
経営難の不動産会社を、わずか5年で営業利益70億円超へ──その劇的な再生を成し遂げたのが、ゴールドマン・サックス、ソフトバンクグループを経て経営者となった帝国不動産代表取締役社長・木本啓紀だ。逆境を成長へと変える、その経営哲学に迫る。
「どこへ行っても、そびえ立つ大きな街路樹が印象的でした。町が成長することまでを考えて、都市づくりがされているのです」
帝国不動産代表取締役社長の木本啓紀(写真。以下、木本)がそう語るのは、父の転勤で少年時代を過ごした英ロンドンでの記憶だ。
父はハイドパーク近くの築150年のフラットを購入した。印象的だったのは、建物が時を重ねるほどに価値を増していく英国特有の住文化だった。そのフラットは今も母が保有し続け、さらに50年の月日を積み重ねている。
「いい家を建てれば長い間使えるし、そこに積み重なる思い出は、何物にも代えられない。家族とその住宅が結びつくことで、より豊かな人生を送ることができるのではないかと思うのです」
住宅が人生を豊かにするという原体験。これが後の木本の決断に、大きな影響を及ぼすことになる。
英国での原体験が瀕死企業の再建を後押し
木本は大学卒業後、ゴールドマン・サックス(GS)へ入社。不良債権投資や企業再生を担当し、18年間にわたって金融の世界で経験を積んだ。
転機は2019年に訪れた。かつての上司を慕って、ビジョン・ファンドを始動していたソフトバンクグループ(SBG)に転身。
そこで木本は、次第に実業への興味を強めていく。
「SBGでは、事業を成長させた人間が評価される。その究極のかたちとして、投資家として資金を出す側ではなく、経営側に回りたいと思うようになりました」
その矢先に出合ったのが、後に帝国不動産となるMDIだった。MDIはレオパレス21創業者の深山祐助が設立した不動産会社で、SBGの下で事業を再建していた。
木本は同年9月、MDIの取締役に就任。
ところが直後に、コロナ禍という未曽有の危機が訪れる。しかし、木本は逆にそれをチャンスととらえる。
「コロナによって、これまでの序列や常識が大きくゆがんだ。その混乱のなかにこそ、大きな機会が眠っているはずだと確信していました。非常に大きなディールを扱っているSBGからしたら、MDIに注力している状況ではない。私が経営を引き受けるチャンスだと思ったのです」
とはいえ、MDIの当時の純損失は70億円を超えていた。先の見えないコロナ禍にあって、その金額はあまりに重かった。
それでも木本の背中を押したのは、ロンドンでの原体験だった。
「パッションをもって取り組むことを前提に考えたとき、住宅事業にコミットしたいと思ったことが決め手でした。働く社員とビジネスモデルの双方に将来性を感じ、この会社にキャリアを懸ける決断をしました」
そうして21年、木本はSBGを退職。退路を断ち、MDIの代表取締役に就任した。
木本がまず行ったのは、SBGとの対話だ。GSでの経験から、木本は「時間の価値」を痛感していた。
どれだけいい会社でも、時間切れになれば再生できない。時間を確保するために、SBGとの交渉を重ねた。
「再建には一定の時間が必要なので、その期間だけは保証してほしいとお願いしました。再建のフェーズを3段階に分け、まずは赤字脱却、その次に成長、最後に投資回収という道筋を立て、了承してもらいました」
実際に再建に取り組むにあたっては、GS時代に培った判断力とアジリティ(機敏性)を武器に、正しいジャッジを積み重ねていった。その最初のフェーズで下した重要な決断が、「プロパティマネジメント(賃貸管理)」事業の強化だ。
「不動産の売買や開発は利益が大きい一方で、リスクも高い。家賃収入や賃貸管理は、利益は小さく見えても、継続的に収益を生み出してくれます。まずはそこを徹底的に強化しました。ここを分厚くすれば、リスクを取れる事業への許容度も上がると考えたのです」
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