
トップランナーがゴールテープを切る華やかな瞬間の裏で、最後尾のランナーの背後をゴミ収集車が追走する。その光景を知る人はほとんどいないだろう。
毎年約2万6千人が参加する「湘南国際マラソン」もかつては1万kg以上のゴミ排出量に悩まされる大会だったが、いまでは最もサステナブルな大会へと変貌を遂げている。
実現までに乗り越えたハードルと、取り組みの先にある新たな可能性に迫る。
【写真12点】「世界初のマイボトルランを実現。「湘南国際マラソン」でザ・ノース・フェイスが目指す環境配慮の新境地」の詳細写真をチェック最後尾のランナーを追走する13台のゴミ収集車とボランティア

株式会社ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業部長 後藤太志さん●アウトドアから都市生活までを繋ぐプロダクト戦略を率いる傍ら、自身もフルマラソンを走る。ランナー視点とものづくりの哲学から、湘南国際マラソンの「マイボトルラン」構想を実現へと導いた。
「マラソン大会ほど環境や人に負担をかけているスポーツはないかもしれません」。
ザ・ノース・フェイス事業部長の後藤太志さんは、2020年、同社が「湘南国際マラソン」のスペシャルスポンサーに就任した際、大会からすべての使い捨て紙カップとペットボトルをなくす「マイボトルラン」を提案し、実現へと導いた人物だ。
「大会の視察に行った時に目にした光景に衝撃を受けたんです。沿道に散乱する紙やプラスチックのカップ、エイドステーションに積み上がったゴミの山。最後尾のランナーの後ろを13台のゴミ収集車が走り、ボランティア活動の中でも、ゴミ清掃は大きな割合を占めているとも聞きました。僕自身、年に2回はフルマラソンを走る立場ですが、自分の好きなスポーツがこんなにも環境や人に負荷をかけているのかとショックでしたね」。
使い捨てカップが捨てられた旧来の給水所。こぼれたスポーツ飲料による路面のベタつきも大会が抱える長年の課題だった。
冬のレースで見られる使い捨てレインコート。寒さをしのいだ後に沿道へ脱ぎ捨てられ、ゴミの山と化す。
“エコ”が叫ばれて久しい。大会の実態に違和感を覚えた後藤さんは迷わず、使い捨てカップやペットボトルの使用ゼロを事務局に提案した。
だが、返ってきたのは「不可能だ」という否定的な反応だった。約42kmを走るフルマラソンにおいて準備される水は50トン規模で、ランナーにとって水への容易なアクセスは命にかかわるライフラインだからだ。
前例のない変更への懸念は根強かったが、後藤さんは後に引かなかった。
「トレイルランニングをはじめとするアウトドアスポーツでは、水を持参するのは当たり前で、自分のことは自分で管理するのが基本的なルールです。その常識を大会に持ち込めないか。そう考え、ソフトボトルの導入を提案しました」。


ソフトボトルとは、しなやかな弾力性を持つ素材で作られた携行用の水筒だが、丸めたり折ったりすればショーツのポケットなどに簡単に収まる。ランナー各自がこれに200ml程度の水分を入れて携帯し、空になったらコース上のステーションで給水すれば、使い捨てカップが不要になる計算だ。

「湘南国際マラソンはもともと環境負荷低減に向けた取り組みを行っていましたが、それでも大量に発生するゴミとその処理コストは長年の課題だったんです。最終的には理解を示してくれて、“マイボトルラン”という共通のゴールに向けて走り出せました」。
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