北海道ラーメンの代名詞的存在「札幌味噌」
真っ先に挙げられるのが、全国でもトップクラスの知名度を誇る「札幌味噌ラーメン」。名店「味の三平」の創業者によって1954年に生み出され、札幌という土地の記憶そのものを形づくる、北海道におけるラーメンの代名詞的存在だ。
中華鍋の熱気の中で炒めた野菜から立ち上がる香気が、味噌の深いコクと溶け合い、鼻腔を心地良く揺さぶる。舌が痺れるほどの熱がこもるスープも、寒気の残る身体を芯から解きほぐす。まさに、長い冬と向き合う北の地の環境が生み出した合理の結晶だと言える。
その味わいは、やがて札幌を代表する食文化となり、札幌ラーメンシーンに確かな原点を刻んだ。

もっとも、現在の札幌ラーメンシーンについては、「札幌味噌」の誕生から70余年の歳月を経ており、札幌味噌の単色で語り尽くすことはできない。札幌味噌の伝統を大樹の幹としながらも、多種多様なジャンルのラーメンが併存し、独自の進化を遂げている。これが、現在における札幌ラーメンシーンの実像だ。
近年、特に存在感を高めているのが、淡麗系、煮干し系、濃厚動物魚介系に代表される新たな潮流である。例えば、「支那そば 鋳」や「コクミンショクドウ」が磨き上げる繊細な清湯スープ、「麺鍾馗」が追い求める煮干しの力強いうま味、淡麗・煮干しの双方の要素を合わせ持つ1杯を繰り出す「RAMEN RS改」。
そして、動物系のコクと魚介の香味が絶妙に溶け合う「麺屋 髙橋」のつけ麺。そこには、かつての札幌ラーメンという言葉から連想される世界とは似て非なる価値基準が息づく。
「雨は、やさしく」のように、ラーメンという料理の可能性そのものを押し広げる店も現れた。伝統の厚みだけでなく、その輪郭を書き換えようとする創造性もまたこの街の魅力を支えている。
時間の移ろいに応じてさまざまな表情を見せるのも、札幌ラーメンシーンの特筆すべき特長だ。夜が更ければ、煌々と点る「すすきの」の灯りの下、食は街の風景の一部へと溶け込んでいく。そんなすすきのの店舗群の中で、今、最も高い人気を誇る店舗のひとつが「いそのかづお」だ。漆黒に輝くスープをすすり上げる度に、眠らない街の時間を掬い取るかのような感覚に襲われる。
札幌味噌という揺るぎない原点があり、その上に淡麗、煮干し、濃厚動物魚介といった多彩な潮流が枝葉のように広がる。また、すすきのの夜に象徴される独自の食文化が、その多様性に更なる奥行きを与えている。
札幌ラーメンシーンの本質は、さまざまなジャンルのラーメンが共存し、ときに影響を与え合う、懐深さにある。
今回は、そんな札幌のラーメン店の中から、4軒を取り上げたが、いずれも札幌ラーメンシーンの「今」を語る上で欠かすことのできない実力店だ。
札幌を訪れる際にはぜひ時間に余裕を持ち、このような文脈を意識しながら店巡りを楽しんでいただきたい。各々の店舗が繰り出す1杯の背後には、北海道開拓の歴史、店主の歩み、そして北国ならではの食文化が脈々と息づく。ラーメンを媒介に、それらを丁寧に読み解くことが、札幌という街をもう一歩深く知るきっかけとなるはずだ。
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