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2024.03.27

ライフ

「部下のSNS投稿が最近危なっかしい」そのとき試される上司のマネジメント力とは


 「モヤモヤ り〜だぁ〜ず」とは……

本日の相談者:食品メーカー・42歳
「私の部下は、就職前からYouTubeやTikTokのショート動画が人気のインフルエンサーで、その影響力が考慮されて入社した経緯があります。

そのおかげで新商品がバズったり、PR動画が拡散されたりしたのですが、最近の投稿が企業秘密や倫理的な問題に触れるのではないかとヒヤヒヤしています。どう対処すれば良いでしょうか」。
アドバイスしてくれるのは……
そわっち(曽和利光さん)
1971年生まれ。人材研究所代表取締役社長。リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスにて人事・採用部門の責任者を務めてきた、その道のプロフェッショナル。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(共著・星海社新書)ほか。

SNSを全面禁止することはできないが

日本国憲法には第21条に「表現の自由」がありますので、社員のSNSでの活動を理由なく制限や禁止することは憚られます。

使用禁止命令でなくとも、SNSのアカウントやIDを会社に届け出をさせるといった制度も、プライベートへの過干渉として社員との間で争いになる可能性があります。

一方で労働者には、労働契約に付随する義務として、使用者の名誉や信用を毀損して不当な損害を与えてはならない誠実義務や忠実義務というものがあります。しかも、これは勤務時間や職場の内外を問いません。

このことから、SNSの私的な投稿においても、会社に損害を与えること(投稿すること自体ではなく)を禁止して、違反した場合には懲戒等の処分を与えることは可能です。


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懲戒ルールを定めることは可能



ただ、その場合にも、丁寧な対応が必要です。それは「就業規則」「ガイドライン」「従業員教育」「誓約書」の4点セットです。

まず働く人にとっての基本規定である就業規則において、社内外で会社に損害を与えることを禁止し、背いた場合は懲戒の対象となる旨の条項をいれておく必要があります。

その上で、「SNSガイドライン」「ソーシャルメディアポリシー」などの名称で、「このようなSNSやメディアにおいて、これこれこういう類の行為を行わないこと」「会社に損害を与えるような行為を行わないこと」というような詳細のルール設定も行います。

そしてこれらのルールを周知するために従業員教育を行い、最後にその内容に関して「誓約書」を書いてもらうという流れです。


「北風と太陽」の「北風」施策だけでは不足

このような「事後」の罰則をきちんと制定することで、ある程度はSNSで会社に損害を与える行為を予防することにはなるでしょう。

しかし、です。SNSでインフルエンサーになるほどの影響力を持ち、承認欲求を満たされたことによって、少し調子に乗ってしまった人が、過激なことをしてしまい、つい問題を起こしてしまうことはありうると思います。

これは罰則を作ったからといって防げるわけではありません。「北風と太陽」の寓話のように、ルールという「北風」でインフルエンサー社員を動かそうとしても、徒労に終わるかもしれません。

事が起こってしまった後で、どれだけ社員を罰しても、損害は元には戻りません。ですから「太陽」の施策がないのかどうか考えてみましょう。


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「お天道様は見ている」作戦



ひとつの方法は、「みんなで見守る」ということです。そもそも日本人は同調圧力が強く、周囲の人がどう思うかは気になるものです。

インフルエンサー社員のアカウントを、できるだけ多くの幹部や社員がフォローして、たまに「投稿見てますよ」「あれは面白かったね」等々、声をかけてあげてはどうでしょうか。

自分の声が、自社の同僚や幹部にも届いていることがわかったら、その目をある程度は気にして、問題行動や発言をしないようにセーブするかもしれません。

まさに「お天道様は見ている」状態にするのです。かなりキモい手法だとは思いますが(自分もされたら嫌です)、危なっかしい状態にあるのであれば、インフルエンサー社員個人のためにも、見守ってあげることは必要なのではないでしょうか。


「SNS改革の先頭に立ってもらう」作戦

もうひとつの方法は、そのインフルエンサー社員をSNS対策担当に巻き込んでしまうことです。

インフルエンサーになるレベルなのですから、SNSについては社員の誰よりも詳しいはずです。そう考えれば、自社のSNS対策担当として最も適任なのではないでしょうか。

元ハッカーを雇ってハッキングの対策をするようなものです。最も変わって欲しい人に、改革の先頭に立ってもらうというのは、実は組織改革においては常套手段でもあります。

いちばんのうるさ方を巻き込まずに変革をするのは危険です。敵対者になりそうな人、いろいろうるさいことを言ってきそうな人をまず巻き込んでしまい、むしろ旗振りをやってもらえば、自分のやっていることに対して自分で背く人はなかなかいません。


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自分より優秀な若者をいかにマネジメントできるかが試されている

最後にですが、本当の本当で申し上げますと、上述のような面倒くさいことなどせずに、「最近の投稿が目に余る」と思うのであれば、面と向かってそう言えばよいのではないでしょうか。

おそらく察するに、インフルエンサーというある種のパワーを持った部下に対して、相談者は物怖じしてしまっているのでしょう。インフルエンサーしかり、データサイエンティストしかり、ITエンジニアしかり、上司世代にはわからない領域でずば抜けた実績を出している若者に、モノを言いにくいという気持ちはわかります。

しかし、そこは上司としてはストレートに行きたいものです。上司は部下より優秀でなくてはならない、ということはありません。

むしろ、自分より優秀な部下をどれだけマネジメントできるかどうかが、これからの時代は試されているのだと思います。
グラフィックファシリテーター®やまざきゆにこ=イラスト・監修
曽和利光さんとリクルート時代の同期。組織のモヤモヤを描き続けて、ありたい未来を絵筆で支援した数は400超。www.graphic-facilitation.jp
曽和さんの新刊紹介


(左)『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』 WAVE出版 1650円、(右)『シン報連相 一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』クロスメディア・パブリッシング(インプレス) 1628円。


曽和利光=文

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