2020.03.10
FAMILY

子供の頃は“持久走”より“かけっこ”を頑張るほうが大切な理由

連載●子供のスポーツ新常識
子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。

子供のスポーツ新常識

昨今の市民マラソンレースでは、小さな子供と一緒に走るパパの姿を見かけることが多くなりました。若い頃にバリバリ競技スポーツをやっていても、年齢を重ねるにつれ球技のような運動強度の高いスポーツではなく、手軽にできるランニングを始める人が多くいます。

そして、運動強度がそれほど高くないから「子供も一緒に」と考え、やがて目標を設定し、マラソン大会に申し込み、子供と一緒に参加する。

「いつか一緒にフルマラソンでも完走できたらいいなあ……」などと、夢が膨らんでいる人も少なくないでしょう。

子供の頃は「スタミナ」より「スピード」を意識させるべき

「僕は短距離走が苦手だったんで、持久走を頑張ってました」。

このセリフ、大人になるとよく耳にします。しかし、よく考えてみると長距離走(持久走)も短距離走も「走る」という動作は共通です。元来、「速く走る」の意味は、短距離走(かけっこ)が速いことを指しているはず。

また、小学生までは、スポーツの動きを覚えるためにいちばん大切な時期であることも、多くの研究から明らかになっています。下の図のように、9歳から12歳くらいまでは、脳や神経系の発達が顕著な時期(ゴールデンエイジとも呼ばれます)で、スポーツにおけるさまざまな“動き”を覚えるのに適しているのです。

子供のスポーツ新常識

したがって、子供の頃はスピードを上げて「速く走る」こと、もっと言えば「速く走るためのフォーム」を覚えさせることのほうが重要だと考えます。少し極端な言い方をすると、幼少期にスピードを上げて走る経験をさせないと、「歩く」と「走る」を感覚的に区別できない状態を長く続けることになります。

つまり、幼少期に「速く走る」ためのフォームを身につけておかなければ、将来マラソンでも速く走ることはできない、といっても過言ではありません。この大切な時期に、ゆっくり長く走る持久走に時間を使ってしまうと、あまりエネルギーを使わない個性的なフォームでしか走れなくなる可能性がある。これは非常にもったいないことだと私は考えます。

もっと怖いのは、スピードを上げて走らなければならない要素が含まれるほかのスポーツさえも、“苦手”になってしまうかもしれないことです。

我々研究者がスポーツの能力を語るときによく出てくる言葉として、「速筋」と「遅筋」があります。スピードやパワーに優れる速筋線維と、持久能力に優れる遅筋線維によって私たちの筋肉は構成されていますが、どちらの線維の割合が多いかによって、得意なスポーツ種目が変わってきます。

しかし、この速筋と遅筋、小学生期にはまだ未分化なので、小学生の筋肉をスピード系と持久系、どちらが得意であると分けることはできないのです。筋肉の成熟は中学生くらいに始まるので、小学生に「スタミナ」という能力だけを問うても意味がありません。

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持久走は未成熟な身体を酷使することになる

もうひとつ、幼少期から頻繁に持久走をさせることが好ましくないと考える理由があります。走る際、地面に片足がついたときに足裏にかかる荷重は、実に体重の3倍になります。これは大人でも小学生でも変わりません。

例えば、体重40kgの子供が1kmのジョギングを行ったとします。その歩幅を約70㎝とすると、1kmをおよそ2000歩で走ることになり、1歩ごとに体重の3倍、すなわち240kgを受け止めていたとすると、両足が受けた衝撃の合計は約240トンにもなります。

仮にこの子供がフルマラソン(42.195km)を走ったとすると、1万トン以上の衝撃に耐えていることになります。さらに、ランニングスピードを上げる(小学生であればおよそ時速6kmくらい)と足裏にかかる荷重は体重の3.5~4倍近くになるので、その衝撃は途方もない値になるのです。

しかし、人間の足首や膝はこういった衝撃に耐えられるように作られています。「筋肉」と「腱」が、地面に足が接地するときの数百kgの重さをうまく分散し、数万回にも及ぶ繰り返し動作を円滑にこなしてくれるからです。

十数年前までは、「腱」は筋肉を骨へとつなぐ単なる帯であり、伸縮はしないと考えられていました。しかし最近の研究で、腱は自ら縮むことはできないものの、引き伸ばされると数パーセント伸張し、元の長さに戻るときに筋肉の収縮と協力して力を発揮することがわかってきました。とても固いゴムのようなイメージでしょうか。

そして、足が地面に接地するときの衝撃に最初に対応するのは、足首や膝の「腱」であり、小学生期はその硬さが急成長する時期なので(図)、あまり負担をかけないようにするべきなのです。

子供のスポーツ新常識

小学生期は骨が成長過程にあるため、筋肉を骨とつないでいる腱の完成度は大人のそれに比べて非常に未熟です。長時間の反復運動の末にエネルギー切れを起こして筋肉が疲労するのはもちろんですが、これをサポートする腱への負担はさらに高くなるのです。子供の未熟な腱が酷使されたら……。

もう想像はつくでしょう。こういった肉体的な観点からも、小さな子供にあえて持久走をやらせる必要はないと私は考えています。

とはいえ、「子供も一緒に走るのを楽しんでいるようだし……」というケースもあるでしょう。しかし、長時間、単調に走り続けるマラソンは、子供にとって本当に楽しいのでしょうか? そうではないと思います。子供はマラソンが好きなのではなく、「パパと一緒にスポーツをするのが好き」なのだと思います。

子供の将来を考えるのであれば、休日にどんなスポーツをして遊ぶか、選択肢を広げてみてください。決して、「うちの子はかけっこに向いてないから」と、子供に持久走を強要するような、愚かな父親にはならないでくださいね。

桜井智野風=文
桐蔭横浜大学 教授。同大大学院スポーツ科学研究科長。運動生理学 博士。骨格筋をターゲットとしたスポーツ科学・生理学的な研究を専門とする。公益財団法人 日本陸上競技連盟 指導者育成委員会コミッティーディレクター。スポーツの強化策としては、「ジュニア世代と接する理解ある指導者や親を育てることが一番重要である」という考えのもと、ジュニア対象の指導者育成のために全国を飛び回っている。

# スポーツ# 子供のスポーツ新常識# 子育て
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