OCEANS

SHARE

2018.07.21

運転の未来予想図。我々は疲れる運転からどれだけ開放される?


Quality 0f CAR LIFE向上委員会
何人乗りか、積載量はどれだけか。「乗る」 量はクルマのひとつの価値ではあるけど、何よりもまず、 乗らなきゃいけないのはキブンじゃないのか? キブンが乗るクルマはいいクルマ。そんなクルマ選びを、モータージャーナリストの島下泰久さんと突き詰める。高めよ! Quality of CAR LIFE
>その他の「Quality 0f CAR LIFE向上委員会」の記事はコチラ
近くの大型スーパーから行楽地へのお出かけや旅行まで、休日のオトーチャンの大事なお仕事と言えば「運転」。ロングドライブともなるとかなりの体力を削られ、行列の駐車場を前にひとりクルマに置き去り……なんてことも。
「運転は好きだが、これはできるなら誰かに代わってほしい!」というオトーチャンの痛切な想いはよくわかる。
そこで今、未来の技術として最も注目されているのが「自動運転」。アメリカではグーグルやテスラが、日本でもトヨタや日産、ホンダなど主要メーカーよる実証実験が始まっている。。
現状どんな自動運転が実用化され、この先どんな未来が待っているのかを知るべく、島下さんに聞いた。

 

完全自動運転はまだまだ先? 今は5段階中の“レベル2”

そもそもひと言で「自動運転」といっても下記の5つの段階に分けられる。
レベル1:ハンドル操作か加減速のいずれかをシステムが行い運転を支援する。
レベル2:ハンドル操作と加減速を連携してシステムが運転を支援する。
レベル3:特定の場所ですべての操作をシステムが行う。緊急時はドライバーが操作。
レベル4:特定の場所で、緊急時も含めすべての操作を完全にシステムが行う。
レベル5:あらゆる状況で操作を完全にシステムが行う。ハンドルやアクセルも不要。
「現状日本で市販化されているのは、レベル2までのクルマです。ドイツではアウディがレベル3のクルマを発表していますが、日本ではまだ『特定の場所』の環境が整っていませんから、しばらくはレベル2のままでしょう」と島下さん。
日産の「リーフ」に搭載されている「プロパイロット」は、高速道路で先行車と一定の車間距離を保ちながら車線中央をキープして走行。自動運転のレベル2にあたる。
となると、レベル5の、完全自動運転の時代はいつ頃になるのだろうか?
「そう簡単には来ないと思います。技術の進歩が遅れているとか、インフラの整備が間に合わないといったことが理由ではありません。まず倫理的な問題を解決する必要があるからです」。
「倫理的な問題」とは例えばこうだ。狭い道路を運転していて、十字路でいきなり右から某国の大統領が、左から妊婦が飛び出してきたとする。どんなに優れた自動ブレーキでも十字路までには止まれない。つまりどちらかを犠牲にするしかない状況になった場合、システムはどちらを選べばいいのか?
「ハンドルをさらに切って自分が手前の建物に突っ込んでふたりとも助けるという選択もあるでしょう。しかしそれではシステムに『じゃあアナタが死んでください』と言われるのと同じこと。この問題に対する答えは誰かが決めることはできないし、計算で答えが出ることもありません。じゃあどうするの? ということなのです」。
こうした倫理的な問題の解決策を見つけない限り、レベル5は難しい。どうやらクルマでお酒を飲みに出かけて、乗って帰ってこられる時代は、当分先の話となりそうだ。
 

現状のレベル2でも、まだまだ運転をラクをできる余地はある

自動運転のレベルの話に戻ると、レベル2まではあくまでシステムはサポート役で、運転はドライバーが行う。それに対しレベル3以上はシステムが運転を行うという違いがある。
しかし「ドライバーが運転するレベル2でもかなり運転が楽になります。これまではハンドルやアクセル操作は常にドライバーが行ってきました。しかしレベル2なら、高速道路では自動で前のクルマについていってくれるし、アクセルやハンドル操作も必要ありません」と島下さんは言う。
さらにレベル2でももっと進化が必要な部分がたくさんあるという。「例えば『車線をはみ出さずに走る』といっても、人によって、自分の感覚よりクルマが右や左に寄っていると怖さを感じる人もいるでしょう。自動ブレーキだってドライバーが『オレ、ここまで我慢しないよ!』っていうギリギリまで作動しなかったりすると、使いたいと思うでしょうか?」。
あるいは霧でドライバーには先がまったく見えないけれど、システムにはセンサーで先が見えるからクルマがどんどん進もうとする場合。ドライバーは先が見えないのにクルマがスピードを落としてくれないと「おいおい、ちょっと待ってくれ」となるだろう。
「そういう感覚的な部分の調整を考えても、サポート役としてシステムがドライバーを快適にできる部分はまだまだあると思います。レベル2をもっともっと極めていけば、レベル5の自動運転にこだわらずとも、人間をもっとラクにしてくれるはずです」。
 

クルマの役割を変える「AI」や「コネクティビティ」技術

実用化され始めた自動運転技術と同様、クルマの未来を変えそうなのが「AI」や「コネクティビティ」技術だ。
先日ドイツで発表されたメルセデス・ベンツの新型Aクラスには、ついに「AI」が搭載された。同車の「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」は、話題のグーグルやAmazonのAIスピーカーと同様、話しかけると音楽をかけたりエアコンの温度を調整してくれるのだ。
「『ヘイ、メルセデス』と話しかけてから、『暑いんだけど』と言えばエアコンが温度を下げてくれます。また『明日はサングラスいるかな?』と尋ねたら『明日は晴れるので必要ですよ』なんて返してくれます」。
メルセデス・ベンツの新型Aクラス。MBUXの日本語対応は現在開発中で、その完成後に日本へ導入される予定。
一方インターネットを介してクルマとコンピュータやクルマ同士を繋ぐ「コネクティビティ」技術はすでにかなり開発が進んでいる。
「東日本大震災のときにホンダが『通行可能な道』を公表しましたよね。あれもコネクティビティ技術によるひとつの成果です。同社のクルマに搭載された「インターナビ」からの走行情報を集めて、クルマが通れる道をいち早く発表し、被災地への支援に大いに役立ちました」。
そのほか車載通信機をつうじて、クルマが故障したり事故が発生した場合にクルマの状況を読み取り、自動で専用コールセンターと通話ができるシステムなどが既に実用化されている。また、交通情報とクルマを繋いで、先の信号が赤になると予想される場合、ドライバーへ早めのブレーキを促すサービスもすでに存在している。
トヨタのコネクティッドカー向け情報インフラ「モビリティサービス・プラットフォーム」。6月に発表されたクラウンとカローラスポーツからまず提供が始まった。(図:トヨタ自動車)
こうしたAIやコネクティビティの技術がさらに進むと、どんな未来が待っているのだろう。
「例えばクルマが、サーバーやその先にあるAIとつながると、見えない先の交差点で事故の速報があれば、その交差点の手前で止まったり、瞬時に別ルートへの変更を促してくれるでしょう」。
ほかにも信号とクルマが連動すれば、自車以外誰もいない信号で止まらず進めるようになったり、渋滞にならないよう各車の連携を図ったりなど、今まで以上にドライブが快適になるのは間違いない。
 

近い将来、クルマメーカーは“サービス業”に変わる!?

自動運転にAI、コネクティビティ……。これまでにない多彩な技術への対応が最も求められるのはクルマメーカーだ。しかし一方で、最近は「クルマを持たない」カーシェアリングが人気となれば、クルマメーカーにとっては大変な時代に突入するのではないか。
「カーシェアリングでクルマが売れないと思うかもしれませんが、そうではありません。個人所有のクルマと比べ、カーシェアリングのクルマは毎日のように乗られるわけですから、個人所有よりも走行距離が早く延び、買い換え時期が早まります。そうすればクルマは売れ続けますよね」。
そもそもドイツではBMWをはじめ、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンが自らカーシェアリング事業を展開している。カーシェアリング事業による買い替え需要だけでなく、BMWなら同社の掲げる「駆け抜ける歓び」は乗ってもらってこそわかってもらえる、という試乗的な狙いもあるというのだ。
「クルマメーカーはもうクルマを売ったら終わり、という時代ではありません。移動したい人に、さまざまな移動手段や移動を快適に楽しくするサービスを提供する。そんなモビリティサービス業になっていくと思います」。
 

我々はクルマで何がしたいのか? が問われる時代

自動運転やAIなどの技術も、カーシェアリングやコネクティビティ技術を使ったサービスなども出現し、これまで「乗って移動する」ための道具だったクルマでさまざまなことができるようになってきている。「こうなると、使う側に“何をしたいか?” が問われる時代」だと島下さんは言う。
「つまり、未来のクルマのカタチを決めるのは誰か? といえば、クルマメーカーではなく、使い手である僕らなんです。僕たちは何ができると楽しいのか? どんなことをやってみたいのか? そういったみんなの声が未来のクルマを決めるのだと思います」。
未来のクルマはボクらが決める。「それをカタチにできる技術やサービスはどんどん実現しています。だから『こうしたい!』という声が実現をしてしまう時代」と島下さん。
 
ナイトライダーか、マッハGO GO GOか、攻殻機動隊か。自らの欲望のままに思いきり妄想してみたら、それが未来の“当たり前”になっているかも……そんなことを考えながらハンドルを握ると、フロントガラス越しの視界も、昨日より少しだけ広く感じそうだ。
■話を聞いた人

島下泰久さん●モータージャーナリスト。1972年神奈川県生まれのオーシャンズ世代。『間違いだらけのクルマ選び』の著者。性能、車種、最新技術からブランド論まで、クルマ周りのあらゆるジャンルをカバーする。歯に衣着せぬ物言いにも“定評”があるクルマのオーソリティ。
ぴえいる=取材・文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。