2020.03.24
FAMILY

厚底は“悪”か? 子供にとってベストなスポーツシューズの条件

連載●子供のスポーツ新常識
子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。

子供のスポーツ新常識

一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、スポーツシューズの開発において、日本の技術レベルは世界トップクラスにあります。

“厚底”のランニングシューズを筆頭に、今や世界のスポーツシューズ業界を席巻しているあの海外メーカーも、創業当初は日本のスポーツメーカーの代理店であり、その後自社でシューズ開発するようになってからも、日本のシューズを大いに参考にしていた、というのは有名な話です。

このように、日本のスポーツシューズに関する技術は極めて高い。その一方で、子供たちが、これほど高性能シューズを履いている国は、世界的に見ても稀かもしれません。裏を返せば、体や運動神経の成長がさかんな時期に、親がしっかりと考えてシューズを選んであげなければならない、といえます。

軽量シューズが子供の安全を脅かす理由

最近のスポーツシューズは、バスケットボールシューズで片足300g、サッカースパイクで150g、マラソンシューズでは100g(すべて27.0cmの場合)を切る時代となってきました。その最も大きな要因は、シューズを形成するさまざまな素材を軽量化する技術の進歩によるものですが、ここで注意が必要です。

軽いシューズは、限界まで必要のないもの削ぎ落としていますから、足を守ってくれる補強や機能は限りなく少ない、ということを忘れてはいけません。成長期にある子供が、大人のアスリートの真似をして超軽量シューズを履くのは避けるべきでしょう。スポーツに限らず、野山で遊ぶ際に、軽量シューズで走ると足への負担が大きくなり、怪我を引き起こす可能性が増すことも報告されています。

心理学的な実験によると、ヒトがふたつの重さの違いを認識できるのは、初めに与えられた重さの“40分の1”の量が変化した場合、といわれています。つまり、200gのシューズを履いていた人は、195gのシューズに履き換えたときに「軽い」と感じるわけです。そして、この感覚の鋭さこそ、シューズの軽量化競争に拍車をかけているといえます。

しかし、子供たちがこの“違い”を認識できるかは疑問です。長い時間トレーニングを積んできた大人のアスリートなら、競技力アップのためにシューズの軽さを味方にすることは自然なことだと思いますが、体の成長や体力、技術がこれから進化していくジュニア期に、危険と隣り合わせの“軽さ”を与える必要はないと私は考えます。さまざまなシューズがあるなかで、自分に合った重量を選ばせることが重要です。

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現代の子供たちの足は親世代とは違うことを知ろう

下の図は、足のサイズと足の周径囲の測定値を親世代(1977年)と子供世代(2007年)で比較したものです。現代の子供は親世代に比べて体格面では向上しており、身長が高くなるにつれ足のサイズも大きくなります。

体重と足の周径囲にも相関があるため、体重が増えれば足囲も太くなるのですが、現代の子供たちは足のサイズは大きくなっているものの、足の周径囲は細くなっています。親世代と比べて、この30年間で足のプロポーションが変わってきているのです。

この原因を考えたとき、履くシューズの選択が、親世代とはまったく異なることは想像に容易いと思います。それにより、足の土踏まずのアーチが低下し、足が細長く、かつ平たくなっているのです。

子供のスポーツ新常識

地面をしっかり蹴るには、足裏の3つのアーチ(内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチ)がしっかり形成されていることが求められます。それによって、大きな力を地面に加えることができ、速く走ったりすることが可能となるからです。

足のアーチは、骨、靭帯、筋肉によって形成されますが、これらは身長と同様に、ジュニア期には完成するには至っていません。つまり子供のときは、この未完成なアーチをしっかりホールドしてくれる機能を持つシューズを選ぶ必要があるわけです。シューズを買いに行ったときに、土踏まずの部分がしっかりフィットしているか、ぜひお子さんに聞いてみてください。

ちなみに、昨今話題となっている厚底のランニングシューズですが、これはシューズの内部にカーボンプレートを挟み込むことによって、前方向への反発をもたらす構造になっています。このプレートをクッション性の高い素材で挟むことで“厚底”になっているわけです。

これを子供に履かせると良いか、と聞かれれば、答えはノーです。シューズの効果をしっかり得るためには、しっかりとアーチが形成され、かつプレートの反発を活かせる脚として完成している必要があります。しかも、片足200gを切るような軽量シューズですから、安全性の面でもおすすめできません。

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中足部から踵にかけてのフィット感に着目

では、ジュニア期にはどのようなポイントを押さえてシューズを選べば良いのでしょうか。前述のように、子供はアーチが未成熟でシルエットも細長なので、運動中にシューズの中で足が動くことが考えられます。

ですから、軽さやつま先のフィット感に重点を置くよりも、中足部から踵がしっかりフィットするものを選びましょう。歩いても走っても踵が浮いたり、シューズが脱げてしまうシューズは、足の成長に伴う動きに悪影響を及ぼすことが考えられます。

一流のアスリートが使用する高価なシューズや一時の流行に惑わされて選択することは避けたほうが賢明でしょう。免許を取りたての初心者ドライバーに高性能なスポーツカーは乗りこなせないことと同じです。車ならまだしも、体を壊してしまう危険さえあります。高性能なものは、それなりの条件をクリアした人向けに作られたものであり、決して万人向けではないことを認識すべきです。

桜井智野風=文
桐蔭横浜大学 教授。同大大学院スポーツ科学研究科長。運動生理学 博士。骨格筋をターゲットとしたスポーツ科学・生理学的な研究を専門とする。公益財団法人 日本陸上競技連盟 指導者育成委員会コミッティーディレクター。スポーツの強化策としては、「ジュニア世代と接する理解ある指導者や親を育てることが一番重要である」という考えのもと、ジュニア対象の指導者育成のために全国を飛び回っている。

# スポーツシューズ# 厚底# 子供のスポーツ新常識
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