「CT直前はワクワクが止まらない。10年という経験値の賜物です」
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世界最高峰のプロツアー「チャンピオンシップツアー(CT)」の初参戦から10年連続出場。11年目となるスタートを1週間後に控えたこの日、現在の心境についてたずねると「ワクワクが止まらないです」と語る。その高揚した口調から、心底楽しみにしている様子が伝わる。
「この時期は、初出場のときのように興奮している日もあれば、何十回も経験しているベテランのように落ち着いているときもありますが、おおむね幸せな感情で満たされています。最初はわからないことばかりで不安でしたが、この10年で経験値が上がったぶん、今はポジティブな感情しかありません。楽しむことができれば、結果はおのずとついてきますから」。
年間を通し世界各地でサーフィンの大会に出場する傍ら、大学院で経営学を学ぶなど、カノアさんは常に時間と闘っている。この日の取材時間も残りわずかとなったところで、もし1日が2時間増えたら何がしたいかを訊いた。「2時間は中途半端ですね」と苦笑いしつつ語ったのは、家族や仲間について。
「電話やオンラインで、世界中にいる大事な人たちとつながる時間にしたいですね。特に家族とは毎日連絡をとるほど大事な存在ですし、ウェルネスな営みを送るには不可欠。サーファーとしてはもちろん、生きるうえでの原動力になっています」。

世界トップクラスのサーファーでありハーバード大学院に通うインテリ、爽やかな好青年で気遣いのできる穏やかな性格、そして家族を大事にする愛情深い人柄……。カノアさんはOCEANSが掲げる理想の男性像、というかそれ以上のジェントルマン。平たくいうと弱点が見つからないのだ。
ひがみにも近いその思いを吐露すると「いやいや、そんなのいっぱいありますよ」と、大仰に首を横に振りつつバツが悪そうに口を開く。
「世界中を回っていれば、各地を象徴するような食べ物に出会うチャンスが多くありますが、初めてのものがどうしても口にできないんです。食べることに対してチャレンジャーになれないといいますか。例えば『CT』はオーストラリアで開催されるので、そのたびにカンガルー肉の料理に挑戦しようとは思うのですが、どうしても無理で……(笑)」。
拍子抜けするほどの微笑ましい弱点を聞き、思わず肩の力が抜ける。心身ともに整ってはいるが、完成されすぎていない。完璧に見える五十嵐さんにも、こんな素朴な一面がある。だからこそ彼は、世界を舞台に戦いながらもその距離はどこまでも近く、仲間から愛される存在となっているのだろう。
五十嵐カノア●1997年生まれ。アメリカ・カリフォルニア州出身。幼少期から頭角を現し、世界最高峰のプロツアー「チャンピオンシップツアー(CT)」で活躍。東京五輪では銀メダルを獲得。日本サーフィン界を牽引する存在となっている。
OCEANS7月「Wellness is Wealth」号から抜粋。さらに読むなら本誌をチェック!