連載●子供のスポーツ新常識
子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。
昨今の市民マラソンレースでは、小さな子供と一緒に走るパパの姿を見かけることが多くなりました。若い頃にバリバリ競技スポーツをやっていても、年齢を重ねるにつれ球技のような運動強度の高いスポーツではなく、手軽にできるランニングを始める人が多くいます。
そして、運動強度がそれほど高くないから「子供も一緒に」と考え、やがて目標を設定し、マラソン大会に申し込み、子供と一緒に参加する。
「いつか一緒にフルマラソンでも完走できたらいいなあ……」などと、夢が膨らんでいる人も少なくないでしょう。
子供の頃は「スタミナ」より「スピード」を意識させるべき
「僕は短距離走が苦手だったんで、持久走を頑張ってました」。
このセリフ、大人になるとよく耳にします。しかし、よく考えてみると長距離走(持久走)も短距離走も「走る」という動作は共通です。元来、「速く走る」の意味は、短距離走(かけっこ)が速いことを指しているはず。
また、小学生までは、スポーツの動きを覚えるためにいちばん大切な時期であることも、多くの研究から明らかになっています。下の図のように、9歳から12歳くらいまでは、脳や神経系の発達が顕著な時期(ゴールデンエイジとも呼ばれます)で、スポーツにおけるさまざまな“動き”を覚えるのに適しているのです。
したがって、子供の頃はスピードを上げて「速く走る」こと、もっと言えば「速く走るためのフォーム」を覚えさせることのほうが重要だと考えます。少し極端な言い方をすると、幼少期にスピードを上げて走る経験をさせないと、「歩く」と「走る」を感覚的に区別できない状態を長く続けることになります。
つまり、幼少期に「速く走る」ためのフォームを身につけておかなければ、将来マラソンでも速く走ることはできない、といっても過言ではありません。この大切な時期に、ゆっくり長く走る持久走に時間を使ってしまうと、あまりエネルギーを使わない個性的なフォームでしか走れなくなる可能性がある。これは非常にもったいないことだと私は考えます。
もっと怖いのは、スピードを上げて走らなければならない要素が含まれるほかのスポーツさえも、“苦手”になってしまうかもしれないことです。
我々研究者がスポーツの能力を語るときによく出てくる言葉として、「速筋」と「遅筋」があります。スピードやパワーに優れる速筋線維と、持久能力に優れる遅筋線維によって私たちの筋肉は構成されていますが、どちらの線維の割合が多いかによって、得意なスポーツ種目が変わってきます。
しかし、この速筋と遅筋、小学生期にはまだ未分化なので、小学生の筋肉をスピード系と持久系、どちらが得意であると分けることはできないのです。筋肉の成熟は中学生くらいに始まるので、小学生に「スタミナ」という能力だけを問うても意味がありません。
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