2021.03.23
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生産体制を増強し「最大1年」もの納期に対応。「ジムニー」発売2年半を過ぎても絶好調の訳

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好調な販売が続く「ジムニー」(写真:スズキ)
好調な販売が続く「ジムニー」(写真:スズキ)

スズキ「ジムニー」の販売好調が続いている。2018年7月5日に20年ぶりとなるフルモデルチェンジで、4代目となる現行モデルが登場。日本国内向けには軽自動車の「ジムニー」と、1.5リッターエンジンを搭載する「ジムニーシエラ」があるが、ともによく売れている。

ジムニーの2020年12月までの登録台数の推移を見てみると、月2000台前半~3000台中盤をコンスタントに維持していたが、2020年5月の緊急事態宣言が明けた後では、3000台超えが続き、9月には過去最大の4704台を記録している。その後も月販4000台レベルで、順調に推移している状況だ。

この点について、スズキは「ジムニーを生産する(静岡県)湖西工場で、さらなる生産増に向けた生産ラインの一部改良を行ったこともあり、生産台数が増え、直近での登録(届け出)車数も増えた」と説明する。

また、ジムニーシエラのほうも、2020年7月に過去最高の2099台(前年同月比337.5%)と好調で、販売台数ランキングでは28位にランクイン。これは。マツダの全SUV(CX-3、CX-30、CX-5、CX-8)を上回る順位だ。(日本自動車販売協会連合会調べ)

通年(2020年1~12月)では1万6603台(153.3%)となり、スズキ「クロスビー」、スバル「レヴォーグ」、そして日産「リーフ」よりも上位の39位につけている。

1.5リッターエンジンを積み登録車となる「ジムニーシエラ」(写真:スズキ)

一般的に新型車が発売されると、発売後半年から1年ほどで既存顧客の買換え需要が一巡することで、販売台数は安定から低下へと向かう。こうしたいわゆる“新車効果”と呼ばれるものが、ジムニーには通用しないようなのだ。

その背景には、いったい何があるのだろうか。

唯一無二の商品性

まずは、4代目ジムニーユーザーの内訳から見てみる。購買数が多い、いわゆるボリュームゾーンは、ジムニーでは40~50代の男性、またジムニーシエラではさらに年齢が上がって50~60代の男性だ。

男女比については、ジムニーで約7対3、またジムニーシエラでは約8対2となっており、スズキは「先代モデルと比べて女性ユーザーが増加している」と指摘する。

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購入動機については、「独自のスタイリングと、本格的な4輪駆動性能に惹かれて購入した」という、ジムニーの商品性に直結する言葉が多いというスズキ調べのデータがある。

たしかに、筆者自身も4代目ジムニーを個人的に購入したが、その動機は「外からの見た目、走行性能、そして独自の世界感を生むインテリア」であり、それが最上位グレードに一部のオプションを装着しても200万円を切るというコストパフォーマンスの高さが、購入への気持ちを後押しした。

「ジムニー」のインストルメントパネルまわり(写真:スズキ)

むろん、降雪地域でのいわゆる生活4駆として、また農林業、道路整備・管理、自治体や警察など、業務や執務上での実務車としての需要が、ジムニー人気を下支えしていることは言うまでもないだろう。

また、市場の変化や社会の変化にも踏み込んで、ジムニーが売れる理由を考えてみると、いくつかのキーワードが浮かび上がる。ひとつは「SUVシフト」だ。

SUVは群雄割拠の時代に

2000年代から2010年代にかけて、欧米や中国でセダンからSUVへの買い替え需要が進み、そうしたトレンドが日本でも広がっていった。

トヨタは、小型SUVの「ライズ」と「ヤリスクロス」、中小型SUV「C-HR」、中型オフロード系SUV「RAV4」、中型上質系SUV「ハリアー」、中大型「ランドクルーザープラド」、そして日本での大型「ランドクルーザー」からなるSUVフルラインアップを形成し、さらに2021年は「カローラクロス」を加える予定だ。

2020年7月にタイで発表し「順次、導入国を拡大する」としている「カローラクロス」(写真:トヨタ自動車)

国内シェア約5割を占めるトヨタのSUVシフトは、市場全体の変化をユーザーに印象付けた。軽自動車市場でも、2代目スズキ「ハスラー」やダイハツ「タフト」といったモデルが、新たなる伸びしろとして注目されている。

輸入車では、メルセデス・ベンツやBMWなど、ドイツ車ブランドでのSUVシフトが進む一方で、FCA(1月16日付でステランティス)傘下のブランドであるジープの販売好調が目立つ。ジープは、コンパクトでカジュアルな「レネゲード」や「コンパス」といったモデルもあるが、その主力となるのは本格的4輪駆動車の「ラングラー」だ。

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2020年のジープの販売台数は過去最高の1万3588台で、これは5年前の約2倍、10年前の7倍に相当するが、2023年には販売拠点を現在の82拠点から100拠点とすることで年間販売台数2万台超えを狙う。

ジープとジムニーの販売好調を俯瞰すると、これらふたつの出来事はつながっているように思える。

それが、2つめのキーワード、「ギア」だ。

ジープの主力となる「ラングラー アンリミテッド」(写真:FCAジャパン)

ギアとは高性能な道具を指すが、そこにファッション性を感じられることが重要である。

キャンプ、釣りといったアウトドアやレジャーにおける車中泊など、具体的な目的はいろいろあるが、仮にそうした趣味を持たなくても、ギアを所有すること自体が、日々の生活の中で楽しく、また充実した気持ちを生む。

こうした点で、本格的なオフロード走行の機会が少ない女性ユーザーも、ジープやジムニーの所有欲をかきたてられているのではないだろうか。

まだまだある、ジムニーが売れる理由

さらにもう1点。これは私見だが、「中高年」もキーワードになるのではないかと考えている。中高年の男性の中には、自分が高齢者に近づき、免許返納の現実味が増してくる中で「終(つい)の1台」を考えるようになり、「せっかくならば、思いきり楽しめるクルマを」と、ジープやジムニーに辿り着くケースもある。実際に筆者の周囲でそういう話を何度も聞いている。

そのほかでは、昭和のクルマを懐かしむ「ネオクラシック」ブームもジムニー好調の一助になっているだろう。

2020 日本自動車殿堂「歴史遺産車」に選定された初代「ジムニー」(写真:スズキ)

丸目ヘッドライトのオーソドックスなスタイリングが好まれるムードが出てきており、レジャー用のトランスポーターとしてカスタマイズの需要が高いトヨタ「ハイエース」を丸目ヘッドライトに換装するパーツが人気となっている。

4代目ジムニーのデザインコンセプトが、1970年代に生産された初代ジムニーであり、4代目には丸目ライトだけではなく、クルマ全体としてネオクラシックの雰囲気が漂っているようにも思える。

ジムニーとジムニーシエラの最大の課題、それは“長い納期”だ。

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スズキ販売店では「グレードや色によってもバラつきがあるが、長いもので納期は1年以上」といわれる時期もあったほど。そのため、新車よりも高い中古車も出回った。

前述のように、今春に湖西工場の生産体制一部改良で生産台数が増加傾向にあるが、ここにきてさらなる納期改善が見込めそうなニュースが入ってきた。

スズキは2021年1月20日、インドのマルチ・スズキ社のグルガオン工場で、海外市場向けジムニー(日本のジムニーシエラに相当)の生産を始めたと発表したのだ。

マルチ・スズキ社で生産・輸出する「ジムニー」(写真:スズキ)

これまで海外市場向けジムニーの生産も湖西工場で行ってきたが、主に中南米(ブラジル、メキシコを除く)、中東、アフリカ、アジア等に向けて出荷するクルマをインドで製造するというのである。

2019年1月にジムニーの米澤宏之チーフエンジニアに単独インタビューした際、「インドなど海外での生産計画はない」としていたが、国内外で大量のバックオーダーをかかえるという“うれしい悲鳴”の中で、インドでの生産を決断したことになる。

湖西工場ではジムニーとジムニーシエラのほか、「アルト」「スペーシア」「ワゴンR」「ハスラー」を生産しているが、ジムニーはラダーフレーム構造のため溶接などで、ほかのモデルとは生産工程が若干違う。2020年春のジムニー向け生産体制の一部変更は、インドでの生産開始を視野に入れた発想だった可能性がある。

電動化にはどのように対応するのか?

最後に、ジムニーの商品企画上の今後ついて、考えてみたい。なんといっても気になるのは電動化だ。

経済産業省が2020年12月25日に発表した「グリーン成長戦略」では、軽自動車を含めた電動化実現時期を「遅くとも2030年代中頃」と記載したが、2021年1月開会の通常国会で菅総理は施政方針演説の中で「2035年までに新車の電動化100%」と明言した。

ジムニーとジムニーシエラは、2035年までのどの時点で電動化シフトを完了させるのか。それが、5代目登場の条件となるのだろうか。ジムニーの進化を、これからもしっかりと見守っていきたい。

 

桃田 健史:ジャーナリスト
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記事提供:東洋経済ONLINE

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