超高級分譲住宅の新事業「House of Time」を計画
再建に向けて着手したのは、財務改善だけではない。木本が同様に力を注いだのは、企業文化の刷新だ。
「重視しているのは、社員が『オーナーシップ』をもつことです。私は、他人に言われてやる仕事のつまらなさをよく知っています。だからこそ、各部の本部長に経営の意思決定を委ね、社員が自主的に動く組織へと変えました」
同時に、社員が成果を実感できる環境づくりにも力を入れてきた。
「カルチャーだけでは人はついてきません。会社が成長し、給与が上がることを実感できてはじめて、組織文化にも説得力が生まれます。毎年10%を超える賃上げやストックオプション制度を導入し、社員が会社の成長を自らの成果として享受できる仕組みを整備しました」
さらに木本は22年、アーキテクト・ディベロッパーへの社名変更にともない、経営理念を新たに設定。そのひとつ目は、英国での原体験が基になっている。
「ふつうの集合住宅が、実はいちばんよくできている、となるようにする」
木本がその思いを打ち明ける。
「私たちが手がけているのは、家賃7万〜10万円ほどの物件が中心です。豪華な素材を使うことはできませんが、その制約のなかで、質の高いベーシックなものを届けようという考えでやってきました。この価格帯では、トップクオリティだと自負しています。そして、もうひとつ私たちが大切にしていることは『公共心』です。今建てている物件の耐用年数は、少なくとも50年です。その間、町中に存在し続けるわけですから、その建物が町の風景のなかにどう溶け込んでいくかを常に意識しながらものづくりをしています」
帝国不動産代表取締役社長 木本啓紀。
こうした取り組みにより、業績は急回復。21年の代表取締役就任から5年で営業利益70億円超の企業へと生まれ変わった。
再建フェーズを終えた同社は、次なる成長ステージへ。その象徴が、26年5月の「帝国不動産」への社名変更だった。
「このメンバーと共に会社を成長させ続けたい。そのために、株式公開を目指しています。上場すれば永続企業となり、社会の公器となります。日本を代表する企業として社会に認知されることを願い、力強さを想起する『帝国』を社名にしました」
上場を見据える木本は、M&A戦略を加速させ、建設機能の拡充も図っている。
社員約900人のうち約260人が建設関係の人材であり、業界の人手不足が深刻化するなか、自社で建設できる体制を整えている。
そうした強みを生かし、新たな事業にも着手している。それは、富裕層向けの超高級分譲住宅「House of Time」だ。
富裕層向けの超高級分譲住宅「House of Time」。
「日本では、ハイエンドの一戸建て住宅がまだ多くありません。一方で注文住宅は、その人の好みに特化しすぎるため、200年続くような住宅にはなりにくい。住み手が代わりながら、長く住み継がれる家には、誰が住んでも心地よく、時代を超えて価値を保つ品質が求められます。私たちが目指すのは“究極のベーシック”。東京都内の一等地に、延べ床面積800㎡ほどのグローバルスタンダードを備えた高級住宅を建設したいとも考えています。日本の素晴らしい住宅地を残していきたいのです」
少年時代に英国で出合った「住まいは時間とともに価値を育む」という思想が今、日本に新たな風景を描こうとしている。
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帝国不動産
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きもと・ひろき◎ 帝国不動産代表取締役社長。ゴールドマン・サックス証券で18年間、企業・不動産投資などに従事。ソフトバンクグループを経て、2019年にMDI(現・帝国不動産)取締役に就任。2021年に代表取締役CEO、2025年7月より現職。