他の時計を使っても、結局ここへ戻ってくる
とはいえ、四半世紀以上この一本だけを使い続けてきたわけではない。
「アップルウォッチにハマった時期もありました。機械式時計って、オーバーホールでお金も手間もかかりますから」

一時は腕時計そのものを使わなくなった時期も。それでも、しばらくすると再び、引き出しにしまっていたこの一本に手が伸びたという。
「結局、これに戻ってくるんですよね。大人になってから、他のロレックスも手に入れましたが、今は手放しています。不思議なことに、『オイスター ロイヤル』を手放そうと思ったことは一度もないんです」
長い年月を経て、文字盤には焼けが生まれ、ケースには細かな傷が刻まれた。だが、草ヶ谷さんにとって、それは単なる劣化ではない。
「革もそうですけど、使えば色が変わるし、キズもできる。でも、それがその人のものになっていく過程なんですよね。時計も同じだと思っています」
革ベルトは草ヶ谷さん自身が仕立てたもの。一年に一度ほど、新しいベルトへ交換しているという。
「そのときの気分に合わせて、レザーやステッチの色を替えて楽しんでいます。手をかけて時間を重ねるほど、自分だけの一本へと変わっていくのがいいんです」

この時計に戻ってくる理由も、少しずつわかるようになった。
「年齢を重ねて、仕事のやり方も考え方も変わりました。でも、この時計を選んだ10代の頃から変わっていないものもある。人があまり持っていなくて、合理的で、使い込むほどに味わいが出る。どこを取っても、やっぱり僕らしい。僕のことを昔から知っている、気の置けない友達みたいな存在なのかもしれません」
草ヶ谷さんにとって「オイスター ロイヤル」は、自らの感性の原点を映し続ける唯一無二のロレックスなのだ。