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2019.03.27

ボルボとフォルクスワーゲンの傑作に見る、長く愛し続けられる車の条件

[左]フォルクスワーゲン ティグアン、[右]ボルボ V60
クルマにとって「いいデザイン」とは何か? もちろん人それぞれ好みはある。しかし、普遍的な美しさを持つクルマは、乗る人をセンス良く映し出す。
機能的で飽きのこない、長く愛されるドイツと北欧のクルマは、一見地味で華やかさとは対極に位置するように見えるが、間違いなくいいデザインだ。オーシャンズ読者なら、きっとこのセンス、わかるはず。
 

【スカンジナビアンデザイン代表】
VOLVO V60 ボルボ V60

スカンジナビアンデザイン代表 VOLVO V60 ボルボ V60
ボディサイズ:全長4760×全幅1850×全高1435mm
燃費:12.9km/L(JC08モード燃費)
総排気量:1968cc 乗車定員:5名
価格:499万円〜
昨年秋にリリースされた2代目。グラマラスなフォルムのボディを持つ傾向にある昨今のクルマに反して、V60はフェンダーアーチすらむやみに膨らんでおらず、かなりフラットに近い。ハッタリをきかせず機能前提で設計したことがうかがえる、誰しもが好ましいと感じる形だろう。
ロー&ロングな過去のボルボ製ステーションワゴンに近いフォルム/ボルボ V60
先代より全長が125mmプラスされた一方、全幅がマイナス15mm、全高がマイナス45mmとなり、ロー&ロングな過去のボルボ製ステーションワゴンに近いフォルムに戻った印象。ボルボ広報によると「従来のボルボのイメージをこのクルマで復活させたい」とのことだ。
 

気取らずナチュラルが、ボルボの流儀
タッチスクリーン式センターディスプレイやメタル仕上げのルーバーを縦に配置した特徴的なエアベントなど、V90の意匠をしっかりと受け継いでいるV60のインテリア。特に好感が持てるのが、マットな素材を用いることで生まれた、落ち着きのある色合い。
クルマ
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一見、後席のシート形状はフラットなのだが、座ってみると滑らかなレザーが身体を優しく支えてくれる。
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後席を起こしている状態でも最大529Lの容量が確保されている荷室。
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ボディカラーは、V60で初採用され自然から着想を得たバーチライトメタリック。
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人と自然に優しいスカンジナビアンデザイン。その理念に立ち戻ったボルボ

スカンジナビアンデザインを代表する建築家、デザイナーにアルヴァ・アアルトという偉大な人物がいる。アアルトが最も重要視していたのは、人に優しいものをつくるということ。自然から生まれた素材を採用し、森などの自然環境と建築の外部、内部までの連続性をアアルトは常に意識していた。
写真はアアルトの実際の住まいである。窓から気持ちいい自然光が差し込まれ、落ち着いた色合いのシンプルな家具類にはウッドがふんだんに使われている。環境に馴染むデザイン、触ってみるとすぐに伝わってくるつくりの良さ。近年のボルボはモダンでシャープになったが、特にそのようなスカンジナビアンデザインの理念を強く反映させているように思えるのだ。
 

【ジャーマンデザイン代表】
VOLKSWAGEN TIGUAN フォルクスワーゲン ティグアン

ジャーマンデザイン代表 VOLKSWAGEN TIGUAN フォルクスワーゲン ティグアン
ボディサイズ:全長4500×全幅1840×全高1675mm
燃費:17.2km/L(JC08モード燃費)
総排気量:1968cc 乗車定員:5名
価格:408万6000円〜
昨年、ターボディーゼルエンジン搭載モデルが仲間入りした2代目。誕生時から、兄貴分のトゥアレグの陰に隠れていて、目立たないクルマではあるが、その実力は申し分なし。“影の実力車”という意味では、フォルクスワーゲンというブランドのイメージに最も近い存在か!?
あえて特徴をなくしたとも考えられる、典型的な都市型SUVのボディフォルムを持つティグアンのリア&サイドビュー。/フォルクスワーゲン ティグアン
あえて特徴をなくしたとも考えられる、典型的な都市型SUVのボディフォルムを持つティグアンのリア&サイドビュー。リアライトからフロントフェンダー近くまで結ばれた水平のキャラクターラインからは、フォルクスワーゲンの一本気な姿勢が感じられる。

つくりは地味でも、使い勝手と走行性能は申し分なし
余計なボタンなどがなく、必要なものだけが表に出ているコックピット。初見でもわかりやすいつくりになっている点がポイント。
クルマ
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後席も限りなくシンプルなデザインにまとめられている。
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ティグアンの荷室は通常時で615L、後席を倒せば1655Lまで広げることが可能。十二分の荷室容量が確保されている。
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1750rpmという低回転域から最大トルク340Nmを発生するディーゼルエンジンと4WDの組み合わせを選べば、コンパクトSUVならではの軽快さだけでなくトルクフルな走りも楽しめる。
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バウハウスの考えがあったからこそ、フォルクスワーゲンはあくまで大衆的なのだ

機能的なものを多くの人が使えるようにするという、現代のデザインにおける根本的な考え方を20世紀の初頭に提唱していたのが、言わずと知れたドイツの教育機関、バウハウスだった。それまでのヨーロッパでは装飾的かつ豪華な工芸品が重んじられていたが、戦争を機に価値観が変わり、人びとは物事に対して合理性を求めるようになる。
バウハウスのつくり出す水平/垂直基調の建築などは、今でこそモダンデザインの象徴、純粋に格好良いと評価されているが、ローコストであることも大きな条件とされていた。1930年代の後半、軍用車メーカーとして誕生したフォルクスワーゲンにバウハウス的な考え方が息づいていることは間違いないといえる。
 
清水将之(mili)=写真 大隅祐輔=編集・文


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