ピトン(※1)が岩を傷つける道具だと気付いたら、アルミ製のチョック(※2)を開発する。ペットボトルのゴミが問題になればそこから再生ポリエステルを作り、フリースの素材に採用する。通常の企業が求める利益第一の姿勢とは、行動の哲学が明らかに違う。
「私たちは長年にわたり、海やサーフィンにまつわる製品も展開しています。今回、新たに発売したボードショーツやビキニの全製品がフェアトレードとなりました。労働者を支援して地域社会全体の水準を高め、真の意味で公正なビジネスをしたかったのです」。
リサイクルファブリックやオーガニックコットンの開発に取り組み、’70年代からビジネスを環境問題解決のための手段としてきたパタゴニア。「解決に向けて実行する」という社是に即し、現在の課題と捉えたのが、フェアトレードだったというわけだ。
「どのブランドの服であっても、着たときの見た目ばかりにとらわれないでほしい。誰の手によって作られたか。作り手にはちゃんと住まいがあり、温かい食事と休むベッドがあるだろうか。そんな思いを馳せてほしいのです」。
日々サーフィンに感謝し、その感謝を示すために、足繁く海に通っているというマキャフリー氏。仕事のスケジュールも柔軟で、好きなことをできる限り楽しみ、チームの仲間たちにもそのような行動を推奨している。彼自身もある意味“ダートバッグ”で、一般的に見れば少々クレイジーなのだろうか。いや、話を聞いてよくよく考えて見れば、逆だ。いつも仕事のことばかり考えている僕らのほうが、少々クレイジーなのだ。
「僕たちは自由を知っています。だから全力で仕事に取り組める。繰り返しになりますが、いい波が来たらすぐにエンジョイできるのですから」。
 
ピトン(※1)
クライミング時にロープやカラビナを通して身体を確保するための、岩の割れ目に打ち込む金属板のこと。打ち込み、引き抜きに大きな力が加わるため、もろい岩はダメージを受けやすい。
チョック(※2)
ピトンと同様に身体を確保するために使用するが、ハンマーを使わずに手で押し込んで岩に固定するため、岩への負担を軽減できる。よりクリーンな登攀を実現するために開発されたギアだ。


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