乗りたかったのは、キブンが乗るクルマ Vol.222
2021.04.05
CAR

欧州の元祖ミニバン「ルノー エスパス」を“知る人ぞ知る”にしちゃイケナイ

「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……

vol.21:「ルノー エスパス」
ルノー、1984年〜

プジョーからすれば、にべもなく振った相手が、後日大物に化けたような心持ちだったかも知れない。

自動車メーカーのマトラから提案されたエスパスの企画をプジョーはあっさり断り、ルノーは喜んで引き受けた。

初代「ルノー エスパス」。同時期のルノーのセダンがベースとなったが、リアにはマトラの独自設計のサスペンションが採用されている。

1984年に「ルノー エスパス」が登場すると、ヨーロッパ初のミニバンという称号とともにフランス国内はもちろん、海外でも大ヒット。

瞬く間に人気モデルとなり、フランスでは現在5代目が街を走っている。

ミニバンという言葉は、アメリカの大きなバン(フルサイズバン)と比べて小さいバンという意味から生まれた。エスパスの場合、全長4250×全幅1777×全高1660mm。

しかし誰もプジョーを責められないだろう。

この時同社は、経営危機にあったクライスラーの、あまりパッとしないヨーロッパ事業を引き継いだばかりで「もうこれ以上、先行き不透明な案件を持ち込まないで!」状態だったとしてもおかしくない。

当時のプジョーには、ともかく断るだけの理由はあったし、それを知ってマトラに声をかけて引き抜いた(この後マトラはルノー傘下に収まる)のは、ルノーの慧眼というべきだろう。

運転席と助手席は後ろに向けることができた。

ちょうど同時期にクライスラーがダッジ・キャラバン/プリムス・ボイジャーを1983年に発売開始し、エスパスが1984年、そして日本では1982年に日産のプレーリーが、相次いで新ジャンルを開拓し始めたのだ。

ちょうど人々が家族や友達と郊外へ遊びに出かけるようになった頃だった。

座り心地はバツグンのたっぷりとしたシート。

しかもエスパスは「初」という称号にふさわしく、極めて斬新なモデルだった。

スチール製のモノコックボディにFRPパネルを貼り付けるという独創的な構造をもち、ボンネットとフロントウインドウが一直線に傾斜しているスタイルは、当時としてはかなりモダンだった。

さらに運転席と助手席が回転して後ろを向くことができ、2列目以降の5席はそれぞれ取り外すことも可能。また背もたれを倒してテーブルとして使用することもできるなど、車でアウトドアレジャーを楽しみたいと思う人々の心を鷲掴みにするディテールを備えていた。

当初は2Lエンジンを搭載。好調な販売をうけ、のちに2.1Lのディーゼルターボも追加され、さらにマイナーチェンジ時にルノー初となる4WD車も用意された。

1991年に2代目へとバトンタッチされ、革新的な初代はその役割を終えた。

2列目以降のシートは取り外せるため、バンのように荷物をたっぷり積める。

そもそもマトラは、自動車部門こそ小さいが、実は当時のフランスの宇宙産業や兵器産業の巨大コングロマリットの一員だ。

既にF1にも独自モデルで参戦していたし、ル・マン24時間レースでは3連覇を達成。小さいとはいえ、世界的にも最先端な技術力を持っていた。

初代エスパスが今もスペーシーで魅力的な乗り物に見えるのは、マトラが手掛けたからだろう。

残念ながら既にマトラは自動車業界の第一線から退き、初代ルノー エスパスの中古車も極めて少ない。もし良い状態の一台を見つけることができたら、ルノーのように、その幸運を逃さずキャッチしてほしい。

「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
“今”を手軽に楽しむのが中古。“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980〜’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。その頃に作られた車は、今でも立派に使えて、しかも慈しみを覚える名車が数多くあるのだ。上に戻る

籠島康弘=文

※中古車平均価格は編集部調べ。

# エスパス# ミニバン# ルノー
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